孤島の洞窟
一つ目のアイテム袋がパンパンになるぐらいアイテムが集まった頃、下の階層へと繋がる細い坂道に出た。坂の下には大きな湖があり、その先の岩地では討伐隊とハンターたちが武器を構え緊張に身を強張らせていた。
「あれはっ!」
彼らの目と鼻の先には魔物。
柊吾は気を引き締め、坂を下りるべく駆け出す。
その魔物は、目、鼻、口がくりぬかれた小さなかぼちゃを頭とし、黄土色の樹木でできた細い肢体を黒のマントで覆っていた。顔のかぼちゃが内部から光っているそれは、
(ジャックオーランタン?)
ハロウィンイベントなどで引っ張りダコの大人気モンスターと酷似している。
ジャックオーランタンは十体程度。対する討伐隊は十人、ハンターは四人だ。お互いしばらく睨み合うが、柊吾が坂を半分ほど下ったところで――
「――総員、突撃!」
先頭の騎士の掛け声によって討伐隊がジャックオーランタンへ走り出す。ハンターたちも慎重に彼らの後ろに続く。
「ヒッ!」
ジャックオーランタンたちは掌に魔力を収束させ、結晶化させた氷を放つ。しかし先頭の騎士たちが幅広の盾で防ぎ、突進を継続。ジャックオーランタンたちはガシャンガシャンと重い金属音を立てて猛突進してくる騎士たちに恐れをなし、散り散りに広がる。
「くらえぃ!」
気迫十分。先頭の騎士が剣を振り下ろす。ジャックオーランタンの右肩へと振り下ろされた剣は、その体をいとも簡単に切り裂く。騎士は続けて、よろめくジャックオーランタンを真横から切り払い、湖へ落とす。
「よしっ! コイツら弱いぞ。一気に押し切れ!」
その合図を皮切りに、騎士たちがわぁーっと斬りかかる。どの個体も次々に斬られ、乱戦は討伐隊が優勢に思われた……だが、
「ヒィィィッ!」
左腕を切り落とされたジャックオーランタンの一体が捨て身の攻撃で騎士に抱きつく。
「くそっ! 離せよ!」
騎士は素手で引き剥がそうとするが、思ったよりもジャックオーランタンの力は強く、苛ただしげに叩いたかぼちゃが突然強く光り――
――ドガアァァァァァンッ!!
大爆発が起こった。
凄まじい爆音に皆固まる。爆心地にはジャックオーランタンの体の破片と、鎧が弾け割れ黒こげになった騎士が倒れていた。
ジャックオーランタンは『自爆』したのだ。
皆唖然として固まるが、敵は待ってはくれない。
「まっ、待て!」
「このっ! 離れろぉぉぉっ!」
――ドガアァァァァァンッ!!
連続して爆音が響く。
「ちっ! 奴らの頭を湖に落とせ!」
叫んだハンターが騎士に走り寄る個体を横から突き飛ばし、斧で頭を胴体から切り離すとすぐに湖へ放り投げた。
甲冑による重装甲の騎士とは違い、身軽なハンターたちは冷静にジャックオーランタンを始末していく。
「はあぁぁぁ!」
ようやく彼らの元へ辿り着いた柊吾も加勢し、残るジャックオーランタンをなんとか殲滅した。
結局、三名の討伐隊員が死亡した。ジャックオーランタンの死骸からは大した素材は取れず、割に合わない被害となった。
しかし彼らは足を止めることなく、すぐに先へ進み始める。
柊吾も他のハンター同様、先行する討伐隊の最後尾で共に進むことにした。
それからはイービルアイやアビススライム、ジャックオーランタンらを蹴散らしながら先へ進んでいく。途中、行き止まりでの罠や暗闇での魔物の襲撃などがあり、被害を被ったものの、洞窟の最奥付近まで到達した。
そのときには、討伐隊五人、ハンター三人と柊吾というように戦力ダウンしている。
彼らが立ち止まったのは、人が二人ほど並んで通れる空洞の前。そこへはいくつもの道が繋がっており、洞窟の入口で分かれた道はここで必ず一つになるのだと分かる。奥からは不穏な空気と静けさが漂ってきており、「なにか」がいるのだと肌で感じとれた。
「皆、準備はいいか?」
討伐隊長が神妙な面持ちで問い、騎士たちが「はい」と、ハンターたちが無言で頷く。
そして彼らは、死地へと踏み込んだ。
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