人面の獅子
その後、柊吾はメイの休日に合わせ、デュラと三人で紹介所へ向かった。討伐隊が呪われた渓谷の先へ進むために障害となるものがないか、実地へ探索に行くためだ。
家から出てすぐ、住宅街の道を歩いている途中で柊吾はメイに尋ねた。
「本当に良かったの? メイは仕事で疲れてるだろうから俺らだけでも……」
「いいえ、お兄様が危険な場所へ行かれるんですもの。着いて行かないわけにはいきません。それに、私の体なら疲れを知らないので大丈夫です」
メイはニコッと微笑んだ。
するとデュラがメイの後ろから彼女の頭を撫でる。まるで頑張ってる妹を褒めようとしているようだ。するとメイは満更でもないように「えへへぇ」と楽しそうに目を細める。こうしていると年相応だ。
「分かったよ。くれぐれも無理はしないようにな」
「はい! お兄様もそうしてくださいね」
「うっ……」
メイのどこか咎めるような言葉に、柊吾はぐうの音も出なかった。
紹介所へはすぐに到着した。
「「「おはようございます!」」」
「お、おはようございます」
柊吾は受付のユリ、ユラ、ユナに挨拶すると、早速依頼掲示板の前に立った。
「二人も適当に探してくれ」
柊吾はメイとデュラにそう指示すると、クエスト地が呪われた渓谷と書いてある貼り紙を片っ端から手に取った。
『渓谷に生息する魔物の生態調査』、『新たな採取場所の探索』、『岩盤から良質な結晶類の採取』など、クエストは色々とある。無難なものにしようと思っていた柊吾は、採取クエスト『変色した丈夫な流木の回収』を手に残し、それ以外の貼り紙を元の位置に戻した。
「――あっ、デュラさんそれ……」
メイが急に声を上げ柊吾が振り向くと、デュラの手には一枚の貼り紙が握られていた。
柊吾が横から覗き込む。
「『マンティコア』討伐?」
その依頼は討伐隊からのものだった。なんでも、呪われた渓谷の先へまっすぐ進んでいたら、凶暴な魔獣の根城があったらしい。どうもそこを通らなければ北へ抜けられないということで、依頼を出したようだ。
柊吾は今の自分たちにピッタリの依頼だと思った。
「これにしよう」
柊吾は、煌めくように綺麗で長い金髪を後ろへ流し、柔らかい笑みを浮かべていたユリへ、クエスト発注書を手渡した。彼女が三姉妹の長女であり、一番思慮深そうに見えるため、マンティコアのことも知っているのではないかと考える。
「このマンティコアについて、なにか情報はありますか?」
「少々お待ちくださいね。ユラ、最新の魔物調査書をとってくれるかしら?」
「はいっ、お姉ちゃん」
ユラは明るく返事をすると、すぐさま背後の書棚から一冊の書物をとる。
それを受け取ったユリはまず目次を見て、すぐにマンティコアのページを開いた。
「これが討伐隊の方々から共有された情報になりますが、詳しいことはまだ……」
ユリが申し訳なさそうに伏し目がちになる。
柊吾はそれで十分だと言って、その書物の内容を確認する。
~~マンティコア~~
暫定クラスBモンスター。全体的な姿かたちは獅子と類似した四足獣だが、顔はどこか人間の男に近い造形をしている。背中には赤褐色の翼が生え、猛毒液を分泌するサソリの尻尾を持つ。厄介なのは、基本的に空を飛んで攻撃することと、体中に火を纏い接近戦を受け付けないことだ。
柊吾は確認を終えると書物をユリへ返した。
「ありがとうございます。これを受注します」
「かしこまりました。クエストに失敗したハンターの方々からも、危険な相手だとお聞きしておりますので、大怪我などされないよう、どうかお気を付けください」
ユリは心配そうに柊吾を見つめて言うと、慣れた手つきで素早く手続きを終わらせた。
「はい、ご心配なく!」
柊吾は内心ドキドキしていたが、それを隠すように元気よくユリに答え、紹介所を去った。あまりタジタジしていると、メイにジト目を向けられると学んでいるのだ。
しかし当のメイは、柊吾が手続きをしている間、手の空いていたユラにお菓子をもらって楽しそうに談笑していたが……
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