覇者の一喝

「――があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 竜巻の内部では暴風が荒れ狂い、風圧によって柊吾の全身が切り刻まれていた。ここでは、重力が何倍にもなったかのように重くのしかかり動けない。

 うずくまる柊吾の前に、アークグリプスがゆっくりと舞い降りる。すぐには攻撃しようとせず、苦しむ柊吾を見下ろしていた。

 やがて、暴風と共に襲い掛かっていた風の乱撃が止んだ。柊吾の全身には、小さな切り傷が数え切れないほどある。


「……まだ、だ……」


 それでも柊吾は立ち上がろうとする。しかし、暴風で体を地面に押し付けられ思うように動けない。

 アークグリプスは戦いの幕を下ろそうと、柊吾の頭上で爪を高くかかげた。


「――クア?」


 アークグリプスが目を見開き硬直する。

 柊吾がゆっくり立ち上がったのだ。激しい暴風をものともせず。

 その理由は柊吾の全身にみなぎる稲妻にあった。

 彼は戦いながらして、ショックオブチャージャーに蓄電していたのだ。魔力消費が早いのも無理はない。

 彼は全身から解き放った稲妻で、押し寄せる暴風を一時的に押し返している。


「……俺はまだ、戦えるぞ」


 柊吾は瞳に闘志の炎を燃やし、ブリッツバスターを両手で握って中段に構えると、アークグリプスを睨みつけた。

 すると、アークグリプスも見事だというように小さく頷く。


「ふっ」


 柊吾は場違いにも思わず笑みをこぼした。相手がまるでデュラみたいだと思ったのだ。

 アークグリプスは柊吾に襲い掛かっていた風を全て、かかげていた爪へ集める。

 全身が軽くなった柊吾は、開放状態の稲妻をブリッツバスターに集める。


「「…………………………」」


 今、お互いの渾身の一撃が激戦に幕を下ろそうとしていた。

 最後の力が激突する、その刹那――


 ――やめよっ!


 咆哮のような威厳ある低い叫びがどこからか轟き、アークグリプスの張った竜巻の防壁を引き裂いた。


「「っ!!」」


 それを聞いた途端、アークグリプスは飛び退き、発生させていた全ての風を消し去った。

 急に視界が晴れ、嵐の後の静寂が場を支配する。


「な、なんだ……」


「柊吾くん!」


 柊吾が混乱していると、外にいたハナが駆け寄って来る。


「ハナっ! 無事か?」


「うん! それより柊吾くん、酷い傷……」


 ハナは仮面を外し、痛ましいものを見るように眉尻を下げた。

 しかし、それはお互いさまだと柊吾は思った。ハナだってたくさんの傷を作っている。

 二人はアークグリプスが臨戦態勢を解いているのを確認すると、アイテムポーチからポーションを取り出し飲み干した。


 ――友よ、客人を我の元まで案内せよ――


 再び声が轟いた。山脈に響き渡り、体の芯まで貫くような力強い声だ。どうやら、山頂の方角から発されている。


「カアァッ!」


 アークグリプスは柊吾たちへ短く叫ぶと、踵を返し山頂へ続く参道へ飛んだ。

すぐに止まって滞空すると、柊吾たちへ横顔を向け、着いて来るように目で語りかけてくる。

 ハナは警戒するように眉を寄せた。


「柊吾くん……」


「とりあえず、行ってみよう」


「うん、分かった」


 柊吾たちは戦いの疲労も癒せぬままアークグリプスに続いた。

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