計り知れない被害
港では激戦が続いていた。
ヒューレの率いる討伐隊、クラスC以上のハンターたち。その中には、クラスBハンターも柊吾を含め三人はいる。
既に一般人の避難は完了しているため、優先順位は住宅街や第一教会へ向かった触手の討伐へシフトしていた。地面を這うだけの触手の切断など、簡単に思われたが、さらにそれを守る触手がいるため簡単には討伐できない。
そうやって手をこまねいている間に、触手の侵攻を許してしまっていた。とはいえ、大きく損傷した触手や鉄球を切断された触手が引き返して来ることもあり、内地側も奮闘していることが分かる。
討伐隊の死傷者も多数出ていた。そこで、彼らは戦力増強のために魔術師を投入した。当初、魔法攻撃がメインの彼らでは足手まといになると考えられていたが、電撃剣を用いれば、蓄電石に高威力の雷を溜め斬撃の威力を底上げできる。そのため、筋力で劣っていようが、回避能力が低かろうが、地面を這うだけの触手への対抗手段としては十分だった。
「――くそっ! こいつら、次から次へと……」
額に油汗を浮かべたクロロが触手に行く手を阻まれ毒吐く。
「くっ、キリがない」
柊吾は慎重に周囲を見回しながら、ゆっくりと後ずさる。
「「っ!?」」
偶然、柊吾とクロロは背中を合わせることになった。
「あ、あんたは赤毛の!」
「あなたは……クロロさん、ですよね?」
「そうだ、加治柊吾……こんな戦いさっさと終わらせて、また一緒に飲もうや」
「……了解!」
クロロは前方で奮闘している討伐隊の援護に、柊吾は広場まで頭を伸ばしている隙だらけの触手へ走る。
「――はあぁぁぁ!」
柊吾はブリッツバスターに最大まで溜めておいた稲妻の電撃を放つ。
教団の領地まで伸びていた触手は一撃で切断され、苦しそうにうねると、ゆっくり海中へ引っ込んでいく。
それをトリガーに、敵は新たな行動を起してきた。海の中から頭のない細い水色の触手が無数に這い出て来る。それらは、うねうねと蛇のように蠢き、途轍もない速さで地面を這いずり回る。
「な、なんだあれは!?」
「き、気持ち悪い……」
「皆、気を引き締めろ! これ以上、バケモノの好きにさせるな!」
動揺で動きを止めた隊員たちをヒューレが一喝する。
しかし、新手との交戦に身構える討伐隊を尻目に、細い触手たちは人の死骸に巻き付き海へ引きずり込んでいく。
「い、一体なにがしたいんだ……」
「食事、ではないでしょうか?」
「コイツらの本体か」
「今は、あの太い方をやるぞ!」
呆けていた討伐隊は細い触手を無視し、再び内地へ伸びている触手の排除に取り掛かった。
しかし、当初死骸にしか興味を示していなかった触手は、やがて生ある人間へ牙を剥く。
「――う、うわぁっ! た、助けてぇぇぇ!」
一人の若い隊員の右足に水色の触手が絡みつき、途轍もない力で海へ引きずっていく。
「させるか!」
一番近くにいたヒューレは、一人で部下を追い、海へ引きずり込まれる寸前で細い触手を叩き斬った。
すると、触手は激しくうねり、逃げるように海へ引っ込んでいく。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございま――」
ヒューレに起こされた隊員が固まった。
彼らは何故か五体の触手に囲まれていたのだ。しかも隊から孤立してしまっているため、誰も援護ができない。
おかげで他の触手の守りが手薄になり、ハンターたちはチャンスとばかりに斬りかかる。
「ヒューレ隊長ぉぉぉ!」
自分の隊長の絶望的な状況にクロロが叫ぶ。
柊吾もヒューレたちが次にどうなるか容易に想像できてしまい、必死な表情で走り出した。こんなときになぜ、バーニアがないのか。柊吾は内心で人知れず悔いた。
――ドバァン! バゴォォォン! ドガアァァァァァンッ!
ヒューレたちへ次々に鉄球が叩きつけられる。
砂塵が晴れると、若い隊員は頭が激しく損壊し即死。ヒューレも腕や下半身を潰され、胸も鉄球の針で大きく裂けて瀕死の状態だ。
「くっそぉぉぉぉぉ!」
クロロが、そしてヒューレを慕う隊員たちが憤怒の叫びを上げ、ヒューレの元へ駆けつけようとする。
だが、細い触手が二人に絡みついた。
「ま、待て! 待ってくれ!」
クロロが必死に叫ぶも、敵は虫の息のヒューレと隊員の死骸を海へ引きずり込んだ。
「そ、そんな……」
「ヒューレ隊長がっ」
「くっそぉぉぉ」
隊員たちは皆、その場で立ち止まり絶望した。
もちろん、触手は活動を止めない。
先端にべったりと血を付けた鉄球が立ちつくすクロロの目の前まで迫る。しかし、クロロは魂が抜けたかのように微動だにしない。
「なにやってるんですか!? クロロさん!」
柊吾が必死に呼びかけるも反応しない。
柊吾がクロロの死を覚悟したそのとき、海が大きく波打った。その後、触手が次々に海へと引いていく。
やがて、触手は全て海へ帰り、浜辺には静寂が訪れた。
「……助かった、のか?」
一人の隊員がその場に膝を落とす。
クロロは立ったまま目の端から涙を溢れさせる。
カムラは多大な被害を受けたものの、なんとか生き残ることに成功したのだった。
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