時の人
柊吾とシモンが顔を強張らせ、静かに思考を巡らせていると陽気な乱入者が現れた。
「――ああ~柊くんやっぱりいた~」
そう言って入口の
柊吾が驚いて立ち上がると、ニアが正面から抱きついてきた。
「おわっ!?」
変な声を上げたのはシモンだった。
柊吾も驚いて、両手でニアの体を離し問いかける。
「教会の手伝いはどうしたのニア?」
「今日はあまりやることないから、帰ってもいいってマーヤ様から言われたの~」
「そうだったのか。でも、メイはどうした?」
「えっとねぇ、買い物してから帰るって言うから、私は散歩して帰るって言って別れたんだ~。そしたら、柊くんの匂いに気が付いて~」
ニアは嬉しそうに柊吾の腕に頬をすりすり。柊吾のシャツの生地が薄いため、義手のゴツゴツした感触がダイレクトに伝わるはずだが、ニアはそれが良いと言う。
二人は、背後で負のオーラが大きくなっていることに気付かなかった。
――ブッチィィィンッ!
「こらぁっ! イチャつくのなら、よそでやれぇぇぇっ!」
シモンが鬼の形相で怒鳴り、二人は店から追いだされた。
二人は慌てて鍛冶屋を出ると、商業区を北東へ向かって歩き出した。
ニアは不思議そうに首を傾げながら、おっとりした目で柊吾を見上げる。
「シーくん怖いん~?」
「そんなことはないけど、急に機嫌が悪くなったな。疲れてるんだろう」
鈍感な二人。シモンが不憫で仕方ない。
二人が手を繋いで歩いていると、周囲の視線を感じた。
「おい、あれが噂の……」
「設計士様よ!」
「おぉ、さすがは設計士様だ。あんな美少女を連れているなんて羨ましい……」
「あれは確か、竜種の女の子じゃないかしら?」
道行く人々が足を止め、柊吾へ目を向ける。嫌悪するような雰囲気でないのが幸いだ。
しかしこんなにも注目されているのに、ニアときたら柊吾の腕にべったりくっついている。
柊吾はなんだか気恥ずかしかった。羨望の眼差しを受け続けた柊吾は、耐え切れなくなり歩くスピードを速める。
「設計士様、凛々しくて素敵……」
「けっ、俺もあの人の脳ミソが欲しいぜ」
柊吾は気まずさを紛らわせるために、ニアへ声をかける。
「なんかかなり目立ってないか?」
「みんなやっと柊くんの凄さが分かったんだよ~。やっぱり柊くんはカッコいいね~」
ニアが嬉しそうに目を細める。
「――こらっ、ニアちゃん!」
すると、彼らの前方に立ち塞がった人影があった。
呼び止められたニアは、目をパチクリさせて柊吾と共に立ち止まる。
目の前で肩を震わせて立ちはだかっているのはメイだった。
「メイ? 買い物は終わったの~?」
「終わりましたよ。まったくあなたときたら……家に帰ると言ってたくせに、お兄様を連れ出して……」
メイがむぅと頬を膨らませる。
柊吾は、微笑ましさに頬を緩ませるが、周囲の視線が痛いほど刺さるので、メイの元まで歩み寄った。
「まあまあ。メイ、落ち着いて」
そう言ってメイの頭にポンポンと軽く手を乗せると、彼女の手から食材の入った袋を奪い、足早に家へと歩き出す。早く人の視線から逃れたかったのだ。
「あっ、お兄様、待ってください!」
「柊くん置いてかないで~」
二人も慌てて後ろに着いて来る。
(みんな、変な噂立てないでくれよ?)
柊吾は内心で祈りながら、帰路につく。
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