一触即発
「どういうことだ!?」
鼻息を荒くしたハンターたちが受付へ殺到し、凄い剣幕でユリたちを問い質している。
ユリたちはただただ「申し訳ありません」と謝り、頭を下げるだけだ。三女のユナに関しては目の端に涙を溜め、今にも泣きそうな表情だ。
これだけ迫力のある男たちに詰め寄られる恐怖は計り知れない。
ハンターたちは謝るだけで事情を話さない彼女らに苛立ちを募らせていく。
これでは平行線だ。さすがに止めるべきだと思った柊吾が前に出ようとすると――
「――騒がしいのぅ」
やれやれとため息を吐きながら、二階からバラムが降りてきた。
ハンターたちの注目も一斉にそちらへ移った。
「バラムさん! 一体どういうことなんだ? 全てのクエストを休止なんてしたら、薬草どころか食材や繊維だって補充できないじゃないか!」
「分かっておる」
「それならっ!」
「領主様のご意向じゃ。わしにはどうすることもできんよ」
バラムは重苦しく言い放ち、神妙な表情で目線を下げる。
その姿を見てなにも言えなくなったハンターたちは、次に領主の館へ向かうべく踵を返した。
彼らがぞろぞろと出て行くの見て、柊吾は内心ホッとした。
バラムの視線が柊吾を捉える。
「おや、柊吾くんじゃないか」
「あっ、ご無沙汰してます、バラムさん」
「みっともないところ見せてしまったのぅ」
「え?」
柊吾はなんのことか分からず首を傾げる。
「ハンターたちの怒りを領主様に向けさせることでしか、この娘たちを守ることができんのじゃからな。非力なものよ」
そう言ってバラムは苦笑した。
柊吾は言葉に詰まる。ここまでバラムが弱気なところは初めて見るのだ。途端に事の深刻さが身に染みるようだった。
「そ、そんなことは……とりあえず、俺も領主様の元へ急ぎますので」
柊吾はユリ、ユラ、ユナを一瞥すると、バラムへ頭を下げ逃げるように紹介所を去った。
ユナが泣き出し姉二人で慰めていたが、柊吾には声をかける余裕はなかった。
領主の館の前は、今朝と同じような構図になっていた。
二十人ほどのハンターたちが入口の前に押しかけているが、今回彼らの前に立ちはだかっていたのは、キジダルではなく討伐総隊長のゲンリュウだ。相手がハンターたちなら妥当な人選か。
さらに、その横にグレンと三人の騎士がいる。
「どういうことなんだ!? クエストの一時停止だなんて! 俺たちを殺す気かぁっ!?」
ハンターたちの先頭に立ち、恐れずゲンリュウへ怒鳴り散らしているのは、クラスBハンターのガウンだった。
逆立てた短髪に筋骨隆々の肉体だから迫力がある。長い白髪を後ろで一つに束ね、鋼鉄の鎧を纏った老将が相手でももの怖じしない。
「早とちりをするな。今回の措置はあくまで臨時でのこと。疫病への対策は今も検討を続けている。それまでの辛抱だと心得よ」
ゲンリュウは気丈に言い放った。
しかしハンターたちのざわめきは収まらない。
ゲンリュウの言いたいことは分かったが、重要なのはいつその対策が講じられるのかだ。
そんな回答ではハンターたちはとうてい納得できない。
それでもゲンリュウは強引に話を終わらせた。
「今の私に答えられるのはそれだけだ。今は辛抱してこれ以上の被害が出ないように努めよ」
それだけを告げ領主の館へ戻っていく。
「ま、待てよっ!」
ガウンが叫びゲンリュウへ詰め寄ろうとするが、グレンがツヴァイハンダーの柄に手をかけ立ち塞がった。
その表情は険しく、短い金髪に堀の深い顔立ちもあって迫力がある。
二人はしばらく無言で睨み合うが、やがてガウンが先に折れ苛ただしげに舌打ちをすると、背を向け去って行った。
彼のパーティーメンバーたちは後ろに続き、取り残された他のハンターたちも互いに顔を見合わせ、散り散りに立ち去っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます