魔神クロノクルス
「くそっ……」
柊吾は額に冷汗を浮かべ必死に歯を食いしばるが、体は思うように動かない。
(くっ、せめてゴーストを……)
柊吾はどうにか魂を集めようとするが、感覚が麻痺しているためか思うように不死王の力が発揮できない。背の六つの小型レーザー砲さえ使えればと、力むが思うように集中できない。
鵺はやがて柊吾の前で足を止め、魔獣はおぞましい雄叫びを上げて口を大きく開く。
――グギャオォォォォォンッ!
「お兄様!」
「柊吾!」
メイとヴィンゴールが叫ぶ。
「くっ、そぉ……」
とうとう柊吾が喰われる。
そう思われた次の瞬間、デュラが暴れ出した。
強引に右腕のランスを振り回し、穂先で蛇の胴体やサソリの尾を裂く。
右腕だけでも自由になったデュラは、ランスを逆手持ちにし、鵺へと投擲した。
それは魔獣の側面に直撃し、真っ黒な血飛沫を上げる。
――グギャアァァァァァッ!
魔獣がおぞましい悲鳴を上げて体をうねらせ、鵺自身も顔を激しく歪め後ずさる。
そしてゆっくりとデュラへ顔を向けた。
普段は無機質な瞳には今、憤怒の感情が宿っている。
「貴様ぁ……」
今までより一層低い声を上げ、鵺の全身から蛇、サソリの尾、悪魔の手が新たに飛び出す。
それらは過剰というほどにデュラに巻き付き、体をギリギリと締め上げる。
頑丈な鎧も歪み、今にも潰されそうだ。
「デュラぁっ! 鵺、やめろ! 仲間には手を出すな!」
「ふんっ、そういえば、鎧に魂が定着した存在だったな。ならばその鎧ごと消し炭にしたら、どうなる?」
鵺はゾッとするほど低い声で言うと、外套の内側から左腕を突き出す。
それは以前、柊吾が斬り捨てた、イービルアイの目玉の埋め込まれた腕と同じもの。また多くのイービルを喰らって再生したか。
墨で塗りつぶされたような漆黒の肌からは、やがて花開くように無数の目が開く。その目玉たちが輝き始めた。
「デュラさん! どうにか逃げてぇっ!」
「やめろ! やめてくれ!」
体の動かないメイと柊吾が必死に叫ぶが、鵺は反応しない。
無慈悲にも光は収束を続け、次第に熱風が吹き荒れる。
その圧倒的な熱量は、すぐ近くにいた柊吾にもよく分かる。
これを受ければ、デュラの鎧など跡形もなく消え去ってしまうだろう。
「ぐっ、ぅぅぅぅぅっ」
柊吾はどうにか背のレーザー砲を動かそうと、周囲の魂に干渉する。
怨嗟の声に脳を侵され、気が狂いそうになるがどうにかこらえる。
だがそれでも、思うように動かせない――
「――消え失せろ」
誰の助けが入ることもなく、柊吾は力を発揮することもできず、メイの必死の叫びは届かない。
――ビュイィィィィィンッ!
超高熱量のレーザーはデュラを焼いた。
あまりにも巨大な白い光線は、デュラを拘束している蛇や腕ごと焼いていく。
「っ! デュラぁぁぁぁぁっ!」
デュラの鎧は瞬く間に溶けていき、光の中へ消えていく。
最後に柊吾の方へ左手を伸ばすが、一瞬で消え失せる。
そして、大きな焦げ跡を大地に残し、デュラは文字通り消滅した。
「あ、ぁぁぁ……」
柊吾は上手く言葉が出せなかった。
仲間が殺されるのを目の前で見ることしか出来なかった。
目から大量の涙が溢れ出す。
脳内にはデュラとのたくさんの記憶が蘇り、懐かしく楽しい思い出はすべて、激痛となって柊吾の胸を貫く。
「……デュラ……お前はいつも俺を助けてくれた。なのに俺はっ! なにもできなかった! くっそぉぉぉぉぉっ!」
「そんな……デュラさん……いやぁぁぁっ!」
メイは端正な顔を歪め泣き叫ぶ。
体は未だに縛り上げられたままだ。
鵺は何事もなかったかのように、メイへ顔を向け逡巡する。
「……そういえば、貴様は不死王の力を受け継いでいたな。喰らってやる」
鵺はそう言って、外套の内側から再び魔獣を出した。
デュラに負わされた側面の傷は、完全に再生していた。
メイを縛っている蛇や尾は、彼女を拘束している状態でゆっくりと鵺の方へ移動していく。
「安心しろ。貴様は仲間のように消えることはない。俺の一部として存在し続けることができるのだからな」
そう言って鵺は魔獣の口を大きく開いた。口の端で黒い粘液が糸を引く。
しかしグロテスクな見た目に反して、その奥は真黒でなにも見えない。まるで奈落の底のようだ。
「ひっ」
メイはゆっくりと迫り来る恐怖に頬を引きつらせた。
もう間もなく魔獣の口まで到達する。
だがそのとき、嚇怒を孕ませた低い声上がった――
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