胸騒ぎ

 デュラと合流しカムラへ帰還した柊吾は、紹介所でクエストの完了手続きを済ませる。


「では素材を預かりますね」


 ユリが書類にペンを走らせているうちに、カウンターから回って来たユラとユナへゴム袋を渡す。ユラとユナは柊吾とデュラから素材を受け取ると、カウンターの裏にある倉庫へ運んでいった。

 書類上の手続きを終えたユリが顔を上げ、柊吾へ微笑む。三つ子の中でも落ち着いていてどこか妖艶なユリは、長い金髪がよく似合っている。


「それでは、納品物を依頼主様に確認した後、また追ってご連絡しますので数日ほどお待ちください」


「はい。よろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げたユリへ、柊吾も軽く頭を下げる。

 用の済んだ柊吾がデュラへ目を向けると、彼は倉庫から戻って来たユラとユナに囲まれていた。きゃっきゃうふふと二人にまとわりつかれ、デュラも満更でもなさそうに後頭部をかいている。モテモテだ。


「デュラさんはいつも甲冑なんですか?」


「騎士のように凛々しい佇まいですが、元々は討伐隊におられたんですか?」


 さらに、「ご趣味は?」「好きなタイプは?」と矢継ぎ早に質問が飛び、デュラは首を上下左右に振るので精一杯だ。彼が一言も喋らなくとも二人は気にした様子はなく……というよりも、目を輝かせ「寡黙で素敵……」と好感度を上げるのだった。


「もう、二人とも節操ないわね」


 ユリが呆れたように呟く。いつもは隙のない営業スマイルで本心を微塵も見せないユリが今は、妹たちを見守る姉のような柔らかい表情だった。新鮮な反応だ。もしかしたら、自分たちに親しみを感じてくれているのかもしれないと、柊吾は頬を緩ませる。


「ユラさんとユナさんは、デュラのこと気に入ってくれてるんですね」


「そうなんです。あの装備のビジュアルに心惹かれ、デュラさんの寡黙で威風堂々とした佇まいに憧れを抱いたようで……彼女たちも根は好奇心旺盛な女の子なので、見逃していただけると助かります」


 ユリが申し訳なさそうに微笑むと、柊吾は慌てて「もちろん」と答え安心させる。ただ、少し悔しくも感じていた。あの鎧のデザインを考えたのは自分なのに、と。しかし彼の設計士としての技術は、ひた隠しにしているので仕方のないことだ。

 柊吾が羨ましそうに眺めているのに気付いたデュラは、はっと肩を震わせ、ユラとユナに片手で降参のポーズをしながら柊吾の元へ戻って来た。申し訳なさそうに目線を落としているデュラに、柊吾は軽く笑いかける。


「もういいのかい?」


 デュラはブンブンと激しく首を縦に振った。


「それじゃあ、行くか」


「「「お疲れ様でした」」」


 三姉妹の綺麗な声を背に二人は紹介所を出る。

 出てすぐに、転石のある第二教会の方から走って来た三人のハンターとすれ違った。若い男たちで、まだ駆け出しのような落ち着きのなさがある。彼らは息を切らしながら大慌てで紹介所へ駆け込んでいった。


「なにかあったのかな?」


 柊吾がう~んと眉にを寄せて首を傾げると、デュラも同様に小さく首を傾げた。もしなにかあった場合は、すぐ広場の掲示板に書き込まれ情報が広まるだろう。柊吾は少しの胸騒ぎがしたものの、自宅へと戻った。


 その翌日、柊吾は早くに目が覚めた。廃墟と化した村で遭遇した、謎の少女が気になって熟睡できなかったのだ。カトブレパスの毛皮で作られた掛け布団をのけ、起き上がる。

 デュラは部屋の隅で膝を立て下を向いており、まだ目覚めていないようだ。


(まあまだ起きないだろ)


 まだ陽も登っていない時間帯だ。デュラが起きる前にと、柊吾は寝惚けまなこで支度を済ませ、銭湯へ行く。銭湯は歩いて三分の場所にあり、二十四時間開いている。浄化装置に魔力を注げば水が綺麗になり、加熱装置に魔力を注げば炎魔法で湯を沸かすことが可能。使用料は月々の家賃に含まれているため、いつでも好きなときに利用できるのだ。

 内装は綺麗というわけでもなく、浴槽はそこまで広くないが、利便性が最大の特徴だった。浄化装置のおかげでクエストでかかった状態異常にも効く。

 朝風呂でゆっくりと、昨日の出来事を整理した柊吾は、家へ戻った。


 部屋に入った瞬間、ガシャンッ! と大きな物音が突然響く。柊吾がびっくりして見回すと、すぐにデュラが目の前に飛んできた。どうやら、起きたら主の姿がなくて慌てていたらしい。

 柊吾は銭湯に行っていただけだと説明してデュラを落ち着かせると、ゆっくり身支度し早朝の広場へ向かっていった。

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