仮面のエルフ
それからしばらく、柊吾たちは草花を探し続けた。
紫雨に打たれ続けている柊吾だったが、身体への悪影響はまだない。
しかしどれだけ探しても、腐敗した密林には枯れた花や変色した草しか見つからず、焦りばかりが募っていく。
渓流のある広い場所に出て柊吾は足を止めた。目の前をゆったりと流れているのは灰と紫の水。どうやら上空から降るのは紫色の水だが、地下から地表に湧いて出ているのは灰色の水のようだ
「こりゃ沼地と同じだ。この密林を腐敗させている元凶を倒すしか……」
柊吾は暗鬱とした表情でため息を吐く。
現に瘴気の沼地もナーガを倒してから瘴気は晴れ、採れる草花も効能ある質の高いものに変わった。
ここもそうである可能性はあるが、そもそも紫雨を発生させている魔物などいるのかという疑問が生じる。
「しかし、この限られた時間で見つけて倒すなんて……」
メイは表情を曇らせた。
それも当然か。
密林に来れるのは、柊吾にとっておそらく今回が最後。カムラへ戻ったときには柊吾も病に侵されてジエンドだ。
だからといって、限られた時間で土地勘もないこの広いフィールドを探し尽くすなど、不可能に近い。
状況は絶望的だ。
「それでもやるしかない。今の俺たちにはもう道が残されていないんだっ」
柊吾がさっさと先を目指そうと周囲を見回していると、ガサゴソと周囲のしげみを掻き分ける音が耳に届いた。
「ちぃっ、また敵かっ!」
「私が周囲を探ります!」
メイがそう言って目を固く閉じる。
周囲から迫る音もどんどん近づいていき――
「――これは……」
メイが驚きに目を見開くのと、敵が姿を現すのは同時だった。
いつの間にか囲まれていた。敵の数はおよそ十体。
彼らを見て、柊吾はわずかに後ずさった。彼らは魔物ではなく明らかに人の形をしていたのだ。
「人、なのか……」
柊吾は驚きを隠せず小さく呟くと、背の大剣を抜いた。もし本当に人なら、この紫雨の中でも行動できる理由があるはずだ。
敵はアマゾネスなんかが着るような露出度の高い革製の防具を身に着け、筋骨隆々な褐色の肌を晒している。手にはそれぞれ斧や槍などの武器、顔には禍々しいトーテムの仮面を装着し、全身に
最初は人のように見えたが、仮面の横から見える尖った耳はエルフのものだ。
「……ダークエルフと言ったところか。メイは俺の後ろへ」
そう言ってメイは柊吾の後ろへ。デュラは柊吾の反対側の敵へ向き直り、二人の背にメイが挟まれている形になった。凶霧のアンデットである彼女が狙われる可能性は低いが、後方支援を任せる。
「気を付けてください。生身のエルフ族ですが、あの仮面にも魂が宿っています」
「なんだって!?」
つまり、エルフ族はこの密林の元々の住民であり、顔につけた仮面に操られている可能性があるということ。
柊吾は一縷の望みにかけて彼らに声をかけた。
「俺たちに戦闘の意志はありません! 薬草を探しにきただけなんです! どうか通してくれませんか!?」
しかし、ジリジリと横へ歩きながらこちらを観察していたエルフたちは、柊吾の呼びかけに応じることなく一斉に襲いかかってきた。
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