シモンの本気
それから一週間ほど、多くのハンターや討伐隊が積極的に素材収集をしたおかげもあり、討伐隊の所有する倉庫に多くの材料が集まった。船を強化するためのアラクネの糸やカトブレパスの毛皮。兵器開発のためのイービルアイの目玉やジャックオーランタンの頭などである。
柊吾は、今はもう廃れた倉庫街の一角で、見張りの討伐隊員に保管リストを見せてもらっていた。ここは以前の魔物襲撃において、被害をまぬがれた唯一の倉庫であり討伐隊が管理している。
「――これを頼みます」
柊吾はその場で書いたメモを渡し、倉庫から取り出してもらう。
アイテム袋一杯に詰まったそれを受け取ると、シモンの元へ向かった。
今ある素材で作れるものをストックしておこうという考えだ。今は少しでも時間が惜しいため、シモンを始めとした鍛冶屋たちの手が空かないよう、柊吾がこまめに製造・強化の発注をしている。
「――もう勘弁してくれ……」
シモンが泣き言を言うが、柊吾は容赦しない。
彼は毎回同じことを言うものの、鍛冶屋の組合で上手いこと仕事を分担し、かなりのスピードで完成させている。
トライデントアイは、イービルアイの目玉を六つ使って元の機能に戻し、柊吾の小型レーザー砲も再整備した。武器名は『ゴースト』。隼とデュラの鎧はヒュドラの鱗で強化し、海上戦のために柊吾が設計した新装備も完成間近だ。
他にも、船上で隊員たちが海上の敵を攻撃するための砲台と、新アイテム『ジャックボム』を多数生産。余った素材については、船の補強に回している。
「そういえば、ここからキルゲルトとアインが出て行くのを見たけど、彼らはなにをしていたんだ?」
以前、クロロから紹介された若い二人の騎士だ。
丁度入れ違いになり、騎士との接点がほとんどないシモンだから無性に気になった。
しかしシモンは「う~ん」と首を傾げる。
「うん? 誰だっけそれ?」
「討伐隊の若い騎士だよ。茶髪と黒髪の。なんで彼らがここに来てたんだ?」
「あぁ~柊吾のファンだっていう二人ね。武器の研磨や素材の整理なんかを手伝ってくれたんだ」
「え? それはまたどうして?」
討伐隊は基本的にフィールドへ出て素材を集めるのが主だ。その後の準備作業は、鍛冶屋や討伐隊の整備班がやる流れになっていた。
「もっと手伝いたいんだってさ。他の騎士たちみたいに、素材収集だけじゃ足りないんだと。憧れの設計士様は、魔物と戦い、設計までして全力を尽くしてるんだから、俺たちも見習うとかなんとか……ま、彼ら中々やる気があるから、こっちとしても助かってるんだよ」
「そうだったのか。お礼、言わなくちゃな」
「そうしてくれ。さぞ喜ぶだろうよ」
シモンがそう言って薄い笑いを浮かべた。
柊吾は頷くと、奥で他の職人たちが一生懸命整備している装備へ目を向ける。
新型のバーニアだ。素材にヒュドラの鱗、ミノグランデの翼、蓄電石、ジュール鉱石、アラクネの糸、炎の杖、風の杖などを用いており、柊吾の設計通りに完成させるのは極めて困難な代物だ。
だがそれでも、ユミルクラーケンと戦うためには完成させてもらわなければならない。
柊吾は申し訳なさそうに声のトーンを落とし聞いた。
「あれは上手くいきそうかい?」
「……ああ。なんと言っても今回の主役だからな。失敗なんて僕が許さないさ」
あれだけでかなりの無理を強いているが、シモンはやる気に満ちた表情をしていた。
これまでも全力で協力し、想像以上のものを作ってくれた親友のことを、柊吾は頼もしく思う。
「よろしく頼む」
「ああ。こっちこそ、頼んだぞ」
柊吾とシモンは、闘志の滾った視線を交わしたのだった。
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