妹を想うがため

 シンは向けられた大剣の切っ先を見つめ、不愉快そうに眉を歪める。


「ふざけるな。たかが兄代わりの君に、なにが分かるって言うんだ」


「あなたの気持ちも分かるよ。それでも、メイの想いを尊重したいだけだ」


「……そうかい。けど誰が相手だろうと、僕はもうアイリスを見捨てない」


 シンが険しい表情で片手を挙げると、墓場に突然突風が吹き荒れた。

 風と共に無数の霊体と半身の骸骨が宙に現れ、青い火の玉が竜巻のようにぐるぐると飛び回る。

 柊吾は左手をポーチに入れエーテルを取り出すと、すぐさま飲み干した。


 ――バチッ! チチ! ジジジジジジジッ!


 静かにショックオブチャージャーへの帯電を開始する。


「メイは離れてて」


「は、はいっ……」


 メイが不安げに瞳を揺らしながら二人を見回すと、静かに下がっていく。


「俺があなたを倒して、俺たちといても安全だって証明してみせる!」 


「おもしろい。やってみなよ!」


 シンが柊吾へと手をかざすと、周囲を飛んでいた霊体と骸骨が一斉に柊吾へ襲い掛かる。

 柊吾は一旦飛び退こうとしたが、地下から手が突き出し足首を掴んできた。


「ちぃっ!」


 慌ててアイスシールドを前方へ展開。

 霊体と骸骨の突進を真正面から受け止める。


「ぐぅぅぅっ」

 

 すぐに大剣を地面に突き刺した。

 そして地中で雷を爆発させる。


 ――ドバァンッ!


 土が盛り上がると同時に、握力が弱まる。

 柊吾は急いでバーニアの出力を上げ、骸骨の体を受け流しながら上空へ逃れた。


「その程度かい?」


 今度は四方八方から柊吾へ襲い掛かる。

 霊体は柊吾の魔力を奪おうと突進し、半身の骸骨は剣で斬りかかる。さらに火の玉まで飛び交うから隙がない。


「これを全て一人で操ってるなんて、信じがたい、なぁっ!!」


 柊吾は四方八方へバーニアを切り替え、空中で激しく動き回りながら、霊体と火の玉をシールドで防ぎ、骸骨を切り伏せていく。

 しかしキリがない。

 次から次へと猛スピードで迫っては去るのだ。

 まさしくオールレンジ攻撃。

 前方の個体を薙いでも、背後から霊体が迫る。

 電撃を放って消し去ると、下から回り込んだ骸骨が剣を振り上げる。

 後方へ下がっても、横から突進してきた個体との挟み撃ちにされる。


「はぁぁぁっ!!」


 冷静にシールドを展開して斬撃を受け止める。

 もう一体を突き刺してから、カウンターで斬り捨て。

 高速で火の玉が迫るが、肘バーニアで旋回し間一髪で回避。


「うおぉぉぉ!」


 ――ズバァァァァァンッ!


 電撃を纏った幅広の斬撃を放ち、敵の一団を薙ぎ払う。

 既に多くの魔力を消費していた。


「まずいな……」


 柊吾はやむを得ず最後のエーテルを飲んだ。

 すぐに新たな集団が飛来する。


「諦めろ。君ではアイリスを守れない」


「くそぉぉぉっ!」


 肘とブーツのバーニアを駆使して機敏に動き回り、一体一体切り伏せていくがキリがない。

 ――ボォォォンッ

 間一髪のところでアイスシールドを展開し、火の玉を受け止めた。


(――なんだ?)


 受け止めた火の玉がその場で静止し、炎の勢いを増したのだ。

 すると、他の火の玉も一斉に集まる。

 そして瞬く間に大きな球体となり――爆発した――


 ――ドバァァァァァンッ!


「ぐぁぁぁぁぁっ!!」


 柊吾は強い衝撃に吹き飛ばされる。

 あまりにも火力が高すぎたのだ。

 大きな黒い煙から、柊吾が逆さまに落下していく。


(ダメだ。一体どうすれば……)


 柊吾は必死に思考を巡らせる。

 ここまでの力を消費して、シン本体にはなんのダメージも与えられていない。

 こちらは既に魔力が底をつき、回復アイテムも使い切ったというのにだ。

 

(くそっ……こんなところでぇ!)


 地面へと落下していく中、柊吾は受け身の態勢もとらず唇を強く噛んだ。

 もう諦めるしかないのかと、心を絶望が包み始めたそのとき――

 

「――柊吾お兄様! 負けないでぇぇぇ!」


「な!? アイリス!?」


 メイがありったけの想いを込めて叫んだのだ。

 シンは動揺に顔をしかめ、そして柊吾は――


「――ふっ」


 落下しながらも不敵な笑みを浮かべた。

 そして頭から地面に衝突する、その刹那――


 ――ズバァァァァァンッ!


 雷光を伴う大爆発を起こした。


「なに?」


 雷鳴と共に勢いよく砂塵が巻き上がる。


「――安心してメイ、俺は負けないよ」


 巻き上がった砂塵が晴れると、そこに立っていたのは全身に迸る稲妻を纏った柊吾だった。

 開放した稲妻によって全身に力がみなぎっている。

 周囲ではバチバチと雷が弾け、翡翠に輝き纏うは不死の王にも劣らない荘厳なる覇気。

 とうとう蓄電石への帯電が限界突破したのだ。

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