底なき沼
「――くそぉっ!」
イービルアイの巨眼から無慈悲にもレーザーが放たれる。
二体とも態勢を崩したニアへ向けて。
柊吾はバーニアを全開で飛び出し、間一髪でニアとレーザーの間に入ると、アイスシールドで防御。
圧倒的な熱量が氷結の盾を焼く。
「ぐぅぅぅっ!」
「きゃぁっ!」
二体分のレーザーの火力は凄まじく、二人とも押し飛ばされた。
ニアは勢いよく地面へ衝突すると、草むらの上でゴロゴロと転がる。
柊吾は沼へと勢いよく落ち、泥を宙に跳ねさせた。
「しまっ!」
運悪く底なしの泥沼だ。
墜落の衝撃で瞬く間に沈むが、足を真下へ向けブーツのバーニアを噴射しなんとか上昇しようとする。
泥の粘性が強く、抜け出すまで時間がかかりそうだ。
もちろんそれを見逃す敵ではない。
――キシェェェッ!
アラクネの一体が奇声を上げ、底なし沼から抜け出そうとしている柊吾目掛けて走りだした。鋭く尖った八本の足で地面を抉りながら猛スピードで接近してくる。
そのまま柊吾を串刺しにするつもりだ。
「お兄様!」
メイがトライデントアイに光を収束させる。しかし遠い。
岩の影にいる今のメイの位置から、走るアラクネへレーザーを当てるのは困難。下手したら柊吾に当たりかねない。メイは悔しそうに頬を歪め、柊吾の元へ駆け出す。
落下のダメージに顔を歪めながら立ち上がったニアは、急いで飛び上がり柊吾の元へ向かおうとするが、再び白い糸の弾幕が彼女の飛翔を妨げる。
砲弾のような白い糸の束や漁で使う網のような蜘蛛の糸が彼女を捕えようとする。
「邪魔しないでぇ!」
ニアは苛ただしげにアラクネへ向き直ると、目を光らせ口から風のブレスを吐き出す。
それはアラクネの一体に直撃し大きく吹き飛ばした。続けてもう一体。
しかしその一瞬の攻防のうちに、柊吾の危機はすぐそこまで迫っていた。
デュラは一番遠い場所でカトブレパスと戦っていたため、どう足掻いても間に合わない。
万事休す。
柊吾の額に冷や汗が浮かぶ。
しかし柊吾は目前に迫る死を前に、ブーツの噴射を止め静かに目を閉じた。
――ドスドスドスドスッ!
アラクネの荒々しい足音がどんどん大きくなり鼓膜に響く。
対照的に柊吾は落ち着いていた。
噴射を止めたことで徐々に沼へと沈んでいくが、それでも慌てない。
(俺に力を貸してくれ)
己の内に宿る強大な力を感じ取る。
そう、それは『不死の王』が持つ力。
次の瞬間、柊吾は目を見開いた。
「そこだ――」
――ビュイィィィィィンッ!
柊吾の目の前に膨大な熱量を宿した白光が降って来た。
もちろんそれはアラクネに直撃。
「ギィヤァァァァァ」
アラクネはおぞましい悲鳴を上げ、全身が急速に焼けただれていく。
レーザーの照射が終わったとき、アラクネは足を止めてガックリとうなだれ、ピクピクと痙攣していた。
「今だニア!」
「へ? う、うん!」
呆けていたニアは我に返るとすぐに瀕死のアラクネへ接近し、その強靭な爪で切り裂く。すぐに方向転換し、沈みゆく柊吾の手を掴んだ。
そのまま上へ引っ張り上げ、柊吾も再びブーツを噴射し沼から抜け出した。
柊吾の下半身は泥だらけだ。
「なんであの目玉は柊くんを助けたのぉ?」
「それは後で説明するよ。今は目を閉じて!」
柊吾はポーチからフラッシュボムを取り出し、魔物たちが集まっているところへ放り投げた。
地面に落ちた途端フラッシュボムは炸裂し一瞬の後に白光が拡散する。
「みんな撤退だ!」
柊吾はそう叫んでニアの手を離し、腰のバーニアを噴射して後方へ飛ぶ。
デュラが既にカトブレパス二体を倒して退路を開いていたのだ。
そうして四人はなんとか絶体絶命の状況を脱したのだった。
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