英雄になりたかった男
彼らは数え切れないほどの魔物を葬った。それでも無制限に魔物は復活し、疲労ばかりが溜まっていく。
やはり無理があるのだ。
魔物を倒し続けていれば、ダンタリオンも消耗して退いてくれるのではないか……そんな根拠もない願いが叶うことはなかった。
「このままじゃジリ貧だ……」
クロロが険しい表情で呟いたそのとき――
――バシュゥゥゥゥゥッ!
けたたましい噴射音が後方から響いた。
クロロも聞き慣れた噴射音。
「まさか、柊吾かっ!?」
思わず声が弾み、クロロは振り向いた。
他の隊員たちも顔に生気を取り戻し、噴射音を響かせながら飛び急接近してくる者を見る。
バーニアを扱えるのは柊吾だけ。クロロはそう認識していたから、彼が神殿の遺跡からようやく戻って来たのだと思った。しかしよく見てみると、飛来した人影は不安定なコントロールでフラつきながら飛んでいる。
「……違う、柊吾じゃない。あれはまさか……キルゲルト、なのか?」
クロロは唖然と呟いた。
間違いようもない。彼の視線の先で飛んでいるのは、部下のキルゲルトだ。出撃時にはいないと思ったが、いったいなにをしていたのか。
彼は今、背にウイングバーニアを装着し、ダンタリオンへ向かってまっすぐに飛んでいた。
「っ! なにやってんだ! バカ野郎っ!」
クロロの戸惑いと怒りの声は、キルゲルトの耳にしっかり届いた。
しかし、ここで止まるわけにはいかない。
「くそっ、なんて操作が難しいんだよ……」
キルゲルトは額に冷や汗を浮かべながら、背に魔力を込める。
このウイングバーニアは、第二陣が戦場に出た後、こっそりと倉庫から持ち出したものだ。
別に悪気があるわけではない。
彼はただ、英雄になりたかった。
「このチャンスを逃すかよぉっ!」
なんとか炎魔法と風魔法の強弱を調整し、ダンタリオンへ接近する。
両腰のアイテム袋に入っているのは、大量のジャックボム。
ダンタリオンの弱点である顔にまとめてぶつければ、致命傷を与えられるだろうという短絡的な考えだ。
それが有効かどうかなど分からない。
だがそれでも、彼にとっては試す価値がある。
小さい頃から憧れていた英雄になれるチャンスなのだ。
逃すわけにはいかない。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
バーニア全開で突っ込む。
もちろん、それを見逃す魔物たちではなかった。
間もなくダンタリオンの顔面まで到達するというところで、周囲で光を収束させていたイービルアイが一斉にキルゲルトへ目を向けた。
「ちぃっ!」
次々に放たれるレーザー。
キルゲルトは冷や汗を浮かべ、必死に左右の噴射力を調整し、体を反らして避けようとするが、柊吾のように上手くはいかない。
「ぐわぁぁぁっ!」
レーザーに掠った左足が焼け爛れ、さらに別の射線からの照射によって片翼が溶けて制御不能となる。
次の瞬間には、額を光線がかすめ左目が見えなくなっていた。
「キルゲルトぉぉぉっ!」
地上から自分の名を呼ぶ声が聞こえ、キルゲルトは下を見る。
「クロロ隊長……」
頬を歪め必死に叫ぶクロロを見て、キルゲルトは場違いにも頬を緩めた。
彼は柊吾の次に憧れた男だ。キルゲルトは、彼らのような英雄になりたいと一心不乱に突き進んできた。
だが今、制御不能となったウイングバーニアでは、墜落しダンタリオンの原液に飲まれる未来が待っている。
若い戦士はそれでも、絶望に屈することなくダンタリオンを睨みつけた。
「なめるなよ、バケモノ」
腰のジャックボムをまとめて掴むと、背後へ放り投げる。そして、バーニアの真後ろへ来た瞬間に噴射。その衝撃でボムは爆発し、キルゲルトは背を焼かれながらも前進する。
狙い通りダンタリオンの顔面へ急接近するキルゲルトは、腰に詰めたアイテム袋を取り外し、高々と掲げた。
「俺はっ! 死んでも英雄になるんだぁぁぁぁぁっ!!」
――ドガアァァァァァァァァァァンッ!!
叩きつけられ大爆発を起こした無数のジャックボムによって、ダンタリオン顔面は煙を上げる。
煙が晴れたとき、ダンタリオンの顔面には僅かな亀裂が入っていた。
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