朽ちた時代の、幽霊の店で①
調査隊の仕事ぶりはまさしく瞠目に値するものだった。彷徨える不死病患者、呼ばれる名すら持たぬ哀れな、あるいは幸福な者どもをことごとく、そして極めて手際よく保護し、とうの昔に機能停止した病院や、災禍を経てもなお頑健な構造を保つ建造物へと誘導・収容した。
剣呑な気配は兵士たちからすっかり消え去った。一通りの作業を終えてからは、幾つかのグループに分かれ、それぞれヘンラインと呼ばれる重装甲スチーム・パペットが収集していた地図データを受領し、和やかに、あるいはガラの悪い冗談を飛ばしながら、検分を始めている。らしい。
らしい、というのは、リーンズィには、肝心の地図データの実物を確認出来ないからだ。データはクヌーズオーエ解放軍を統括するシステムである『戦術ネットワーク』にアップロードされている。そこに動作の安定性が未検証で、なおかつ人間由来の知性ではないリーンズィを何の準備もなく接続するのはリスクが大きい、というのがヘカトンケイルたちの判断だった。
少なくとも今回の探索を終えるまではアクセス自体が許されない。
だから、地図に限らず、今回の作戦において、たいていの情報はコルトからの伝聞だった。
ライダースーツのコルトが、コンクリート片をごりごりとこすりつけて壁に地図を描き、彼女の喉が奏でる、楚々として、それでいて掴み所の無い声に素直に耳を傾け、リーンズィはふんふんと頷き、少年めいた潔癖な美貌に、分かっているような分かっていないような色に浮かべる。
そうしているうちに、スチーム・ヘッドたちは、めいめい別方向に向かって進行を始めた。
「彼らはどこへ?」
「地区の割り当ての協議が終わったんだろうね。みんな、今日の仕事の分け前をもらいに行ったんだ」
ヘルメットを脱いでコルトが微笑む。
「部隊によっては揉めることもあるんだけど、ヘンラインはこういうのを取り纏めるのが得意でね。分単位で時間を把握している数少ない機体だもの、時計の針で物事を刻んで、公平に分けてくれる。この地図を見れば分かる通り、私たちにも専用の文化探索の区画が与えられたよ。嬉しいね?」
「さすがは百人隊長だ。こういう仕事もスムーズなのだな」
少女はうんうんと頷いた。
「とてもしっかりした人だと思う。解放軍は素晴らしい組織だ」
「いや、あの機体はかなりボケてるよ? 限界も遠くない」
「え?」
思いも寄らぬ言葉に、リーンズィは翡翠色の瞳を瞬かせた。
「指揮も統制もかんぺきだった。ボケているとはとても……」
「作戦遂行能力に問題はないけどね。古参のスチーム・ヘッドは、多かれ少なかれ自分の記憶にロックを掛けたり、摩滅した記憶の断片をより合わせて過去を変造し、そしてその過去を真実だと思い込むんだ。ヘンラインはまだ未来を諦めてないけど、過去認識は大分おかしくなってる。たまに話しかけられるんだ、内乱の季節がいかに苛烈だったかを悼む、あんなことがもう二度と無いように。そんな感じのことをね」
「ああ。突撃隊長キュクロプスを切り捨てた云々の……」
「でも間違いなんだよ」
「間違い?」
「諍いはあったさ。大規模な粛清もあった。全く何も無かったわけじゃない。確かに、不幸な行き違いが連続して、キュクロプスたちは血に狂ってしまった。目前の敵に対して無制限の侵攻を行うべきだと主張して、他のグループの静止を振り切って、勝手に奥地へ向かおうとした。事実として、撃ち合いはあった。……でもそこまで大規模じゃなかった。葬られた機体はそこまで多くないんだ。なのにどういうわけか、時計屋ヘンラインの中では、凄まじい内乱があって、クヌーズオーエ解放軍の実に半数以上が破壊されたことになってる……」
「君の記憶こそ変造されているのでは?」
リーンズィは首を傾げた。
コルトは曖昧な笑みで首を横に振る。
「……SCAR運用システムは、眠らない機械だよ」君と同じくね、と囁く。「眠れないから、全て正確に覚えている。私は本当のことしか覚えていられない。もっとも、それ以上でも以下でも無い。話す言葉については取捨選択を行う。私にとって都合の良い真実が、本当に真実とは限らないのだから、君は話半分で受け止めるべきなんだろうね。情報将校だったヘンラインには、混同するにはうってつけな、もっと豊かな過去があったのさ。現実認識を歪めてしまうような、凄惨で……
コルトは多脚型の小型戦車とでも言うべき異形の殺戮兵器の装甲をそっと撫でた。
「でも、私の魂はこの兵器の中から一歩も離れられない。過去も未来はありはしない。都合の良い過去を騙り、信じてもいない未来を描く。それは出来る。だけど実際は、どんな夢も見られないのさ」
「うーん。ヘンラインの言うことは真面目に聞いていたのだが……あまり信じない方が良い……ということ……?」
「一分間が54秒しか無い柱時計を腕に括り付けた機体をどの程度信じるかは君次第だよ」コルトは肩を竦めた。「ぜんぶを額面通りに受け止める必要は無い。ぜんぶ、を知っている誰かなんて、きっとどこにもいやしないんだから。色んな機体から話を聞いて、重なり合ってる部分だけが、真実に近いのさ。真実なんて、そんなものだよ。この永劫に反射を続ける鏡像の都市ではね。さぁ、眠たくなるような話はここまで。私たちも今日の成果物を楽しもうじゃないか」
コルトに誘われるまま、ライトブラウンの髪の少女は心地よい冬の風に吹かれながら、瓦礫の散乱する死灰の都市の散策を始めた。
全てが残骸だった。大抵の標識は溶けて折れ曲がりピクトグラムが溶け落ちている。建造物はどれもこれも崩れかけており、路上に放置された車の残骸の中では、衣服を焼き尽くされた不死病患者がまんじりともせず座り込んでおり、リーンズィが覗き込むと呆然として見返してきた。
「助けが必要だろうか?」
リーンズィが不死病患者に尋ねると、コルトが半笑いで言った。
「ここいらの車は、そこらの建物より頑丈だから、このままの方がかえって安全なんだ。どこか違う場所へ連れていく必要はないよ」
リーンズィは通り過ぎてからもしばらく車に閉じ込められた不死病患者を眺め続けた。崩壊した風景に永久に取り残されたその影を見つめた。そうこうしているうちに、「ほら、見てごらん」とコルトが店のショーウィンドウを指差した。
罅が入ったショーウィンドウは、硝子と硝子の間に奇妙な蜘蛛が入り込み巣を作った痕跡のように見えた。
冷え込んだ空気を抱える太陽の光に晒されて、ひび割れた世界に潔癖そうな顔をした少女の立ち姿が反射している。
佳く整った顔を左右に傾け、それからガントレットの指で自分の髪に触れた。
額の片側に小さな花水木の造花。
ほんの数日前まで鮮やかなライトブラウンをしていた髪は、カタストロフ・シフトを起動させ、<時の欠片に触れた者>に灰と崩落の世界へ追放されたときを境に、少しだけ色素が薄くなった。
「どうだい?」
コルトを見た。
長身の黒髪の麗人は、手の中で拳銃を回している。
「うん」リーンズィは大真面目な顔で頷いた。「以前の私の髪型はおそらくボブカットが最も近かった。今は毛先が若干伸びている気がする」
「……そうなのかい?」
「そうだと思う」
甚だ奇妙ではあった。
一般常識として、不死病患者の外見的な特徴は、ステージ1を発症した時点、死後蘇って不死となり、一回限りであるべき死が『デッドカウント』なる無機質な数字に貶められた段階で固定化される。
著しい身体的損傷や病変などは、いっそ暴力的と言って良いレベルで再生、あるいは新造されるが、そこどまりだ。全ての病変や組織的劣化が無と帰すため肌艶は生前より良くなるとされているが、生命としてのありかたに関係しない部位に関しては、シンプルに不変となる。
髪型なども同様だ。自然に髪が伸びることはない。生前に脱毛処置を施していれば、その状態は恒常性の中に存置される。
例え頭部を焼損しても、発症した時点の髪質と量に再生する。
単なる不死病患者にあらざる彷徨い歩く者、スチーム・ヘッドの髪の成長に関しては、伸びるも伸びないも人工脳髄の設定次第だが、とリーンズィは訝しむ。
そのような操作を加えた記憶は無い……。
ヴァローナの人工脳髄にも、そうした肉体操作の設定はないらしい。
腕を挙げて、インバネスコートの下にある手甲とガントレットの境目、脇の部分を確認しても、初めてヴァローナと遭遇したときと同じく、真っ白な無毛の状態から変化していない。陰毛も臑毛も無い。全て、丁寧に剃毛か脱毛をされたと思しき状態を維持している。
「体毛に変化は無いのに、髪の毛だけが伸びて、変色している。これは明らかに異常だ。コルト少尉はどう思う?」
「どう思うと言われてもね……」
コルトはしばし黙り込んだ。
リーンズィはきょとんとして、返答を待った。コルトの左右対称の美貌を見つめた。微笑んでいるのか無表情なのか判別が難しい。
改めて観察すると、フリアエ系列のクローンなのだから、その冷厳とした美貌はレアと似ている。だが造形が些か異なる。
コルトの方が全体的に洗練されている印象だが、あるいはそれは、非人間的な巌のような精神の表れなのかもしれない。同じ素体を使っていても、肉体年齢や精神的な要素の差ででここまで顔つきが変わるのだな、と感心するリーンズィなのだった。
「君は確かに……ちょっと変わっているね?」
コルト少尉は慎重に舌先を運んだ。
「やはり変わってしまっている?」
リーンズィは困って眉根を寄せた。
硝子に顔を近づけて、他に変わっている点がないか探すライトブラウンの髪をした少女を見て、コルト少尉はまた沈黙した。
「ええとね? いいかい、リーンズィ。普通、ショーウィンドウを指差して『見てごらん』って言われたら、硝子に映った自分じゃなくて、硝子の向こう側に注目するものだよ」
「そういうものなのか? ……そういうもの?」リーンズィは真剣に驚いた。「知らなかった……廃棄市街地の探索は奥が深い」
「探索の問題では無いよ。生きていた頃、こういうお店に買い物に行ったことはないのかな?」
「かいもの……?」
少女は首元の人工脳髄に手甲の指先で触れながら、可能な限り記憶を精査した。そのような記憶は全くなかった。
模糊とした連想は可能だが具体的な像は一つも結ばれない。
ユイシスの言葉がリフレインする。
『貴官に過去は存在しません。貴官はそのように作られたスチーム・ヘッドです』
いや、それはエージェント・アルファⅡだった自分自身の思考だったか……?
リーンズィの霧に映じた影のような過去において、アルファⅡとユイシスの区別は限りなく曖昧だ。
いずれにせよ、『生きていた頃』に該当する知識はそもそも存在しない、とリーンズィは結論づけた。
「私はアルファⅡとミラーズの、その振る舞いと思考の傾向、愛着感情から作成されたエコーヘッドにすぎない。だから、そもそも『生前』という時期が無い」
「だとしても奇妙だよ。君に生前が無かったとしても、アルファⅡモナルキアの方には人格記録媒体が装填されてるんだろう? つまり、殺されたら死ぬ、そんな普通の人間として、普通に生きていた時期があったということだよ。彼の方で一度でも想起をしていれば……あ、そういうことなのかな?」
コルトは困ったように首を傾げた。
「アルファⅡモナルキア自身が、そうした個人的な回顧を一切していなかった。そう言いたいんだね?」
「肯定する。どうにも、エージェント・アルファⅡは、そのように設計された機体だったらしい」
「らしい、とは変な言い方だね。自分自身の仕様を把握していないのかい?」
「『私』は、私自身の思考を検閲し、仕様についての記録を参照することを禁じていた、と推測される。あるいはユイシスの操作によるものだったとも予想できるが……」
「気付いているかな?」コルトは愉快そうだ。「君は今、君にとってすごく不愉快な可能性に言及しているよ」
「自覚している。私は最初から……」少女の肉体が身震いをした。「エージェント・アルファⅡは、アルファⅡモナルキアの仮想人格、あるいは下位エージェントして作成された存在だった可能性がある。エージェント・アルファⅡすら最上位の意志決定者は無いというのなら……私にはもっと上位の意思決定機構がある?」
「あは。カルテジアン・シアターみたいな話になってきたね」
特別な機体ではさほど珍しい仕様でもないけれど、とコルトは付け足した。
「その件について恐ろしいという感情が少しでもあるなら、あまり真剣に考えない方が良いよ。根拠があろうがあるまいが、そうした不毛な考えに取り付かれて精神が崩壊したスチーム・ヘッドを、私は何人か見てきたからね」
「そうする……」
リーンズィは不死に似つかわしくない青ざめた顔をさすりながらこっくりと頷いた――ユイシスに認知機能をロックされていた経験を前例として検討すると、自分よりも上位の、思考能力の全権を握っている存在を仮定して疑問を持つことは、全く無意味であり、何の益も生まないのだから。
舞い落ちる葉が己の幹の先端を知れぬのと同じく、枯れた木が森の朽ちたるを知れぬのと同じく、冬を迎えた森が四季の移ろうことを知れぬのと同じく、上位存在の思考を下位から俯瞰することなど不可能なのだ。
「私が記憶しているのは……この肉体に対してアルファⅡモナルキアが転写していた内容に限られる。私は、『エージェント・アルファⅡ』だった頃の私は、個人的な商行為について、少なくとも一度も想起していない……ああ、酷く奇妙だ」
リーンズィは甲冑に包まれた両手を開き、閉じ、また開いた。上位存在について認知リソースを投じた分だけ、余計な不安感が増すだけである。これは自分自身の手なのだと言い聞かせながら、呟くように語りかける。
「とにかく、アルファⅡに記憶が無い以上、私にも当然、『お店に買い物に行った記憶』は無い……」
リーンズィは硝子に映る自分の目を覗き込む。
緑色の、宝石のような瞳に映る世界を。
輝ける瞳、生気を宿さない暗い煌めきから連想するものと言えば、ミラーズと見つめ合うときの胸の高鳴りや、森で初めて遭遇した頃のヴァローナ、あの大鴉の狂戦士を初めて見たときに得るべきだった不安感だ。
生じなかった感情を、想起を通じて初めて、リーンズィは獲得しつつあった。
だからこそ、欠落した部分があまりにも多いことを、思い知らされてばかりだ。
生きれば生きるほど、欠けていたことがはっきりと分かってくる。以前の自分には特定の人物や事象について、エピソードを連想する能力自体が無かった。
通常、スチーム・ヘッドにとって過去は代えがたく重要である。自伝的記憶は人格の基盤であり、人間性のよすがであり、自己連続性の確立に不可欠な要素である。
だが、エージェント・アルファⅡは、敢えてそれを封印していた。
属人性を消去する目的ならば理解は可能だ。調停防衛局は、調停防疫局の理念を体現する機体を作ろうとしたのかも知れない。そう考えれば、まだ納得は出来る。
それでもなお疑問は残る。肉体が死亡した時に再生される記憶についてだ。
調停防疫局の職員と思しき人々との対話の記憶――しかし、アルファⅡはそれに対してすら目立った感慨を抱かなかった。
かつての同胞たちへの感情に対してまでマスキングを施していたのは何故なのか?
個人をまともに同定することすらしていなかった。しかしシィーから得たレコードを参照すれば、一度は調停防疫局の局長までもが記憶に現れていたことに気付く。
気付いた時には、直接面識の無いリーンズィも驚愕をした。
それなのに、アルファⅡは一つの情動も得ていない。
そんなことが有り得るのだろうか? リーンズィは考え込んだ。
きっと、生きていた頃に一緒だったはずなのに。
うむむと首を捻る少女に、コルトは目を細めてどこが皮相な笑みを浮かべる。
「……昔のことが思い出せないというのは、スチーム・ヘッドなら本来そんなものだよ。不死病患者の肉体で読出す必要がある日常記憶なんて殆どないからね」
「そうなのだな。とにかく、ショーウィンドウの向こう側を確認する。ちゃんと対応出来なくて……すまない、ごめんなさい?」
「いいよ、いいよ。謝る必要なんてない、君には何の責任も無いんだから」
コルトは今度こそ、誰の目にも微笑と分かる優しげな顔を作った。
「その喋り方だって、無理をして変えなくて良いよ。同期して、別個体や本体と記憶を均す必要が無いんなら、個性なんてものは、放っておいてもオリジナルからどんどん乖離していくさ。たとえば私やヘカトンケイルたちもそうだね。他には……あの、赤い目の……君はあの子をレアって呼んでいるんだっけ」
「レアせんぱいと呼びなさい、と言われている」
「あの子も私と同じ素体だけど、みんな性格が違う。そういうものなんだよ」
言い切ってから、コルトは怪訝そうに尋ねてきた。
「……ごめん、ところで、今なんて? レア先輩って言った?」
「せんぱい、だ」
「なに。その甘ったるいアクセント、指定されてるの?」
「うん」リーンズィは不思議そうに頷いた。「良くないことなのか? なの?」
「そう……あいつ、調子に乗ってるなぁ」
懲罰担当官がふっと表情を消して呟く。
先ほどまでの口調にも、声音にも、大差は無い。
ただ感情の温度が一辺に消えて失せた。
砂漠を渡る風のような乾いた威圧感に、リーンズィはたじろいだ。
「良い傾向じゃないね。リーンズィ、あの子のことをあんまり言うことを聞く必要はないよ、こういう場合、必ずエスカレートしていくから。身の危険を感じたら、遠慮無く、即座に私に通報するように。規則は大事だからね。私は過ちを見過ごさない。懲罰担当官である以前に、あの子の姉として、すぐ処罰しに行くよ」
「しかし、スチーム・ヘッドに身の危険などあるはずもないのだな……」
不死病患者はその通称の如く、不朽にして不滅の存在だ。
悪性変異の可能性を除けば、その肉体の永続的な健康と衛生は、死を赦さない病によって完璧に保障されている。
ましてやレアは凶暴に爪を振るい目下を引き裂くようなことはしない、本当に信頼出来る立派な人だ。コルトの警戒は杞憂のように見える。
「君は、命に関わる問題だけを、スチーム・ヘッドを機能停止に追い込む物理的な攻撃だけを危険と認識しているみたいだね。……生前の記憶が無いから、貞操観念もないか」
コルトは仕方が無さそうに言った。
「いいかい、生命の危機と社会生活を送る上での危険は別物だよ。そう心得ておいた方が良い。だからこそ、私たちSCARスクワッドのような機体を、全自動戦争装置がわざわざ発注したんだからね。いいかい。ピンときていないかも知れないけど、レアには些か暴力的な性向がある。殴られたり、脅されたり、今朝みたいに嫌な場所を無理矢理触られたり、そういうことをされたら、即刻通報してね」
嫌な場所、とリーンズィは内心で復唱した。
何を言いたいのかは分かる。口腔を始めとする粘膜のことだろう。
しかし。
しかし、何故とリーンズィは沈黙する。
……
何故、コルトが、リーンズィたちの生活について、レアせんぱいとの毎日について、これほど詳細に知っているのだろう?
初対面での尋問から、今日という日に至るまで、リーンズィは一度もコルトと会話をしていなかった。
同じ調査隊に加わってからはそれなりにコミュニケーションを取ったが、普段のプライベートな事柄について詳細に口にする機会は当然無かった。
それなのに、コルトは詳しい。
詳しすぎる。
もしかすると、他のアルファⅡモナルキアが情報を提供しているのだろうか?
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