盛者必衰

 柊吾の設計ではまず、蓄電石に雷魔法で電気を溜める。次に、それとエレキライト鉱石、ジュール鉱石を、導電性のあるアラクネの糸の二回線で直列に繋ぐ。つまり、『電気回路』を作ったのだ。

 それにより、蓄電石からアラクネの糸のプラス側を通って鉱石へ電気を流し発熱、発光し、電気がマイナス側の糸から蓄電石に戻るという閉回路によって、溜めていた電気の分だけ使用可能な仕組みだ。

 この設計図をシモンへ提案すると、彼は喜んで買い取った。


 それから、カムラの町はさらに発展した。

 山脈の上層では魔物が少なく、良質な資源が豊富に採れるため様々な商品の単価も安くなり、豊かになって心に余裕のできた人々は、新たな設備の開発に着手できるようになる。

 まずは湯沸し機能の変革による銭湯の高効率運用と増設。

 今までは住宅街の近くに一か所しかなかったが、倉庫街近辺と孤児院近辺に一か所ずつ増設した。

 今までは炎魔法で湯を沸かしていたため、お湯の温度を上げるのに時間がかかる上に、すぐ冷えてしまっていた。しかし湯沸し機能を電気によるジュール鉱石の発熱に変えた今、蓄電石の充電時間を長くすることで長時間の温度保持が可能となったのだ。

 これにより、水浴びだけで我慢していた人々も、頻繁に銭湯を利用するようになり健康面が大きく改善する。


 次に、長時間点灯が可能な灯の全域設置。

 これも今まではランタンに火を灯していたため、小規模での運用と点灯時間の短さから夜などは真っ暗な外を、小さな灯のみで出歩かなければならなかった。

 しかし、これも炎によるランタンの点灯から電気によるエレキライト鉱石の発光に変わることで、長時間の使用が可能になる。それにより、町全体にこれを設置することで夜でも安全に出歩くことができ、居酒屋の深夜営業の開始によって町はこれまで以上に賑わうことになる。

 それぞれ商業区の鍛冶屋たちが考案したものであり、この画期的な発明にヴィンゴールも大喜びで報奨金を与えたという。

 ちなみに、シモンが電気回路のことを他の鍛冶屋たちに広めたことがキッカケでアイデアが集まり始め、商業区の鍛冶屋たちで協力して開発を進めたようだ。

 もちろん柊吾の望み通り、シモンは電気回路の設計者については伏せている。


 ――だが、盛者必衰というように、カムラの繁栄はいつまでも続きはしなかった――


 その日、柊吾は広場の掲示板に見入っていた。メイは孤児院へ仕事に行き、ニアは昼寝、デュラは自宅待機をしている。

 柊吾が読んでいたのは、討伐隊による大陸開拓の報告書概要だ。

 討伐隊は、呪われた渓谷を出て竜の山脈とは逆の西を探索したが大して有用そうな採取スポットは見つからず、汚染された都市の西側も探したが、特になにも見つけられなかったらしい。むしろ、なにものかに食い荒らされていたような状況だったようだ。


(あいつだ)


 鵺の仕業に間違いない。柊吾はそう思った。

 汚染された都市の北には、密林を発見したそうだが、全体的に腐敗が酷く沼地の比でなかったそうだ。また、獣のおぞましい咆哮が何度も連続で響き渡っていたという。それで討伐隊は立ち入りを諦めた。

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