クラスDハンター『メイ』

 数日後、準備は整った。

 まず、シモンの紹介で訪れた魔術師専門店でメイに似合う、袖の長い紺のローブとロングスカートを買った。この装備一式には防御力上昇の魔術が施されており、魔術が使えない者でも常時発動できるため高価だ。だがメイには動き回ってもらうことになるので丁度良い。


「わぁ……柊吾お兄様、ありがとうございます」


 喜びながら姿見で全身を見回しているメイは年相応だった。柊吾は年の離れた妹を持った気分だ。


「可愛いらしい妹さんだね。大切にしてやりなよ?」


 ローブを改造した肩出しミニスカートの店員のお姉さんが微笑ましげに声をかける。柊吾は頬を緩ませながら頷いた。


「はい、もちろんです。それじゃあメイ、行くか」


「はいっ」


 メイは満面の笑みで元気良く返事をすると、柊吾と二人で店を出た。今回はデュラは留守番だ。

 すぐ近く、シモンの店に訪れると依頼していた新装備は完成していた。

 シモンはメイの前に膝をつき、杖を差し出す。その杖は先端以外の形状は一般的な木造りのものだが、サイクロプスの角で全体的に強度が底上げされている。先端には、小さな砲門のような筒があり、中央の凹みに透明な球体が嵌められている。これはイービルアイの目玉を加工したものだ。

 シモンは杖の真ん中あたりにある突起を指さしメイに優しく説明する。


「ここを押すと、レーザーっていう高熱の光線が出るんだ。そこそこの距離まで届くけど、火力が高いから注意して使うんだよ? あと、撃つときは両手に力を込めて、狙いが逸れないように足を踏ん張るんだよ? いいかなメイちゃん」


「はい、ありがとうございます。シモンさん」


 メイは受け取った杖『ビームアイロッド』を突起に触れないよう、注意しながら胸に大事に抱え頬を緩ませる。

 しかしシモンは浮かない表情だった。


「う、ぅん……僕にはお兄様と言ってくれないのかい?」


「ご、ごめんなさい」


 メイはしょんぼりと眉尻を下げ謝るが、呼び方は変えない。

 柊吾、ちょっと優越感。


「ありがとうシモン。おかげで準備が整った」


「いいさ。で、出発は?」


「午後には行くよ」


「そうか。心配はいらないと思うが、無茶はするなよ? 特にメイちゃんを危険な目に合わせたら許さないからな」


 柊吾は「もちろんだ」と力強く頷くと、家へ戻った。

 ポーション、エーテル、フラッシュボムなどの必要なアイテム類を揃え、沼地での体制やコカトリス戦での作戦などをデュラとメイへ説明すると、柊吾は二人を引き連れ紹介所へ向かった。


 ユリたちは事情をよく分かってくれていたようで、今朝届いたバラムの依頼書を見せるとすぐに手続きを始めてくれた。

 ユリが手続きをしてくれている間、ユラとユナが「可愛い、可愛い」とメイの話し相手になってくれたが、ツインテールとポニーテールが揺れるほど興奮している二人の勢いに、メイは目を回していた。デュラも後ろで腕を組み、うんうんと頷いており、柊吾は微笑ましい気持ちになる。


「手続きはこれで完了です。どうかお気をつけて」


 柊吾はユリから受け取った受注書の控えを確認し気を引き締める。

 そこに書いてあったメンバー……クラスCハンターの柊吾、クラスDハンターのデュラ、そしてクラスDハンターのメイ。

 彼女を争いの世界に引きずり込んでしまったことを改めて痛感する。だがここで止まるわけにはいかない。


「それじゃあ二人とも、行くぞ!」


 柊吾は二人を連れ、再び瘴気の沼地へと足を踏み入れるのだった。

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