神殿に座す魔王

 ――ブヲオォォォォォォォォォンッ!


 大悪魔の口から超高熱量の熱戦が放たれる。

 メイも最大出力のレーザーを放った。

 眩い光の中、激突した二つのエネルギーは均衡する。


「うっ……」


 しかし、アスモデウスの熱量のほうが勝っていた。

 トライデントアイのレーザーは徐々に押され、柊吾とメイへ激しく燃え盛る炎が近づいて来る。

 万事休す。

 柊吾がそう思った次の瞬間、メイの頭上に人影が舞い降りた。


 ――キュオォォォォォォォォォォ!


 黒き竜巻が放たれ、レーザーと共に炎を押し返す。

 徐々に迫る熱量に、アスモデウスは目を見開いていた。

 そして炎は押し負け、光と竜巻が敵の顔面を襲う。


「グワアァァァァァッ!」 


 おぞましい叫び声をあげ、アスモデウスは顔面を両手で押さえて暴れまわった。

 竜巻を放ったのは、漆黒の第二形態となったニアだった。

 彼女は横顔だけ柊吾へ向けると、低く落ち着いた声で告げる。


「……早く、行って……」


「っ! 分かった! ニア、ここは任せた!」


 柊吾は頷き、メイを連れて走る。

 幸い、アスモデウスがランダムに歩き回っているおかげで、奥へ続く出口はがら空きだ。

 それに気付いた敵が慌てて手を伸ばすが、ニアが高速で飛びかかり、その強靭な爪で敵の人差し指を切断。


「グッ!」


 ドスンと地響きを鳴らし、その太い指は落ちた。

 柊吾とメイも無事に広間から脱し、やがてその姿は見えなくなる。


「貴様ぁ……」

 

 煙が上がり、ボロボロになった顔をニアへ向けたアスモデウスは、憎悪に目を光らせる。

 そしてニアは、チャキンッと爪を立て、漆黒の翼を広げて大きく羽ばたいた。



 柊吾たちが空洞を抜けるとすぐに、次の広間に出た。

 いや、玉座の間と言う方が正しそうだ。

 黄土色の壁は比較的綺麗で神々しさを保ち、天井を支える石柱にはヒビ一つない。

 目の前に伸びる階段の上には、金に輝く玉座があり、その左右には神々しさを纏う剣と槍。そして、玉座には堂々と座している男がいた。

 漆黒の髪をオールバックにした気難しそうな堀の深い顔立ち。引き締まった肉体の上からは、上質な毛皮で作られた薄紫の外套を羽織り、退屈そうに肘掛けへもたれて顎に手を当て、足を組んで目を閉じている。

 人型であることには驚いたが、その威厳溢れる風貌と、漂う圧倒的な覇気からして、魔王サタンに違いないだろう。

 

「あの役立たずのでくの坊が」


 魔王は低い声で呟くと、ゆっくり目を開いた。その深紅に染まった瞳で階下を見下ろす。まるで迷い込んだ虫けらを憐れむように。

 彼が存在するだけで重力が何倍にも感じられ、声が発されるだけで暴風が吹き荒れるかのようだ。

 魔王と目の合った柊吾は、心臓を鷲掴みにされたかのような息苦しさを覚え、どっと汗が噴き出した。

 

「……で、貴様らはなんだ?」


「……お、俺たちは、カムラという町から来た人間だ」


 柊吾は、顔が恐怖に引きつるのをなんとかこらえながら、ゆっくり答える。

 背後でメイが震えているのが分かった。


「人間、だと? あの最弱な種族がまだ生き残っていると? 嘘を吐くな。貴様らから漂う気配は、たかが人間が発するものじゃないだろうが」


 魔王は酷く冷たい声で返す。柊吾たちが不死王の力を秘めていることを見抜いたのだ。


「……まあいい。虫けらに羽根が生えていたところで俺の知ったことじゃない」


 魔王は微塵の興味もなさそうに吐き捨てる。

 柊吾は気を落ち着かせるように深呼吸し、そしてゆっくりと答えた。


「あんたらは一体何者なんだ? 凶霧を生み出した元凶ではないのか?」


「ふんっ、身の程もわきまえず、この俺に問いを投げるか。いつもなら、即座に殺してやるところだが……いいだろう。長いこと誰とも会わずに退屈していたからな。俺が飽きるまでなら語ってやろう」


 魔王は不敵に片頬を吊り上げ、おごそかに語り始めた。

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