出陣の時
クロロが転移石のある第二教会へ到着すると、そこには想像以上に人がいた。
第二陣の出撃を決意した騎士たちに加え、ハンターたちまでいたのだ。
町の未来よりも利益や身の安全を優先する彼らが、この絶望的な戦い参加することに、クロロは驚きを隠せない
「――よぉ」
横から声をかけられクロロが顔を向けると、アンが白い歯を見せ豪胆な笑みを浮かべていた。その後ろにはエルフのリンもいる。
「あんたは獣人の……なんでハンターがこの戦いに参加する?」
「バラム会長から、討伐隊に手を貸してくれって言われたからさ」
「俺が聞きたいのはそういうことじゃない。この戦いは死ぬ可能性が凄く高いんだぞ。リスクに見合うだけの報酬が出るのか? じゃなきゃ、これだけの数のハンターを動かすなんて……」
クロロが疑うように問うと、アンは呆れたように鼻で笑う。
「あぁん? なに言ってんだい。ハンターを見くびってもらっちゃ困るねぇ。確かに、大した利益にはならないし、高い確率で死ぬかもしれない。どう考えても得じゃない。でもね、私たちはカムラに育ててもらったんだ。だからその恩を返そうっていうんだよ」
アンが大きく声でそう言うと、周囲のハンターたちは照れくさそうにそっぽを向いた。
クロロは心の中で彼らに詫びる。ハンターが動く理由など、高い報酬が設定されている以外にないと思っていた。だが彼らにも熱い心があったのだ。
「そうか、ありがとう」
クロロはまっすぐに礼を言った。
その後、クロロは時間の許す限り教会内を歩き回って部下たちを探した。
鍛冶屋や整備隊の面々は、涙ながらに戦士たちを見送り、砲台の早期完成を誓っている。
クロロは全体を見回り部下たちに声をかけていると、来ているはずの部下の一人がいないことに気付いた。
「――キルゲルトはどこだ?」
アンは、暇そうに周囲を見回していると、近くに見知った顔を見つけた。
柊吾を逆恨みするクラスBハンターのガウンとそのパーティーだ。
彼らがいることに心底驚いたアンは、思わず声をかけていた。
「なんだ、あんたらも出るなんて珍しいね」
「あ? うるせぇな。あのもやし野郎がいないうちに、手柄を横取りしてやろうってんだよ!」
アンはなんだかおかしくて笑ってしまう。
彼らが柊吾へ燃やしていた対抗心は、今この時にあっては凄く頼もしかったのだ。そのギャップにリンも頬を緩める。
ガウンは額に青筋を浮かべ、至近距離でアンを睨みつけた。
「なにがおかしい」
「いや、なんでも」
しかしアンは、ニヤニヤと頬を緩ませたままだ。
無駄に騒ぎを起こしても意味はないと思い、そそくさとガウンから離れていった。
第二陣が出撃し、ダンタリオンの元へ向かっている頃、ハナは孤児院の裏にある墓地へ足を運んでいた。
ここはユミルクラーケンの触手が襲撃してきた際に破壊され、一時は荒れ果てていたが、教会の人間が少しずつ手を加えていって形だけは整えられている。
誰の墓石かさえ分かればハナには十分だ。
「――テオ、お姉ちゃん行って来るよ」
ハナは弟の墓石の前で膝を折り、神妙な表情で目を閉じる。
その恰好は、蓄電石で打ち直された甲冑を花柄の着物の上に装着し、両脇には小太刀、背には雷充刀アギトを差しており、出撃前といった雰囲気だ。
しかしいつもなら、いちいち報告に来たりしない。
――数時間前、バラムが全ハンターへ討伐隊の協力をするよう要請した。
その中には、引退は宣言したものの未だクラスBハンターとして登録しているハナも含まれていた。
最初は拒否しようとしたハナだったが、ダンタリオンが襲来したと知り、第二陣と共に命を賭けることを決意した。
なにより、道場の教え子たちも出ると聞いて、居ても立ってもいられなくなったのだ。
「私は絶対に戻る。あなたに救われた命を失うつもりはない。だからテオ、あなたも私のことを導いて」
ハナは気持ちを整理するようにゆっくり言うと、閉じていた目を開け、墓前に添えられていたテオの仮面を手にとって立ち上がる。
妖艶で禍々しい雰囲気を醸し出すハナの仮面とは違い、テオの仮面はまるで憤怒の感情を凝縮しているかのように荒々しい覇気を纏っていた。
ハナは紐を使ってそれを腰にくくりつけると、転移石へ向かうのだった。
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