直撃

「くそっ!」


 先手必勝とばかりに柊吾が真正面から突貫した。それと同時にデュラとハナも走りだす。


「グルァァァッ!」


 接近してきた柊吾の頭上へ、ベヒーモスの角が振り下ろされる。しかし柊吾はサイドへ瞬発噴射し回避。通常なら、それで回避できたはずだった。


 ――バヂンッ!!


 柊吾の頭上から小さな雷が落ち、地面に叩きつけられる。そのまま踏みつぶそうとベヒーモスが左前足を上げるが、横からデュラが跳びかかりランスを突き出す。


 ――バゴンッ!


 前足は柊吾の代わりにデュラを叩き潰し、地面に押し付けた。

 柊吾は動こうとしても雷で体が麻痺し、思うように立てない。

 次に右方向からハナが迫る。しかし太刀の有効な攻撃範囲に入る寸前、ベヒーモスは前足を振るった。


「なに!?」


 ハナが驚愕の声を上げる。届かないのはずの攻撃だった。しかし、ベヒーモスの爪は帯電しており、緑色の刃がレーザーのように伸び、宙を裂く。


「くぅっ!」


 ハナは間一髪、片足で地を蹴り体を逸らすが完全には躱しきれず、


 ――ザシュッ!


 左肩を肩当ごと切り裂かれ、衝撃で後方へ吹き飛ばされた。ハナは勢いよく転がると、鮮血が溢れた肩を抑えうずくまる。

 そして獲物を逃すベヒーモスではなく――


「ガルルルゥ」


 角の前に雷を収束し始める。先ほどレーザーを押し返したものと同じモーションだ。その照準はハナ。


「ハナ! 逃げろ!」


 柊吾が体をピクピクと痙攣させながらも、かろうじて立ち上がり叫ぶ。しかしハナも麻痺し動けない。デュラはベヒーモスに踏みつけられ、メイはまだ倒れている。そして無情にも、稲妻が激しい音を立てながら収束していき、


「くっそぉぉぉ!」


 緑光のレーザーが放たれた。

 ハナにトドメの一撃が刺さる寸前、柊吾がバーニア最大出力でハナへと迫り、彼女を突き飛ばす。目を見開き離れていくハナは、手を伸ばし柊吾へなにかを言おうとしていた。


 ――ズバアァァァァァァァァァァンッ!


 その声は届くことなく雷鳴にかき消された。


「い、嫌ぁぁぁぁぁ!」


 柊吾は全身で高熱量の電撃をもろに食らい、エメラルドの光を放ちながら吹き飛ばされる。

 ハナは彼が散りゆく様を唖然と見届けていたが、駆け寄ることはしない。


「っ!!」


 バッ!と勢いよく前を向く。血まみれの左肩など意に介さず太刀を強く握りしめ、鬼気迫る勢いでベヒーモスへと駆け出した。

 デュラも突然激しく暴れ出し、ベヒーモスの足の下から抜け出した。そして、ただがむしゃらにベヒーモスへ飛び掛かる。


「……お兄、様……」


 メイの麻痺が治ったときには既に遅かった。柊吾は電撃になす術もなく吹き飛ばされ、仲間たちは理性を微塵も残さずベヒーモスに飛び掛かっている。

 メイは震える足で柊吾の元へと歩み寄る。怒りはない。憎しみもない。ただただ悲しかった。


「お兄様……」


 メイが柊吾の体の横に膝を落とし、悲嘆の声を漏らす。

 柊吾の体は至る所から煙が上がっていた。あれほどの熱量の電撃であれば当然か。目をつぶり無防備に脱力している様は穏やかなものだった。

 メイは柊吾の右手を両手で包み、ゆっくりと自分の額に当てた。


「お兄様ぁぁぁっ!」


 メイの慟哭が戦場に響き、涙が荒野に落ちる。そして――

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