セーラー服は疾風に舞う①
対抗オーバードライブによって加速状態に移行したイーゴは、電撃的な速度で散弾銃の銃口を<首斬り兎>=ツジ・ヒナに向けた。
水中を這うような猛烈な空気抵抗に逆らっているせいで、外骨格のフレームが鈍く軋みを上げている。その不自由な速度で以て、イーゴは自身が異様な加速倍率で戦闘状態に突入していることを認識し、恐るべき戦闘速度での交戦を予期した。
体感でのオーバードライブ倍率はおおよそ二十倍程度か。戦闘用スチームヘッドの中でも上位の機体だけが突入が可能な領域であり、思惟とメカニズムに基づく非言語的かつ非効率的な
通常のオーバードライブとは比較にならないほど燃費が悪く、部隊単位で作戦行動に参加する際にはリミッターが設けられ、独断での使用は不許可となる。電力を一気に使い切ったスチームヘッドなど、自己凍結を起こした不死病患者と違いが無い。ましてや戦闘用が電力切れを起こすことの損失は計り知れないものである。
たとえ対抗オーバードライブが起動するような危機的状況であっても、一息での超高倍率加速は、部隊長がリミッターカットを許可していなければ不可能だ。
イーゴには実のところ許可を受けた記憶はないのだが、しかし疑問に思うことはない。現にその領域への到達に成功しているのだから、隊長を務めるケルゲレンが、危ういところで判断を下したと考えるのが妥当だった。
どうであれこの倍率の世界にいきなり放り出された現実を受け止めるべきだった。常識を越えた加速が許されるほどの敵。自身のおかれているであろう圧倒的に不利な状況。緊急事態。最適な身体操作アルゴリズムを実行しながら状況を確認する。
イーゴの意識がオーバードライブ状態に突入するまでの時間は一秒を切る。さらに、肉体と人工脳髄は瞬きよりも短い時間で加速を完了させ、事前に設定しておいたプログラムに従って人格記録の指示を待たずに自動行動を開始する。
軍団でも比肩する機体が少ないほどのレベルだが、それであってもスチーム・ヘッドとの戦闘において先手を取られたのは、果てしなく致命的だ。
散弾銃の銃口で不明目標を牽制しつつ、オーバードライブ酔いで錯綜している記憶を最低限整理する。
……リーンズィが戦闘に突入したこと。
……ミラーズがオーバードライブで救援に向かい、そしてリーンズィらしきものと一緒に飛び出してきたこと。
……ハンターから精密砲撃による支援があったこと。
ここまでは、辛うじて認識している。
それから何秒経った? 通常知覚領域からオーバードライブへ突入するまでの間には脳内で誤差が生じる。10ミリ秒未満か? それですら長い。
イーゴは正面戦闘に特化したスチーム・ヘッドではないが、装備面で劣っていたとしても、ほんの10ミリ秒敵に先んじたならば、完封出来る自信がある。
そして、その逆も又然り。戦闘用スチーム・ヘッドなら誰でもそうだろう。
オーバードライブ搭載機同士の戦闘はそれほどまでにシビアだ。蓄積された
果たして、照準の先には少女が立っている。二階の窓からこちらを見下ろしている。死人のような、美しい女だった。真っ黒な衣服。真っ白な肌。死体のような……。イーゴの脳裏で幾つかの犯罪現場がフラッシュバックして消える。
異様に短いスカートが風に煽られている。やけに派手なレースの下着へと視線が向かいそうになるが容易く視線誘導されるほど陳腐な脳髄ではない。
斥候を買って出たリーンズィから共有されていた情報が、加速度の安定に伴って、ようやく人工脳髄で展開され、情報タグとなって生体脳の取得している映像に添付され始めた。
『仮称:首斬り兎/東アジア経済共同体正規軍 葬兵ヒナ・ツジ』のタグを確認。
シィーなる機体とは異なるらしいが、撃つべき標的だと即時理解。猥褻なハロウィーンの乱痴気騒ぎ以外では用途が無さそうな淫猥な海兵風の学生服、大腿部その他の急所を大胆に露出している標的の姿に些かばかり混乱しつつも、それでも躊躇わず撃とうとする。
目標がオーバードライブに突入しているのは熱量を観れば分かる。
だが状況がおかしい。トリガーを躊躇する。
何故敵は動いていない?
――何故味方が行動していない?
首斬り兎が身じろぎして、今度は何か無毛の脇とカタナを見せつけるようなポーズを取ったままで、停止した。
……まともに動く兆候が一切無い。
そのせいで、視聴覚依存型の敵味方識別装置が、明確に敵だとは判断してくれなくなった。
システムを無視して自分の意志でトリガーすることも可能だが、状況が通常とは異なり、しかも第三者的な立場から情報を選別する装置が沈黙している以上、ケルゲレンに指示を任せた方が無難だ。
『待たれよ、イーゴ』ケルゲレンの無声通信だ。『どうも奇妙である』
奇妙なのは同意だった。
というか誰にもで分かる。
相手は何もかも奇妙だ。
なるほど、確かに首斬り兎なのだろう。不朽結晶製のカタナと高倍率のオーバードライブ。外骨格に組み込まれた蒸気噴射機。跳ね回るように敵を斬るに違いない。
だがイーゴの主観では、そのスチーム・ヘッドはおおよそまともな戦闘に投入される機体とは認識出来なかった。
カタナ・ホルダーと蒸気噴射孔が一体化した増加装備は背中から外側へと突き出しており、明らかに翼の意匠が盛り込まれているが、兵器としての有用性はありそうもない。
加えて、足元に置いている得体の知れない大型装備も、レシプロエンジン時代の戦闘機機首のガワだけ被せたような珍奇さで、彼を困惑させた。
おそらくは大型蒸気機関兵器であり、それがどれほど危険かも知っている。
だがそんな装備を稼動させるでも無くただ自慢げに晒し、黒い海兵服のスカートの内側を隠すこともなく気取って立っている少女のことが、理解出来ない。
人工脳髄がノイズを発する。イーゴの脳裏で幾つかの犯罪現場がフラッシュバックして消える……。
『……どうなってる。戦闘は?』
散弾銃の銃口を下げながら問う。
『開始しておる。だがどうも話が通じるらしいのだ。詳しくはリーンズィに聞け』
『リーンズィ、あれが首斬り兎だろう?』と言いながらリーンズィを振り返り、暴行でも受けた後であるかのように半裸を晒している少女の姿に困惑を深める。人工脳髄がノイズを発する。幾つかの犯罪現場の記憶がフラッシュバックして消える……。『何故服を半分脱いでいる?』
『あれが首斬り兎だ。……あっ、そうだった、私をあまり見ないでほしい』
リーンズィはさっと体を隠した。表情は淡いが羞恥心のようなものは感じた。
『今更興味は無い。それで?』
『まだ同定は済んでいないが、間違いない。あと服は彼女に脱がされた』
『脱がされた……?』
人工脳髄がノイズを発する。イーゴの脳裏で幾つかの犯罪現場がフラッシュバックして消える。
視線は足の先から、指の痕がついている肌、貫かれて血の滲んでいる下腹部へと注がれた。すぐに大した損傷程度では無いと理解したらしい。
『まぁいい、何故突っ立っている。撃たなくて良いのか? あと、これ以上俺の人工脳髄に潜って情報を読み出そうとしても無駄だ』
もうイーゴは完璧に状況を理解しているらしい。
素直に状況についてのデータをイーゴに追加転送しながら、リーンズィはチープ・ユイシスの動作試験を終了した。
イーゴの指摘通り、リーンズィはイーゴの思考を盗み読みしていた。
かなり機能制限されているが、ハッキング済でバックドアが有効な状態になっている機体なら、かなり精巧な情報取得が可能なようだ。
イーゴの思考内容まで精緻に把握出来たが、あまり気持ちが良いものではないし、そのうち怒られそうので、封印することにした。
アルファⅡモナルキアが彼らの人工脳髄にバックドアを作成していたのは、リーンズィとしても心外だ。
ミラーズと秘匿回線でこの可能性についてやりとりしていたのは、ペンギンの動画を再生した後のことである。
『みんなで観てくださいね』という添付メッセージがあったため、親睦を深めるという名目でペンギンさんたちの動画を各機に転送していたのだが、それがどうもある種のウィルスのように作用したらしい。
バレたら怒られそうなので非常に気まずいことだったが、二十倍速を超えるオーバードライブは通常ならば対応出来ない。
もちろん二十倍程度の世界に突入出来ないスチームヘッドはこの部隊にはいないのだが、たとえ専用機であっても肉体および人工脳髄への負荷が尋常ではないため、通常は許可や、非常事態の明確な認識が必要になる。
だからケルゲレンに先んじて、イーゴとグリーンの人工脳髄をハックし、セーフティを外しておいた。
ケルゲレン自身にも『許可を出した』という偽記憶を植え付けている。
彼ら三人が一気にオーバードライブ倍率を上げられたのはそのせいだ。
危険な状況ではあったし……稚拙な工作ではあるがこの状況なら怒られないはず……とリーンズィは割り切った。もしもハッキングによる法的に見て怪しいオーバードライブ起動が間に合わなければ、援軍がやってくるタイミングはさらに遅れ、リーンズィは首斬り兎に撃破されて終わっていた可能性は高い。
実態としては怒られたくない気持ちに立脚したただの現実逃避であるにせよ。
『どうしたものかのう……』
とは言え、リーンズィもケルゲレンの部下たちも迷いに迷っていた。
どうしたことか、少女はここに来て全くの無抵抗だ。
ミラーズを除く誰よりも早くオーバードライブに突入していたケルゲレンが慎重姿勢を見せるのも無理は無い。
彼も迎撃態勢を取っていたのに、状況判断に躊躇している。
実際、リーンズィを苛烈に攻め立てていたにも関わらず、追い打ちを掛けて来る兆しがない。奇妙、という言葉すらもう適切ではないかもしれない。
イーゴはそんな中でも冷静にヒナ・ツジの身体状況を走査しているようだった。
『……目標には損傷があるな。腹部に貫通痕。真っ二つになってないなら、ハンターの狙撃による槍弾じゃない。リーンズィ、交戦はしたんだな?』
『交戦はした。詳細は省くが、装備を換装して、それきり無反応になった』
と、加速した時間感覚の中で完璧に静止していたグリーンが身じろぎをした。
ようやくこちらの世界に追い付いてきたらしい。
通常の二十倍という速度において発生する負荷を確認するために、スパイク状の脚部の踏み場を変え、四本の腕に規定通りのプログラムを流し込んでキャリブレーションを行った。
『うー! 遅くなりました。極近距離攻撃専用特化機グリーン、オーバードライブ突入完了です。二十倍の世界はキツいなぁ』
グリーンは自己破壊前提の増幅された知覚能力に適応し、ゴーグル状のレンズで、二階からこちらを睥睨している海兵服姿のスチームヘッド――ヒナ・ツジの姿を捉える。
『おや、あれが首斬り兎ですか。全身甲冑の機体だと思っていましたが。可愛い娘じゃないですか。へー、パンツはいてる。なんで? 無意味なのに……。あれこれ、交戦は終わったんですか? 今どういう状況なんです? 腹部の傷の直径からして、リーンズィがハルバードの斧槍で一発当てたのは分かりますが』
『しかしそのリーンズィがもうハルバードを持ってないんじゃが』
リーンズィは破壊された両足の動作を確認しながら頷いた。
『詳細は省くが彼女はハルバードを破壊して自分の腹を刺したのだ』
『は? なんでじゃ』
『どういうことだ?』
『体液交換……とか……なんか言っていていた』
『腹を刺した後、その残骸で私を貫こうとした。視聴率のために……怖かった』
『意味が分からんのじゃが……』
『意味分かんないですね』
腰部の蒸気機関のスターターロープを引きつつ真剣な顔で恐怖体験を告白するリーンズィに、一同はただただ困惑した。イーゴなどはもう言葉も無く、考えるのも嫌という気配を滲ませる始末だ。
ミラーズだけはよしよし、とリーンズィを慰めた。彼女はと言えば、高機動装備の蒸気機関を起動済だ。
『無線の復号ミスであってほしいことだらけじゃ。実時間で三〇〇〇ミリ秒も経っておらんのに何でそんなことになるんじゃ』
ケルゲレンがぼやいていると、装備を見せびらかすようなポーズを取っていた海兵服姿のスチームヘッドが、不意に活動を再開した。
ヒナ・ツジは全帯域に向かって『全スチームヘッドのオーバードライブ突入を確認。打ち合わせは終わった?』と呼びかけを行った。
『皆オーバードライブに入ったよね。それじゃあさ――ここですぐかかって来ないと、だよ? ダメでしょ、テンポ悪いよ、みんな、脚本ちゃんと読んでる? 素人なの? テレビの人だよね? テレビのことちゃんと分かってる? テンポは大事だよ。カットで間は何とでもなるけどライブ感が無くなる。テレビは簡単な世界じゃないの』
『て、テレビ……?』
言葉を失う一同に代わり、『その、素人で申し訳ない』と焦った様子でリーンズィ。
リーンズィだけはある意味においては全てを理解していた。
怪訝そうにセンサーを向けてくる仲間たちを黙殺しつつ『そういった点はのちのち編集でカバーするのでもう少し待って欲しい』と出任せを続けた。
『うーん。でも今回の企画、すごくお金が動いてる。ここはたくさん動かして派手な絵を作ってチャンネルを捕まえるところ。あっ、もしかしてヒナが出るタイミング間違えた……? そのせいで段取りが崩れちゃった? それとも飛ばしてもらうオモチャ間違えたのかな……』
『そ、そんなことはない。純粋にこちらの不手際なのだな。不手際なの。もう少し待ってほしい。実はまだ他の出演者が集合していない』
『そうなの? でも仕方ないよね。オーバードライブでの撮影なんて滅多に無いし。そういうこともある。もうちょっと待つ。うん。遅れるのもダメだけど、全部台無しになるのはもっとダメ。だって、シィーの関係者だよね? あなたたち。つまりキーパーソン。行方不明の大罪人の手がかりがついに見つかる……これは重要回だよ。だからお互い、プロ意識大事にいこ?』
『了解した。それで、ヒナ・ツジ、継続してのオーバードライブは可能か? 可能?』
『ぜんぜん大丈夫。でも早く体動かしたいかな。あなたとの戦闘は刺激的だった。綺麗な顔の子と撮影するとあったまって気持ち良い。もっと優しく甘く可愛がって尺稼ぎしても良かったかも』
『……リーンズィよ、あそこの娘っ子は何を言ってるんじゃ?』とクローズ回線でケルゲレン。『本当に首斬り兎なんじゃよな? ファデルから聞いておったエージェント・シィーと見た目も装備もかなり違うが』
『首斬り兎だ。そしてエージェント・シィーではない。彼女はその娘、ヒナ・ツジだ。確か……シィーと合流するために東アジア経済共同体からロシアのシベリアへ向かう途中だったと聞いた』
『シベリアとノルウェーでは丸きり逆方向では無いか?』
『それこそどうでもいいです、ケロ隊長』呆れた様子でグリーン。『とにかく、あの娘が敵ってことでいいんですね。いつ交戦開始ですか? それかもう休戦で話が纏まったとか?』
『現在交戦中なのだな』
『そうね、交戦中ね』ミラーズが二刀を構えた状態で首肯する。『どれも付け焼き刃、私の技じゃないけれど、一つも通じなかったわ。中々堪えますね。強敵です』
『じゃあ何でお互い何もしてないんですか。少なくとも、ヒ……ヒツジさんでしたか、あちらに攻撃を中断する理由は無いでしょう?』
『今、ヒツジって言った?』
武器を見せびらかすようなポーズを取ったままヒナ・ツジが何の前触れも無く無線通信に割り込んできた。
『す、すんません、言い間違っただけなんですけど……』と敵に対しての態度とは思えないほど萎縮するグリーン。
『つまり、あなた、昔の視聴者さんだったんだ』
『へ? 何の……?』
『ヒツジっていう呼び方はシーズンが古いの。今シーズンのヒナは、葬兵ヒナ・ツジ決戦仕様。その名もブランケット・ストレイシープ・エディション』
グリーンは四本の腕に仕込まれた刀身を展開させながら体を撓めた。
『なるほど。それはすいませんでした。だけど、低強度の暗号通信とは言え、こうも平然と我々のネットワークに侵入して……それ普通に無礼ですよ』
『それは、ごめんなさい。でもヒロインの呼び方が決まりと違うと、視聴者が混乱する』
『混乱しているのは我々ですが。えっと、けっきょく、どう呼べば良いんですかね。不勉強なもので、教えてもらえませんかね』
言葉だけは慇懃に、格闘戦闘用スチームヘッドが吐き捨てる。
海兵服姿の少女は屍蝋じみた艶めく肌に感情の火を灯した。
グリーンたちが臨戦態勢に入っているのを横目に姿勢を崩し、周囲を見渡した。
『そっか。忘れてた。グリーン? さん? ……優秀だね。ここまで時間掛かったらもうアバン始めるべき。そういうことだよね』
そして、『カメラあっちの方かな……』と呟いた後。
『ちゃらららー! ちゃららららー!』と突然歌い出した。
『何……何ですか?』
『何じゃ? 原初の聖句?!』
『聖句ではありません』とミラーズ。『ただの歌……歌っていうか……まぁ歌、よね?』
> 攻撃の可否を問う。
ケルゲレンの無声通信に、
> リスクが高すぎる。
リーンズィは淡々と返信する。
『ちゃらららー! でででっ! ぱーぱー、ぱーぱーぱー!』
ヒナ・ツジは海兵服のあちこちを揺らし、ゆるいダンスまで踊りだした。
『ついに東アジア経済共同体の所属員を全て斬殺することで平和をもたらし、愛すべき葬兵たちと刎頸の約束を交して別れた、同志ヒナ・ツジ。その冒険はついに新シーズンへ突入! 戦いの場も一新、大陸編は極寒の地ロシアへ! 彼女に示された新たな戦場。それはこの戦争の黒幕にして世界最大の敵である剣豪・シィーが待ち受けるシベリア! しかしヒナを待ち受けていたのは、無限に連なる不可解な都市だった! 少女達を奴隷のように扱い、獣のように襲いかかってくる悪のスチーム・ヘッドたち! そしてついに現れた悪の組織調停防疫局のエージェント……彼らを倒さなければ大罪人シィーへの手がかりは掴めない! この過酷な北の大地で、ヒナは大義を果たし、悪逆と非道の闇に堕ちた父を正義の刃で裁くことは出来るのか!? 頑張れヒナ・ツジ、負けるなヒナ・ツジ、現在絶賛発売中のブランケット・ストレイシープ・エディション……公募愛称ケットシー! 悪を討ち果たすその日まで! 蒸気抜刀、始まりますっ! ちゃらーらららー、でででー』
そして突然真顔になった。
『はいアバン終わり』
加速された時間に、分厚い沈黙の帳が降りた。
ケルゲレンたちはその海兵服姿の少女の圧倒的妄言を理解するために、懸命に努力した。
一方でライトブラウンの髪の少女は、前のボタンを全て外されて裸体を露わにした自分を改めて発見し、やはり、少し恥ずかしくなった。
以前はどのような感情も生まれなかったのだが、ミラーズやレアと交歓を経た現在では、さすがに感じるものが違う。
突撃聖詠服の胸当て部分に乳房を押し込んでからボタンを留めて、それから先ほどの戦闘で少し乱れてしまっているミラーズの髪を指先で整えた。
両手に不朽結晶連続体のカタナを携えた金色の髪をした少女はくすぐったそうにそれを受け入れ、「ありがとうございます、リーンズィ」と囁いた。
それだけのことする時間があっても、なおもケルゲレン一行は理解に苦しんでいる様子だった。
無理からぬ話である。リーンズィのように理解を半ば放棄するという結論には中々辿り着くまい。リーンズィは少し姿勢を低くしてヒナ・ツジのスカートの下を観察し、「ぱんつ……ぱんつ穿いてると何か違う……? 強くなるのか。それともオシャレなのだな……?」とやや現実逃避めいた思考を巡らせるのであった。
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