怪樹

「はぁぁぁっ!」


 柊吾は真正面からアルラウネへ突撃する。


 ――シュッ!


 狙い通り、敵はムチを横へ薙ぎ払ってきた。

 背面噴射を緩めないまま、地を蹴り上昇して回避。

 アルラウネの斜め上空から、その頭部めがけてへ斬りかかる。


 ――シュッ!


「ちぃっ!」


 敵はもう片方の手にもムチを持っていた。

 柊吾はやむを得ずアイスシールド展開し防御。

 ムチの衝撃によって軌道を逸らされる。

 今の態勢では再度振り払ってきたムチを避けきれないため、前方へ噴射し緊急離脱すると元の位置へ着地した。


 一方、デュラは一点突破を目指し、盾を構えて突進している。

 ひたすらムチで叩かれ続けるが、徐々に前へ進んでいた。

 しかし進行方向上にあった、樹木の根元を踏んだ瞬間、それがウネウネと動き出してデュラの足元を崩した。


 ――ガシャァンッ!


 その隙を突かれイバラのムチが鎧の胸部へ直撃し、後方へ叩き飛ばされた。

 そしてデュラが立ち上がる前に、彼の足に灰色の枝が巻き付き逆さまに吊り上げた。


「んなっ!?」


 柊吾が驚愕の声を上げる。

 デュラの近くにそびえ立っていた樹木がまるで生きているかのように動いたのだ。

 その枝を触手のようにうねらせ、デュラに襲いかかっている。

 もちろんその狙いはデュラだけでなく――

 

「――危ない!」

 

 柊吾が飛び上がったのは、メイの悲鳴と同時だった。

 無数の枝がしなるムチのように柊吾へ襲いかかる。


「なんなんだコイツは!?」


 紙一重で避け、アイスシールドで防御しながら大剣で叩き斬る。

 それをひたすら繰り返す。

 だがどれだけ斬っても、その無数に分かれた枝は次々に生えキリがない。

 それならばと柊吾はブリッツバスターに稲妻を溜める。

 避けながら徐々に刀身が翡翠に輝いていき――


「――くらえぇっ!」


 稲妻の斬撃を放つ。正面から迫る枝ごと樹木の幹を切断した。

 樹木はゆっくり後ろへ倒れるが、地面に落ちた木の枝は再び柊吾へ伸びてくる。

 これではらちが明かない。

 デュラなんて体中を縛り上げられ、アルラウネのムチで乱れ打ちにされていた。


「くそっ!」


 忌々しげに吐き捨て、枝のムチをアイスシールドで防御する。

 なにかないかと周囲を見回すと、メイが木の影で目を閉じ眉間にしわを寄せながらトライデントアイに光を収束させていた。

 そして、一段階目のチャージが完了すると同時にバッと目を見開いた。


「見つけた! そこぉ!」


 素早く背後へ杖の先を向け、レーザーを放つ。

 その狙いは漆黒の樹木。


 ――ッ!?


 レーザーが直撃する寸前で樹木の幹に亀裂が走り、巨大な目が開かれる。

 そこへ高熱量のレーザーが直撃した。


 ――ジュイィィィィィンッ!


 樹木に大きな穴が開き、同時に柊吾へ向かっていた枝が静止し、デュラの体を縛っていた枝が緩まる。

 形勢は一気に傾いた。

 デュラは宙に浮いたまま、アルラウネへ盾を投げその視界を奪い一瞬の隙を作った。イバラのムチで盾は払い飛ばされるが、もう遅い。

 

 ――ドゴォォォンッ!


 バーニングシューターの穂先を射出。


 ――キェェェイッ!


 アルラウネの断末魔が響いた。

 その胸の中心にはランスが深々と突き刺さっていた。

 そしてその悲鳴を聞いた瞬間、もう片方の個体にも動揺が走り隙ができた。


「はぁぁぁっ!!」


 気迫のこもった叫びに、アルラウネが気付いて前を見たときには、柊吾の姿はなかった。

 真上からブリッツバスターが振り下ろされる。

 

 ――ッ!?


 なんとか、アルラウネ2体と怪樹1体の討伐に成功したのだった。


「ふぅ、やったか」


 柊吾たちはすぐに素材の回収にとりかかる。


「……にしても、見られてるような気がしたのは怪樹のせいだったんだな」


「怪樹、ですか?」


「ああ。ああいう木のバケモノのことをそう呼ぶんだ」


 前世のゲームでの知識だ。

 メイもデュラも聞き覚えがないようで首を傾げている。

 柊吾は不気味だと思った。


「怪樹といい、アルラウネといい、まるでこの密林自体が生きてるみたいだ」


「本当に恐ろしいですね。とにかく慎重に行きましょう。お兄様のお体にも触りますし」


 メイが不安そうに眉尻を下げる。デュラもうんうんと首を縦に振った。

 紫雨による病の心配をしているのだろう。

 柊吾は「大丈夫だ」と笑って話を変える。


「そういえば、さっきの怪樹の本体はどうやって見破ったんだ?」


「あれは、周囲に干渉できる魂がないか探したんです。そしたらあの樹木がそうだったので、もしかすると本体かもって思ったんです」


「へぇ、そういうことだったのか」

 

 柊吾は感嘆の声を上げる。

 メイは着々と不死王の力を使いこなしているようだ。本来は魂に干渉し心を通わる力。これは戦いでも十分に活かせるのだと、今回の戦いで学んだ。

 

「――さてと、次行くか」


 アルラウネの花瓶や怪樹の樹液など、色々と新たな素材は採れたが、疫病に効きそうには見えなかった。

 腐敗の密林へはまだ来たばかり。

 柊吾たちは気を引き締めて先を目指すのだった。

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