再戦

「はあぁぁぁっ!」


 柊吾は勇ましく声を上げ、デュラと共に魔物たちを蹴散らしていく。二人を前衛にメイを後衛に置き、カトブレパス、アラクネ、イービルアイ、と次々に蹴散らした。デュラもメイもさすがに足が速く、柊吾のバーニアにある程度ついて来れる。それになんと言っても、二人にはスタミナ切れの心配も、状態異常にかかる恐れもないということが非常に心強かった。


「このまま一気に抜けるぞ!」


 柊吾は小さな空洞に差し掛かると、フラッシュボムを内部へ投げる。一時的に内部が見えるが、敵の姿は見えずすぐに出口へ繋がっていた。内部には小さな鉱脈があり鉱石類が採取できそうだったが、無視して駆け抜ける。

 毒沼や底なし沼を避け、魔物との戦闘を極力避けながらしばらく進む。

 道中、メイのビームアイロッドの試射も済ませておいた。どうやら持ち手の突起を押している間はチャージ状態でゆっくり光が収束していき、放すとレーザーが発射される。そのようにして出力を調整することができ、低出力では魔物を怯ませる程度で最大出力だとカトブレパスの体を貫通するほどの威力になった。この武器の元となったイービルアイは改めて有能に思う。


 しばらく歩いてようやくターニングポイントの洞窟の前に辿り着いた。その入口周辺には数々の毒沼があり、洞窟に入るにはその合間を縫っていく必要がある。それでも人ひとりが通れるほどの狭い道だ。辿りついたハンターたちは、いつもここで襲われるのだという。

 柊吾たちは洞窟から離れたところで足を止めた。


「メイ、大丈夫かい?」


「は、はぃ……」


 柊吾が背後のメイに目を向けると、メイは不安げに瞳を揺らし洞窟を見ていた。杖を両手でギュッと握り胸の前に寄せている。小刻みに唇が震えているのを見るに、凄く緊張しているようだ。道中の魔物討伐を見ていたって慣れることはない。


「大丈夫だよ。上手くいかなくたって、手段は他にいくらでもあるんだ。もしなにかあっても、そのときは俺の命を懸けてメイを逃がすから」


「お、お兄様……」


 柊吾が安心させようと微笑みかけるも、メイは捨てられた子犬のような不安と恐怖の入り混じった表情で柊吾を見上げる。なにかを失うのを恐れているかのようだ。

 柊吾が次にかける言葉を見つけられず固まっていると、横でカキンッと金属のぶつかる音が響いた。柊吾とメイが驚いて音源を見ると、デュラが腰を落とし前方上空を見ていた。おそらくランスと盾をぶつけて二人に注意を促したのだろう。

 彼の視線の先では、恰幅が良く毒々しい色の鳥が柊吾たちへと飛んで来ていた。

 柊吾は険しい表情でデュラの前に歩み出ると、背のグレートバスターを抜き二人に散開するよう指示する。

 コカトリスが広い毒沼の上空まで差し掛かると、柊吾はバーニアを噴かし飛び出した。


「アンとリンの敵討ち、付き合ってもらうぞ!」


「――クカァァァァァ!」


 コカトリスは真正面から急接近する柊吾へ猛毒の塊を吐き出す。以前、彼の左腕を溶かした漆黒と深緑の猛毒ブレスだ。柊吾は肘とブーツ側面からバーニアを噴射し水平に避ける。コカトリスも一定のリズムでブレスを放っていく。

 柊吾はアイスシールドの内側からコカトリスを捉えつつ、飛来する猛毒の塊を避けながら肉薄した。


「食らえぇ!」


 コカトリスの頭上から大剣を振り下ろすも、コカトリスは身を反らしかすり傷程度しかつけられない。反撃とばかりに紫色の翼を柊吾に叩きつけてくる。柊吾はアイスシールドで防御するも大きく押し飛ばされた。


(まだまだ!)


 柊吾は高速で迂回しコカトリスの斜め後ろへ回る。そのままコカトリスの首を断とうと大剣を振りかぶる。しかしコカトリスとて反応できないわけではない。体勢を斜めに傾けたかと思うと、柊吾の斜め上からコカトリスの尾が振り下ろされた。深緑の光沢放つ鱗に覆われた蛇の尾が。


「しまっ!」


 まともに食らってしまった柊吾は、思わず大剣を手離し、自身も勢いよく叩き落される。

 このまま落ちれば下は毒沼だ。しかしこの勢いだと、バーニアを噴射しても落下の速度を緩める程度に過ぎず、着水は避けられない。

 柊吾は左腕『オールレンジファング』をコカトリスへ放った。後は掴んだ部位へ向けて腕の糸を巻き取るしか落下を食い止める方法はない。


「――んなっ!?」


 しかし頼みの綱である左腕は、なにかを掴む前にコカトリスの尻尾によって振り落とされた。

 もう毒沼への落下は不可避。そう思われた。

 そのとき、柊吾の左手はなにかに掴まれた。


「デュラ!」


 柊吾の左手を空中で掴んでいたのはデュラだった。彼はそのままの勢いでコカトリスの背に乗る。

 柊吾は急いで風魔法を発動し糸の巻き取りを開始。間一髪、毒沼表面すれすれで止まった柊吾はデュラの元へ向かう。

 しかしデュラは柊吾の左腕を右へと思い切り放り投げた。


「っ!」


 その直後、コカトリスがその場で体を暴れさせデュラを振り落とすと、落下するデュラの真上からクチバシを叩きつけた。大きな衝撃音のすぐ後に盛大な水しぶきが上がる。


「デュラぁぁぁっ!」


 横へと投げ飛ばされていた柊吾はやがて、地面に叩きつけられ泥をはねさせながら転がる。激突の衝撃で体中に痛みが走ったものの、柊吾はすぐさま立ち上がる。デュラに投げられたおかげで毒沼から離れた陸地に着地していた。

 しかしコカトリスも既に柊吾へ狙いをつけていた。


「カアァァァ!」


 コカトリスは叫び柊吾目掛けて飛んでくる。柊吾はすぐさまバーニアを起動して飛び上がり、今度は背を向け逃げ出した。

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