影の立役者
表情を変えずシモンを睨みつけていたカイロスは、ヴィンゴールに肩を軽く叩かれ、剣を引いた。
その後、張り詰めた雰囲気に重く力強い眼光を携えたヴィンゴールが一歩前に出ると、シモンは説明を始める。
「領主様、まずはお答えください。カムラが凶霧の絶望から、ここまで立て直し発展を遂げられたのは、なぜでしょうか? 領主様だけではありません。ここにいる全ての方々に考えて頂きたいことです」
唐突な問いに、ヴィンゴールは眉をしかめる。その表情には怒りが滲んでいた。討伐隊や見物人たちも気に入らないのか、いらただしげに口をへの字に曲げている。
「考えるまでもなく、身を
ヴィンゴールは冷静に答えた。そして問いをかけ、下手な返答をすれば真正面から叩き潰すといった雰囲気だ。
シモンは迷うことなく頷いた。
「いえ、異論はありません。私も、ここにいるカムラの人々も、同じ気持ちだと思っています。では、私たちのカムラ復興という長い戦いにおいて、影で支えてくれた数々の道具があることはご存知でしょうか?」
「ーー回りくどいな」
ヴィンゴールの背後でキジダルが呟く。シモンは表情を変えずキジダルを一瞥し、彼の気持ちに応えた。
「ではその道具の名称を言いましょう。強大な敵を打ち倒すため、活躍しているフラッシュボムやスパイダーネット、劣悪な環境下でのフィールド探索を可能にした浄化マスク。それに先の襲撃事件では、雷を溜め切れ味を上げる剣『電撃剣』が触手に有効だったと聞いています」
ヴィンゴールが周囲の騎士たちに目を向けると、皆異議なしというように首を縦に振っていた。
当事者であるグレンがハナに背を向け、現場の人間を代表して答えた。
「異論はありません」
「この数日間を振り返ってください。多大な被害を
「それはなんだ?」
「『照明』と『銭湯』です。夜が訪れても消えない光は、家を失い闇に包まれる恐怖から人々を救い、雷の力で沸く湯は、気の抜けないこの日々の中にあっても、人々の身も心も癒しました」
いつしか、処刑を見に来た人々はシモンの言葉に真剣に耳を傾けていた。自分たちのことだからだ。なに一つ、異議を唱えるヤジが飛んでこないことは、シモンの言っていることが正しいという証拠。
ヴィンゴールとて、報告は聞いていたことだろう。彼も納得したように頷いている。しかし、本題は全く進んでいない。
「……それも間違いではない。だが、それが柊吾となんの関係がある?」
その問いが来た瞬間、シモンは両の拳を握りしめ、深く息を吸った。
ここが
シモンが緊張で声を硬くしながら、まっすぐに言葉を発す。
「それらを考案したのは誰か、ということです」
「なに? 少なくとも、新設の銭湯や照明はバラム商会の鍛冶屋たちが考え作ったのであろう」
ヴィンゴールは怪訝そうに言いながらバラムを見る。バラムはポカンとした表情で聞いていたが、ヴィンゴールのアイコンタクトを受け、首を縦に振った。他の幹部たちもシモンの言葉の意図が分からないというように顔を見合わせている。
ゲンリュウなど、もはや決着が着いたと判断したのか、再び剣を柊吾の頭上に振り上げていた。
当の柊吾は、目を固く閉じ肩を震わせていた。
シモンは慌てることなく、ここの場にいる全ての人が聞き逃すことがないよう、大声で告げた。
「それ自体の発想についてはそうです。しかしそれは、その原理となる『電気回路』の構想が既にあったから生まれたもの。そして、それを設計したのも、他の有用な道具を設計したのも、そこにいる柊吾ただ一人なのです!」
「バカな……」
ヴィンゴールが唖然と呟き、ゲンリュウは振り上げていた剣を背後へ落としてしまう。それが地面に衝突し、金属音で静寂を破った瞬間、一斉に幹部たちがざわめき出した。それはすぐに群衆へも広がる。
皆、口々に嘘だ、信じられない、と言うが、実際に柊吾の設計した道具に救われた人々は、どこかほっとしたように満足げな表情をしていた。
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