完全架構代替世界触媒式先進的破壊事象干渉③

「また……リセットされた!?」


 生身の肉体の感覚をこの場に持ち込んでいたならば、おそらく総毛立つ感覚に襲われていた。

 何が起きているのか、全く理解が出来なかった。

 緩慢にしか動けないアルファⅡモナルキアを、安全な距離を保って、射撃で撃破する。

 妥当な選択だったはずなのに。


「何……何がいけなかった? いったい何が?」


 焦燥を感じながらもリーンズィとミラーズを作業的に破壊して、砲口を黒い鏡像の世界をバイザーに映した兵士に向ける。

 敵戦力の評価を、さらに上方修正。

 だが適切な修正の目処がつかない。


 自分と同じ速度で動けるという評価自体が、そもそも直観的には受け入れられない。アルファⅡモナルキアの蒸気甲冑は全身を覆ってすらいないのだ。外骨格無しで生身で自分と同じ速度で動こうとすれば、通常ならば自身の加速度に耐えられずその場で圧壊して機能停止する。

 常識外れの生命管制があれば可能だろう。しかし、どのような技術水準があれば、それが可能になる? 

 評価をデイドリーム・ハントを担う演算端末に任せると、予想よりも遙かに深刻な光景が展開された。


 跪いて狙撃姿勢を取っていたはずの機体が、今や死神のような気配を湛えて、直立している。

 この加速倍率の世界で、姿勢変更が行えるなどあり得ない。

 恐怖から来る幻像だと言われた方が納得がいく。

 だが、個としての感情を持たない人工脳髄たちが『この機体にはそれが可能だ』と判断したのだ。


 二連二対の赤いレンズを輝かせた未知のアルファ型スチーム・ヘッドの背負う重外燃機関から、鮮血色の蒸気が排出されつつある。

 そして左腕を覆う重厚なガントレットに、殺人的な紫電が迸っているのを認識する。


「ケルビム・ウェポンか……?! やはりあの大型蒸気機関スチーム・オルガンは、そういう機械だったのか。だが、発動はだ! チャージは終わっていない、わたしよりも速くは撃てない! やはり、私の方が速い! 弾種変更はせず、最速の動作で、全弾を生体部分に撃ち込んで……」


 リーンズィもミラーズも後回しだ。

 不朽結晶連続体の弾丸がアルファⅡモナルキアの胴体を、腰部を、脚部を穴だらけにする。

 心臓は破壊。頸椎と背骨は胴体ごと空洞になり、脚部も貫いて引き千切った。身動きは取れまい。どのような蒸気甲冑と人工脳髄を装備していようとも、ここから挽回してくることは、どのような可能性を検討しても不可能だ。だが、スチーム・ヘッドは眠らないのだ。不滅を約束された肉体が目覚めているのだから、夢など見ない。このスチーム・ヘッドはいつも目覚めている。

 お前を見ている。


 白兎の大鎧、ウンドワートは、若干の自信喪失を感じていた。


「罪悪感だ。まさかここまでの破壊行為に至るとは……」


 


「また、またリセットされたっ……!?」


 大兎の蒸気甲冑兵士は悲鳴を押し殺し、その場でケルビム・ウェポンの起動操作に移った。

 背部の重外燃機関が急速発電を開始。延長された不朽結晶の両手を突き出し、範囲焼却用のプラズマ場を展開するべく、磁場制御装置を起動させた。


「しょ、小規模破壊で済ませようという算段自体が間違いだったと?! 通常火器で先制してアルファⅡモナルキアを破壊しようと、逆に反撃される未来が待ち受けているとでも!? ならばさらなる先手を取る! 小細工は抜きで、この超高機動状態突入から、即座に一帯を相転移させて、焼却してやる! リーンズィも、ミラーズも、アルファⅡモナルキアも、巻き添えにして申し訳ないがアレックスも! ここは一切合切を消し炭にして……!」


 叫んでいるうちに、猛烈な違和感を覚えた。

 代替現実の世界を見渡した。


 姿

 どこにもいない。


「こ、こんなふざけたことがあるか!」


 ウンドワートの声はいよいよ悲鳴を上げた。


「ここはわたしの仮想構築した世界、なのに初期位置にすらいないなんて……!」


 ――背後で男の声がした。


「この……プラズマ場を作るための兵器が……ケルビム・ウェポンと言うのか?」

 

 ウンドワートは咄嗟に、背後へと腕部の刀剣が如き爪を繰り出した。

 猛烈な違和感を覚えた。

 何が起きたのか分からなかった。

 仮想代替現実の世界を見渡した。


 アルファⅡモナルキアの姿が、どこにもない。

 いや、いや、そうではない。それどころではない。


  


 繰り返し繰り返し内心をよぎった悔恨の言葉が、またも脳裏に去来する。

 ――ライトブラウンの髪の少女は、右腕を悪性変異させたまま凍り付いている。

 何も変化していない。

 それどころか、


「リセット、された……」


 ウンドワートは慄然たる感情と共に、一つの結論へ至る。


「こ、これはわたしの作った代替現実じゃ、ない……?」


「いいや、君の作った仮想現実だ。それを私が掌握したと言うだけのことだ」


 背後から男の声がする。

 ウンドワートの耳元で、紫電が弾ける甲高い音が鳴った。


「……!?」


「土足で入り込んだのは許してほしい。おっと、今のは冗談だ。あまり気にしなくて良い。むしろ気を楽に……いや、場の空気を和ませるなど、私のユーモアレベルでは無理か。本来ならば、リーンズィに任せたいところだ」


 ウンドワートは、あまりの事態に、振り向くことさえ出来ない。

 敵は自分の背後でケルビムウェポンを既に起動している。

 それ以前に、デイドリーム・ハントが、全く通用していない。

 有り得るはずが無い状況。

 仮想された肉体が強張ってしまっている……。


「智天使ケルビムは炎の剣を携えてエデンの東を守っているのだったか。だからこのプラズマ焼却機を、ケルビム・ウェポンと呼んでいるのか。なるほど、ようやく合点がいった」


「ど、どうして……」兎の大鎧は、震える声で問うた。「どうやってデイドリーム・ハントに干渉を……」


「デイドリーム・ハント。それが、この未来予測演算の名前か? 敗因を挙げるなら、君が我々アルファⅡモナルキアの電子戦能力を見誤っていたことだ。そこは少なくとも同程度だろうと評していてくれただろうに。アルファⅡ同士、共通する機能があるとは思わなかったのか?」


「貴様にも同じ機能があると? だがそれなら、精々が私と同程度の機動力を発揮するという程度で終わるはず。こんな干渉ができるわけがない」


 ここはウンドワートの人工脳髄が演算したシミュレーション空間なのだ。

 他の人工脳髄が侵入できる世界では無い。


「いったい、どうやって」


「簡単なことだ。君はこの、生体脳の使用を前提としない未来予測演算に全能力を捧げている。そして、生体脳に守られていない人工脳髄のクラッキングは、さほど難しくない」


「人工脳髄の、クラッキング……?」


 ウンドワートは唖然とした。

 そんなことが出来るのは、全自動戦争装置に類する機体にしか心当たりがない。

 つまり――最上位存在だけだ。

 受け入れがたい事実だが、しかし実際に自分はデイドリーム・ハントにおける優位性を喪失し、偽りの魂を侵食されている。


「擬似人格は、生体脳という強固な防壁に囲まれている。不死病患者は常に覚醒した状態で、通常なら外部から直接干渉することなど出来ない。しかし、君の場合は、生体脳の使用率を下げて、演算を人工脳髄単体で完結させたのが悪手だった。私の統合支援AIは負けず嫌いだから、どうやら劣位のまま押し切られるのは腹に据えかねたらしい。人工脳髄の防壁がフリーになったと見るや、全力で干渉を開始した」


 どこからか、怜悧な女の声がした。


『人類文化継承連帯、アルファⅡウンドワートへ通達します。エージェントたちが行動停止に追い込まれ、アルファⅡモナルキアが一部損壊する程度ならば、干渉はこの予測演算の機能確認に留める予定でした。しかし、貴官がミラーズとリーンズィを完全に破壊する選択を取った時点で、徹底的な対抗措置の実施を決定しました。もはやそこは貴官の狩り場ではありません。我々の世界です』


「……三十もの人工脳髄で演算したシュミレーション世界を、そう簡単に乗っ取れるわけが……」


「我々に搭載されたプシュケ・メディアは、。その全てに簡易人工脳髄としての機能がある。演算中の人格の数が問題になるなら、それこそこの場では問題にならない」

 アルファⅡモナルキアは淡々と告げた。

「我々の通常物理攻撃が、君の装甲に通じないのと同じだ。これは単純な性能差の問題だ。リーンズィとミラーズの支援を一時的に打ち切れば、リソースはさらに増大する。使用可能な演算能力を全て投入すれば、さほど困難な仕事ではない」


 信じがたい事実だが、信じようと信じまいと、ウンドワートは完全に制圧されている。


「わ、わたしを、どうする。これから、どうなる」


「まだ何もしていないし、どうにもならない。現実で動いていないのは当機も同じだ。抵抗するならば、この予測演算を確定させて、最上位オーバードライブに突入し、背後からケルビム・ウェポンを撃ち込んで君の生体部分を破壊する」


「動けるはずがない。圧壊して終わりだ」


「では、このままシミュレーション世界に留まり、貴官のリアクターを引きずり出して再生が不可能になるような加工を加えるか、貴官のメイン人格記録媒体が不可逆の精神崩壊を起こすまで何千時間か拷問する方が現実的か。どうであれ、君は何もできないまま機能停止することになる。貴官の敗北は確定している。もちろん、抵抗しないなら、交渉には応じる」


「わたしが……わたしが、負けた……?」


 敗者がどうなるか、ウンドワートは身に染みて理解している。

 その尊厳がどれほど無様に踏みにじられ、穢されるのかも。

 アルファⅡモナルキアは事務的に通告を続けた。


「さて、貴官がどうなるかは、捉え方による。私の指示に従えば、少なくともプシュケ・メディアや君の用いるボディへの徹底的な破壊は実行しない。その上甲冑の格納スペースだと、生体CPUとして使用できる不死病患者は限られていると思うが……どうする? 存在しない可能性を信じてまだ抵抗をするか? 不死病患者を新しく用意するのも手間だと思うが」


 兎の騎士は、忸怩たる思いで応答した。


「……条件付きで要求を受け入れる。しかし何をさせる気だ? カースドリザレクターの増産には手は貸さない。それは同胞たちへの裏切りだ。そんなことをするぐらいなら、発狂して壊れた方がまだ良い」


「私にそんな意図はない。誤解があるようだが、あの子、リーンズィの部分変異実行も、我々としては不本意なのだ。率直に言えば我々が欲しかったのはリーンズィの経験値であって勝利ではない」


 意外にも、その兵士はどうやら悩んでいるようだった。


「リーンズィが強く希望したので許可を出したが、そう軽々と使って良い機能ではない。脳波も想定より乱れている。少なからず暴走を起こしているのだろう。早く止めるべきだが、彼女はここのところ負けが込んでいて不安定なのだ……。成功体験とか、頑張った感とか、そういうのがないまま人格を成長させるのは不味い」


「成功体験……頑張った感……」

 場違いな言葉に、ウンドワートは当惑した。

「事情は知らないが、擬似人格の育成をしているの?」


「そうだ。かといって、このまま無謀な戦術を良しとするような人格に意思決定の主体の座を与え続けるのも良くない。だから、今回の戦闘では、『格上相手にそこそこやれるにせよ、今の自分ではまだまだ無理だ』という自覚を与えたいのだ」


「わたしは今、君たちに負けているのだけど……」


「アルファⅡモナルキアが勝利することに意味はない。その勝利には、価値が無い。むしろリーンズィに成長をしてもらうために、敗北するのが望ましい」


 男の声には何の敵意も感じられない。

 しかし、事務的な口調で突きつけられたのは、信じがたい要求だった。


「そこで降伏した貴官に依頼したいのは、もう少し小競り合いをして、彼女の右腕を切断し、悪性変異体となった部分を切って捨てて欲しいということだ。リーンズィは身の程を知り、あのふざけたモードは見た目が派手なだけで使い途がないと理解する。そこで、晴れて勝負は終わりだ。もちろん我々は譲歩も行う。表向きは貴官の勝利ということで良い。……君の目的は、勝利なのだろう? 君の勝利には、意味がある。我々も君も、大きな損はしないだろう」


 意味が分からなかった。

 一方的に捲し立てられた条件に何かトラップがあるのではないかとウンドワートは疑ったが、どれだけ検証しても大した内容ではない。


「その後は?」


「戦闘は終了する。バックドアも必要な分以外は撤去する。君の人工脳髄を不必要に侵犯することは無いと誓約する」


「バックドアは残すのか……何のため?」


「緊急連絡や、貴官の加害行動を監視するためのものだ。襲撃された我々なりの警戒だと考えて欲しい。貴官をさらにハッキングして我々の破壊活動に参加させるようなことは決して無いと誓約する。リーンズィもミラーズも拒否感を示すだろうし、特にリーンズィの情操教育に悪い。バックドアの使用は貴官が許可した場合と、我々が悪意によって君に攻撃された場合に限られると、重ねて誓約する。また、調停防疫局の全権によって、これを契約とする」


 ウンドワートは混乱しつつも思考を纏めた。

 要するに、このスチーム・ヘッドが言っているのは、こういうことだ。


①今回の戦闘はアルファⅡモナルキアの勝利である。抵抗せず、条件を受け入れるのであれば、アルファⅡウンドワートに対して一切追撃をしない。

②降伏する場合、アルファⅡウンドワートは、降伏した上でリーンズィなるスチーム・ヘッドに対し攻撃を続行。変異部分を除去する。アルファⅡモナルキアに対して表面上の勝利を得て良い感じのところで切り上げる。

③バックドアは残置されるが、これは今後敵対することが無いなら、使用しない。


 最後の部分はモナルキアを信用する他ないが、この場で裸に剥かれて精神崩壊するまで拷問されても文句を言えないほどウンドワートは追い詰められている。

 敗者に対して勝者は絶対的な権限を持つものだ。疑っても利益はない。

 だからこそ、突きつけられている要求が不自然な程に軽いのが気に掛かった。


「……どうせなら、このまま勝ってしまえば、アルファⅡモナルキアの地位は確固たるものになるのに」


『不要です』と女の声がする。『心が折れない程度に善戦し、しかし確実に敗北する。それこそがエージェント・リーンズィに与えるべき体験です。出来レースで勝利しても無意味です。正しい敗北が強い子を育てます』


「手加減するにしても、あの端末たちはかなり酷い目に遭うと思うが……少なくとも右腕を切断しろと君たちは要求しているし……」


『敗北する以上、多少の損傷は当然かと。あと痛くなければ覚えないという格言もあります』


「あの……私も生前からこの装備を与えられるまで、キツい教育をされたからあれだけど、そっちもなんか結構、かなり、そうとう、酷い育成方針してない……?」


 ウンドワートはついつい素に帰って呆れ声を出してしまった。

 アルファⅡモナルキアは「そうだろうか?」と首を傾げる。


「どうであれ、同型機とは仲良くしたいところだ。貴官も……君も、私のエージェントたちと仲良くしてやってほしい。リーンズィはまだまだ未完成だ。外部の愛着対象が出来れば、さらに成長する」


「あの綺麗な茶髪の娘に随分と気をかけているようだ。まさか君はヴァローナの信奉者なのか?」


「無関係だ。ヴァローナなる機体とは面識がない。だが肉体に生じたあの彼女には、可能性を感じている。この私には無いものを彼女は持っている。……私の目標は殆どが潰えてしまった。こんな出鱈目な世界で旧WHO事務局を探すなんて不可能だ……ポイントオメガは……もはやこの『私』には目指す意味など無い。我々アルファⅡモナルキアは行き止まりに直面している」

 アルファⅡモナルキアは淡々と吐露した。

「だから、今はリーンズィ、あのエラーの混じる、酷く儚い人格だけが、頼りなのだ。それが誤った愛着感情に根ざしたものでも構わない。使命など無くても、純粋に誰かを救うために、機能を行使する。そのような精神は、我々には無い。我々は所詮、与えられたフレームに沿ってしか動けない擬似人格なのだから。あの脆弱で柔らかな人間性こそが行き先のない我々の灯火なのだ。アルファⅡモナルキアは、君からはおそろしく歪に見えるだろう。災厄の化身に見えるかもしれない。だが、きっとリーンズィなら、彼女なら……」


 混沌とした独白に耳を傾けながら、ウンドワートは問いかける。


「……世界をカースドリザレクターで覆い尽くすのが目的ではないのか? 君はそれが出来る機体だ」


「機能から目的を逆算するのは無意味だ。カースドリザレクター……悪性変異体は、存在するべきではない。永遠に終わらない苦痛など到底容認できない。私とて、彼らの魂なき諍いを止めたいと願っている」


「その言葉を信じるなら君も……やはり私と同じ、アルファⅡなのだな」

 ウンドワートは振り向かないまま居住まいを正した。

「謝罪するべきか。突っかかってすまなかった」


 この得体の知れぬ機体が虚偽を並べている可能性は、もはやあえて考慮しない。

 デイドリーム・ハントをハックされている現状を鑑みれば分かる。敵意を向けてきたウンドワートをいつでも排除可能な状態に追い込んでおきながら、わざわざ嘘をつく合理的理由がない。

 それに、とウンドワートは空想する。

 おぞましいとは思っていたが、こうして話してみると、それほど意見が通じない相手とも思えなかった。

 だからこそ、誠意として僅かばかりの本心を晒すことに決めた。


「……私は、強いだけなんだ、それ以外には何もないから、必死になってしまった。そのせいでいらぬ負担を強いたのであれば、重ねて謝罪する」


「望みを失って硬直しつつある我々よりは、ずっと好ましい。あるいは君に課せられた使命を鑑みれば、この襲撃は当然の行動である。調停防疫局は、この襲撃を一切非難しないと誓約する。アルファⅡウンドワート。貴官も、我々の存在を排斥しないと誓約してほしい」


「……誓約する」


「喜ばしく思う。名前の交換がまだだったか、どうだったか。 いずれにせよ、君には改めて名を、私の名を名乗ろう」


 アルファⅡモナルキアはするりと白兎の大鎧の脇をすり抜けて、黒い鏡像のバイザーに、最新にして未知の姉妹機の姿を映した。 

 そのヘルメットそのものが『私』であるとでも言うように。


「調停防疫局所属、アルファⅡモナルキア。……今は、その内奥にあるだけの、空白の人格だ。リーンズィの名は彼女に渡してしまった。そうだな、ヴォイドとでも呼んでほしい。この『私』とは二度と会うことはないかもしれないが」


「わたしは人類文化継承連帯、アルファⅡウンドワート。……鎧からは降りない。厚かましいけれど、正直、この状況でも、この中身を晒してしまうのが怖い」


「構わない。どうかよろしく、ウンドワート。未知なる姉妹よ。私はようやく一つ、争いを止められた」


 ヴォイドのその声には、どこか明るい色彩がある。


「……貴官との争いを調停できたこの日を、私たちは機能が停止するまで忘れないだろう。もっとも、現在の意志決定の主体であるリーンズィは、この状況を一切記憶しないのだが……」

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