デュラの新装備
「――おや、モテ期は終わったのかい?」
柊吾が鍛冶屋の暖簾をくぐると、シモンの開口一番がそれだった。
柊吾は眉をしかめ言い返す。
「この店の方針は、わざわざ足を運んできた客を怒らせることだったか? 俺にモテ期なんて来たことはない。バカにするな」
「いや怒るとこ違くない? ……まあいいや。デュラの装備なら完成してるよ」
シモンは壁に立てかけてあったランスと盾を指さす。ランスはメタリックな質感に加え、エメラルドグリーンに輝き今まで使っていたものよりも、格段に鋭さを増していた。盾は前面が宝石のようにエメラルドグリーンの光沢を放ち、
デュラは興奮を抑えるかのような足取りで武器の前に立つ。
「『クリアランサー』と『サンダーガード』ね。これでようやく一式だよ」
シモンが疲れたようにぐったり肩を落としながら言う。これでナーガ素材の装備が一式揃った。というのも、デュラのマントの下には既に、ナーガの鱗で強化されたアーマーが輝きを潜めているのだ。これらは前週で強化作業を終わらせており、クリアランサーとサンダーガードだけ時間がかかった。
感動したようにボーっと新装備を見つめていたデュラだが、ようやくランスの切っ先を引っ込め、盾を蝶番のように折ると両腰に装着する。そして、バッ!とシモンへ手を差し出した。
「うおっ!? び、びっくりしたぁ……一体なんだい?」
シモンは差し出されたデュラの右手をおっかなびっくり睨みつける。普段、柊吾をからかってはデュラに反撃されているから警戒しているのだろう。
柊吾はやれやれと口を挟む。
「デュラは感謝してるんだよ。ただの握手さ」
「そ、そういうことか。まあ、どういたしましてと言って――うがあぁぁぁっ!?」
シモンがデュラの手をとった瞬間、デュラは上下にブンブン振り回した。本人は嬉しくて仕方ないのだろうが、シモンは体がついていけず凄い顔になっている。
「ちょっ、デュラやりすぎだって!」
柊吾が慌てて止めると、デュラはピタリと止まり手を離した。
シモンはただ握手をしただけなのに、ぜぇぜぇと息切れしている。
「くそぉ……感謝は、受け取る前に全て振り飛ばされたぞ」
「悪気はなかったんだよ」
「なおさらたちが悪いわ! まあいい。ところで、ここまで準備を整えたんだ。行くんだろ? 『呪われた渓谷』へ」
シモンはさも当然のように言うが、柊吾は初耳だった。
「なんだそれ?」
「は? 知らないのかい? 最近発見されたっていう噂のフィールドを。色々と問題があってクエストとしての開放はまだだから、その手伝いはクラスBハンターに依頼されると睨んでたんだけど……他にとられたか?」
「全然知らなかったよ。ちょっと掲示板見て来るわ」
「いや、紹介所の受付嬢に聞いた方が早いんじゃないか? 彼女たちなら討伐隊からの特別依頼も管理してるし」
「それもそうか。分かった、ありがとうシモン」
柊吾は礼を言ってナーガ装備の代金を渡すと、紹介所へ向かった。
紹介所は今までにないほど盛況だった。フリースペースのテーブルで四人パーティが作戦会議をしていたり、掲示板に貼りつけてあるクエスト発注書のコピーを複数人で取り合っていたり、見ない顔の若いハンターもたくさんいた。
受付に群がっていた一団が手続きを終え去っていくと、ようやく受付が見えユナと目が合った。
「あっ、柊吾さん! デュラさん! お疲れ様です」
ユナは金のハーフツインを可愛らしく揺らし破顔した。
「ユナさん、お疲れ様です。それにしても凄い人の数ですね」
「そうなんです。柊吾さんたちの活躍で沼地や洞窟の行動範囲が広がって、ハンターの皆さんも活気づいているんです。忙しいですけど、やりがいがあるので嬉しい限りですよ」
ユナは太陽のように眩しい笑顔を浮かべる。本当に嬉しそうだ。
柊吾もなんだか嬉しかった。大抵の人は柊吾のことなどハナの戦いを援護する協力者としか認識しておらず、気にも留めない。目立たないためとはいえ、少しは認めてもらいたいというジレンマがある。だからこそ、面と向かって自分の活躍だと言われ、無性に嬉しくなった。
「? どうされました?」
ユナが疑問符を浮かべ、柊吾は自分がだらしない顔をしていたことにようやく気付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます