復活
――グヲォォォッ!
――グヲォォォッ!
――グヲォォォッ!
(ダメです! もう復活している個体もいます!)
「くそっ!」
柊吾は悔しげに奥歯を強く噛み拳を握りしめる。
うかつだった。あのとき柊吾がもっと早くヒュドラの狙いに気付けていれば、また状況は違ったのかもれない。
しかし今となっては後のまつり。
激しい後悔を抱いたのは柊吾だけではなかった。
「待てデュラ!」
デュラが駆け出し復活したヒュドラへ真正面から突貫をしかける。柊吾の静止も聞かず跳ぶデュラだが、ヒュドラの頭突きであえなく地面へ叩きつけられる。
それでもすぐに立ち上がった。
今度はニアがトライデントアイに光を再度収束し始める。
「やめろ! むやみに攻撃したって意味がない!」
柊吾は叫ぶと、エーテルを飲んで魔力を回復し、キュベレェの元へ飛んだ。
彼女も顔面蒼白にし絶望していた。
「さっきのをもう一度撃てるか?」
キュベレェは茫然自失といった表情で柊吾を見ると、俯き首を横へ振った。
絶望的だった。
キュベレェの手数がなければ九体同時に倒すなんてとうてい不可能だ。
ここは一度退却し、体制を立て直すべきか。
しかし九体のヒュドラがむざむざと逃がしてくるはずもなく、特に取り残されるメイが危ない。
「私はっ、王としての責務を果たさないといけないのに!」
キュベレェは顔を上げると、悔し涙を流しながらヒュドラを睨みつけた。
手に光を収束させるも、もう形にもならない。
「くっ……」
頬を歪ませ、無念に拳を握るキュベレェ。
必死に頭を巡らせる柊吾だったが、ヒュドラが頭上に迫っていた。
「くそっ!」
間一髪、二人は散開して回避。
状況はこの上なく悪い。
一度はコアを破壊したヒュドラたちも、既にほとんど再生している。
純粋に強力な竜種九体を五人で相手にしているようなものだ。
柊吾はヒュドラの猛攻をなんとか回避しながら打開策を考え続ける。しかしいくら考えても答えは出ない。
(――ニアちゃんっ!)
メイの悲鳴が脳に響いた。
柊吾がニアの戦っていた方へ顔を向けると、彼女は三体のヒュドラの猛攻にさらされ、猛毒ブレスを受けるところだった。
柊吾の背筋が凍る。
「ニアぁぁぁっ!」
バーニアを噴かすが、ここからではどうあがいても間に合わない。
「っ!」
突如、飛び出した柊吾の前にヒュドラの首が現れ、勢いよく激突してしまう。
そのまま吹き飛ばされて、ぬかるんだ地面を跳ね、何回転もしながら転がる。
朦朧とする意識の中、ニアの方を見ると彼女は風のブレスを放ち、降りかかる猛毒を拡散させて直撃を避けていた。しかし、そんなもので受け切れるわけがなく、飛散した猛毒の液体はニアの体中に降りかかる。
ニアの竜鱗を溶かし爪を溶かし翼も溶け、悲鳴を上げてそのまま墜落していった。
「くっそぉ……」
デュラとキュベレェが間一髪のところで避けながら逃げ回るが、時間の問題だ。
メイはいてもたってもいられず、繁みから飛び出してニアの元へ駆け寄っている。
彼女たちの元へもヒュドラが迫っていた。
「だめ、なのか……こんなところで俺は仲間を失うのか」
柊吾の声が震える。
なんとか上体を起こし、目の前に落ちていたブリッツバスターを握る。
まだ残る魔力を注ぎ込み、どうにか一矢報いてやろうと闘志を燃やす。
だが足が震えて動かない。
――ズザァァァァァンッ!
「デュラ!」
柊吾の目の前へデュラが地面を激しく擦りながら転がって来た。
彼はもう丸腰だ。ランスは最初にブレスで溶かされ、盾も失っている。
握りしめるブリッツバスターへ少しずつに稲妻がたまっていくが、今のままでは使い道がない。
「いやぁぁぁっ!」
メイの悲鳴が耳に届く。
彼女と気を失ったニアの目の前で、一体のヒュドラが首をもたげ、ブレスを放たんとしていた。
「やめろぉぉぉぉぉ!」
叫ぶ柊吾。
だが今から向かったところで距離がある。
目の前のデュラもようやく起き上がるが間に合わない。
キュベレェは五体のヒュドラから逃げるのに精一杯で、彼女たちへ近づくこともままならない。
「こんなところで、俺は――」
――メイとニアを失うのか。
そう心で唱えたとき、なにかが反応した。
それは誰かの怒りの感情。ふざけるなと言っている。
だが、こんなときになにを言おうともう遅い。
柊吾は諦観に色を失った瞳で、メイたちの最期をただ眺め――
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