不滅者ベルリオーズ②

 釈然とせぬ表情のまま、ケットシーはカイロス隊とともにベルリオーズの予測進路に飛び込んでいった。


 勇躍するヒナよりも、姿勢を低く保ち倒れ込むように突っ込んでいくカイロスの一機が迅い。突き出されたベルリオーズの刃に肉薄し、絶妙な距離を維持したまま通り過ぎてから反転。

 限界まで加速。

 ベルリオーズの死角たる背後から、腰関節を狙って不朽結晶刃を突き立てようとした。

 そして直後に切り刻まれて破壊された。


 彼の体を打ち払い微塵に裂いたのは、無数の刃そのものであるベルリオーズの腕だった。這い回る姿勢のまま、両腕の無数の関節をあらぬ方向に曲げて、振り返ることもなく両腕を構築する刃の群れを背後へと伸ばしていたのだ。

 曲がりくねった腕の先には粉砕器じみた五指が備わっており、それが握っていた頭部を粉砕した。

 メディアも無事ではあるまい。復帰は出来ないだろう。凄惨な死。望まれた死。

 あまりにも呆気ない最後にミラーズが目を逸らし、ケルゲレンが何かしらの神に祈りを捧げた。


『わ、迅い』

 ケットシーが感心の声を上げる。

『一人壊されちゃった……』


 ヴォイドの背面監視機能を利用して、リーンズィも一部始終を見守っていたが、意味が分からなかった。

 ベルリオーズの形状変化の瞬間を知覚出来なかったのだ。おそらくリーンズィが相手をしていれば先ほどのカイロス隊よりも酷い末路になっていただろう。

 しかし戦闘状況における予測能力に関してはケットシーに分がある。スカートをはためかせながら、殆ど無作為的に曲がりくねって稲妻の蛇の如く迫る自在切断腕を、黒髪の少女は華麗にも難なく回避。

 擦れ違いざまベルリオーズの関節に太刀を三度も浴びせ、さらに電撃的な反応によって、続けざまに襲いかかる凶刃の腕をかいくぐって蹴り、その速度で素早く射程から逃れる。


 だが必殺へ繋がる世界は見えなかったらしい。ベルリオーズは機能停止に至っていない。

 それでも凶暴な動きをする腕の一本は死んだも同然だった。

 そのタイミングを逃さず、カイロス隊の二機目、三機目が戦闘を仕掛けた。


『殺すなッ! 死ねッ! 死ねええええええええええ! 殺そうとするやつはみんな死ねッ! 俺が殺す! 殺してやるぞ! もう殺さなくていいように殺してやる! 死ね!』


 ベルリオーズは疾走する勢いのまま跳躍した。

 上半身を全く動かさずに、腰関節だけを180度回転させた。

 腕と同じく鞭のように撓る長大な脚部で彼らを打ち払い、さらに遠心力で吹き飛ばす前に上空へ放り投げ、リレーの役割を果たす関節を起点として、無事な方の腕部を折り重なるように変形させる。空中で身動きを封じられたカイロス隊を握りつぶし、晒し者のようにしてから、廃墟群へ放り投げる。


『死ねッ! 死ねエエエエエ!! 砕け散れッ!!』


 同時に関節のロックを解除/四肢を走行に最適な状態に回帰させつつ、時間差で不意打ちを狙ってきた四機目の胴体部を削岩機の如き先端部で打ち据えた。

 胴体を分断されたが、危ういところで即死を免れたカイロス隊の一機が、腕だけで剣の脚にしがみつき、這い上ろうとした。

 狼の頭部を目指して突貫しようとした時には、なんとその脚部自体がベルリオーズによって丸ごと取り外されている。

 ベルリオーズは自分の脚を引き千切り、振りかぶった。


『ベルリオーズ……』


 視線が合う。

 高度が合う。

 二人は向き合っていた。

 呻くカイロス隊の声に、異形の巨人は反応を示した。


『その声は……誰だったか……』


『私は誇りに思う、貴官に破壊されることを……』


『おお、ホラルドではないか。元気にしていたか? 死ね』


 ベルリオーズは容赦なく最後の一撃を繰り出した。

 上半身だけのカイロス隊は、鈍器と化した脚部ごと廃屋に叩き付けられて粉砕された。引き延ばされた時間が家屋の崩壊に追いつく前に、蒸気機関の爆散と共にその機能を永久に喪った。

 カイロス隊はまだ存在する。

 むしろ、これまでの機体は全て相手の脚を封じるための囮だったと言って良い。


 自分から片足となったベルリオーズは、常識から考えれば、加速度のまま倒れ伏せるしか無い。

 剣と狼の私生児の如き異形も、狂った重心のもたらす不随意の運動からは自由では無い。

 蛇の如くしなる腕部を掻い潜り、五機目のカイロス隊は背部の重外燃機関に不朽結晶剣を突き刺そうとした。

 しかし刃は空を切る。


 ぎょろりとして蠢く無数の瞳孔、ベルリオーズの瞳が、彼を捉えていた。

 小規模な雑居ビルほどもあるベルリオーズの巨体が、何かの冗談のように、折り畳まれていた。

 培養された筋肉が伸縮し、機構の装甲板がスライドして、その姿はもはや狼ですら無い。

 地獄、あるいは墓場、さもなければ処刑台の傍に放置された忌まわしい組木細工。立体パズルの、組み立てに失敗して放置されたような不揃いな集合体が、しかし厳然たる殺意の塊として、不条理な凶器としての姿を晒している。

 ベルリオーズはそうした異常な方法で重心を変化させて宙返りし、急所を背後へ、敵を正面へと相対的に移動させていた。

 白銀の狼は歪曲した体躯の先端にある不朽結晶連続体の顎で五機目のカイロス隊に食らいついた。

 頭部を噛み砕いて吐き捨てつつ、自切した脚を掴んで振りかぶる。蛇行する刃の蛇の射程は、単純に二倍以上となった。

 再度の一撃を狙っていたケットシーを牽制。しかし、その動きを予知していたのだろう、ケットシーはトツカ・ブレードの峰で巨人の腕に生え並ぶ刃、それの形作る破壊の波を受け流した。

 このまま敵の頭部を切断する構えだったが、しかし振るわれた五指を握る脚部の先端が、花の如く、あるいは手指のように開くのを見た。

 目標はケットシーではなかったのだ。


 蛇腹関節のロックを解除し、前方へ大きく伸張させて、逃走するスチーム・ヘッド部隊それ自体に手を伸ばし、さらには脚部を投擲しようとした。

 いつのまにか脚部は槍の如く真っ直ぐに変形している。切断しているというのに、脚部もまた自在に動かせるようだ。


『させないっ!』


 究極的なオーバードライブに突入した少女の姿が掻き消え、ベルリオーズの獣の頭部を切断した。

 頭部を切断されていないベルリオーズは斬り込んだケットシーの刃が触れるか否かの瞬間にベルリオーズはスチーム・ヘッド部隊への攻撃を断念。

 ベルリオーズは頭部を切断されたベルリオーズは頭部を頭部を切断切断されてはいない。

 ベルリオーズの頭部は、切断されていない。


『あれっ』ケットシーが戸惑う。『……知らない、何度でもっ!』


 ベルリオーズは脚部の五指をアスファルトに突き立てて体を跳ね上げ、全身のパーツを組み替えながら最適な重心と筋出力の配分を行って上下左右と異様な方向へ身を捻り、空中を転げるようにした瞬間に再び首を斬り落とされたが、首は切り落とされておらず、迎撃を繰り出した。


『……!?』

 ケットシーは冷静に振るわれる腕を避けながら絶句する。

『斬ってる……のに……!』


 二度、切断されたベルリオーズの首は、何事も無かったかのように胴体に載っている。

 そのタイミングで不意打ちを狙った残存カイロス隊に、突然に筋繊維の束が絡みつく。

 ケットシーに最初の交錯で切断されて置き去りにされていた、正確には切断されるタイミングで自切した自在斬撃腕だ。

 自走してきた刃の蛇に轢殺された彼らは車裂きの刑に処された罪人じみて惨たらしい有様になって死んだ。


『動きが見えない……! いったんヒナ一人で惹き付ける。みんな離れて。エキストラまで危ない目に遭う必要は』

 周囲へ電波を飛ばしてからケットシーは呆然とした。

『みんな……?』


 カイロス隊は全滅していた。

 実に一瞬、ほんの一瞬の攻防だった。

 破壊の痕跡はいまだ瓦礫の痕跡を留め粉塵に散っておらず、破壊された蒸気甲冑は、地に落ちるまでの長い長い時間を、現在も墜落している。

 処刑台ベルリオーズの虐殺は一方的なものだった。

 猥雑な外観からは想像も付かない精密で不条理な攻撃が嵐となって吹き荒れた。

 あるいはケットシーがその暴風を生きたまま乗りこなしたのは神業である。

 さらに信じられないことに、これだけの攻勢を仕掛けたというのに、ベルリオーズの疾走の勢いはまだ死んでいない。

 前方へ前方へとその身を運びながら、複雑怪奇な動作で機体の構造を組み替えて部隊を翻弄している。




『え、な……?』


 思わず足を止めそうになるのを堪える。

 リーンズィは動揺していた。ベルリオーズがカイロス隊の最初の機体とすれ違う瞬間から、跳躍して身体を組み替える段階までは、完全にシームレスだった。

 行動の全てが繋がっていた。複雑怪奇な動作ではあるが、実際のところ途切れることの無い変形の連続に過ぎない。


『な、なに、あの動きは? どういう仕組みだ?』


 狼を模した形状とは全く関係の無い身体拡張動作だ。

 蛇腹状の関節部がバネ仕掛けのように伸縮して、ほんの一瞬で見た目上の体積を変更させてしまう。

 胴体の筋繊維を露出させ、自在に仰け反り、蹲り、全く違う形に変形しながら、狂乱の声を引き連れてベルリオーズは迫ってくる。


『カイロス隊は通常時のオーバードライブに特化した機体群じゃ。ベルリオーズには土台敵わん』


 その点はリーンズィも理解していた。カイロス隊は奇襲攻撃への対応では無類の強さを発揮するのだろうが、装備は正面切っての戦闘に適した者とは言い難かった。

 それでもたった一繋ぎの動作で全滅させられる弱兵ではあるまい。


『何なのだ。何なの、あれは。人体という恒常性に規定された人工脳髄が許容する運動じゃない。形状変形が度を越してる』


『あれが処刑台と呼ばれる由縁じゃよ。いかなる動作からも処刑としか言いようのない無慈悲で理不尽な攻撃が飛び出す。ヴァローナの眼を持っておっても、何がどうなっているのか即座には理解できまい。……やはり攻撃パターンが変わっておるな。以前の交錯で割り出したのは、やはり無数にあるパターンの一つに過ぎんかったか……』


 辛うじてやりあっているケットシーが怒りの声を上げている。

 

『よくも……! ここはさっきの人たちの信認を勝ち取りヒナが誉められる場面!』


『何をいっているうゥゥゥ……? お前も死ぬか? 死ぬ、死ぬんだ。殺す前に死ね』


 剣の暴風に踊りながら、ケットシーが忌々しげに呟いた。


『一瞬で決める。蒸気抜刀――』


 剣閃は一瞬。

 三〇〇倍の加速度から繰り出される一閃は、刃でなく流星に似る。

 白雪を渡る月光の白刃が、悪鬼の腕を切り落した。

 頭部の切断も狙ったようだが、それは首もとに傷をつけただけに留まる。

 殺せていない。

 獣に似た組木細工のスチーム・パペットは、神速の一撃に完璧に対応した。


 ケットシーは今度こそ驚愕した。


『ヒナの必殺技を……防御した!?』


 リーンズィにも、黒髪の戦乙女が何を仕掛けたのかは分からない。

 しかし明白なのは、ベルリオーズが一瞬だけケットシーと同等の速度で動いたらしいと言う事実。

 ともあれ、腕は落とした。これでケットシーは相手の攻撃手段を一つ奪ったはずだ。


 どのような仕掛けで切断部位を操作しているのかは定かでないが、斬られた瞬間に動かすほどの即応性はないとケットシーは踏んだらしい。防御も攻撃も手薄な箇所へと滑り込もうとした瞬間、ケットシーはベルリオーズの切り落としたはずの腕から攻撃を受けた。

 腕部の自律行動では無い。

 ベルリオーズはもう存在していないはずのまさしくその腕を振りかざし、ケットシーを殴り飛ばそうとした。

 ケットシーは咄嗟に刃でいなし、圧縮蒸気の渦を残しながら革靴で腕を蹴って射程外へ逃れ、理解しがたい光景に目を瞬かせている。


 ベルリオーズは、無傷だった。

 確実に腕は落した。

 首筋にも一刀を叩き込んだ。

 だというのにその痕跡が一つも存在していない。

 ――ロングキャットグッドナイトと同じだ、とリーンズィは気付いた。


 ケットシーは再度の限界速度に突入。

 今度の交錯では螺旋の閃きが空間に出現し、対応しきれなかったらしいベルリオーズの肉体が完璧に刻まれて路上に散らばった。

 頭部、心臓部、腰部に四肢。全てが切断されているが破壊されたベルリオーズは五体満足のままだった。無防備なケットシーの背中に向かって蛇腹関節の両手足を即座に振り回した。

 その未来が一足先に見えていたらしく、ケットシーは驚愕の呼気とともに攻撃をブレードで弾く。


『何、何これ?! ズルいことされてる!』


『何が起こっている?』

 リーンズィは思わず足を止めていた。

 ヴォイド、ミラーズも追従して足を停止した。

『さっきから……何かおかしい』


『何かというか……全部おかしくないですか?』とミラーズ。『確かにケットシーがバラバラにしたと思ったんだけど、バラバラにした瞬間が、どこかに行ってしまってるような……』


『あれがテスタメント・ヘッドというもの。不滅者の一人、処刑台ベルリオーズじゃ』


 味方に先んじての前進を促しながら、ケルゲレンはリーンズィたちに駆け寄る。

 手を振って、先に連れていこうとする。 


『周囲のスチーム・ヘッドや不死病患者の認知宇宙と脳髄を利用して、自分自身を再帰的に演算させ続ける、原初の聖句で編まれた人間……自己完結した聖句のプログラムじゃよ。実体なんぞないんじゃ、斬っても無意味なんじゃよ。ケットシーは努力しておるが、徒労に過ぎん』


『人間ではない? しかし何故オーバードライブを利用できる。あれは崩壊する身体が再生能力を暴走させるのを利用した機構だ。肉無き者には使えない』


『相手の認知宇宙に乗っかっているだけじゃよ。相手が三〇〇倍の速度で思考するなら、それに相乗りして同レベルの反応で攻撃を返す。ケットシーが本物のやり手で無ければ、とっくに競り負けて壊されておるわ』


『……不滅者。不滅者か』


 リーンズィはケルゲレンに従わなかった。

 一人軍団としての権限を提示し、エージェント・ヒナの援護に回ることを宣言。

 彼女は負けていない。負けるつもりも無いだろう。

 おそらくは未知の敵の打倒に燃えている。

 だからこそ援護が必要だった。彼女は死ぬまで負けないつもりでいる。


『止めはせんがな……薄情とは思ってくれるな、ワシはやつの厄介さをよく知っている。思い出したからのう』


『我々の独自判断だ。君に咎は無い。でもベルリオーズには、何か弱点は無い? アドバイスがあれば、逃げる前に教えて』


『テスタメント・ヘッドは、狂っておる。そして普通はさほど強くない』


『強くない?』リーンズィは唖然とした。『あれで弱いのなら我々はよわよわなのだな……』


『ベルリオーズは別格じゃよ。強い上に、存在核を破壊されない限り何度でも復活するのだ。存在を巻き戻すと言ってもよかろうな。偽りの魂をメインとして、原初の聖句で身体の恒常性を拡張した存在……それがテスタメント・ヘッドじゃ。何か一つのものを死守するために己全てを<ことば>で置き換えた憐れな者ども……<ナイン・ライヴズ>の十の戒めは、その中でもかなり特殊じゃが』


『自己安定化や生存のためではなく、目的達成のためにのみ恒常性を組み替えた変異体、ということか。しかしベルリオーズの行動原理は……破綻していないか? 殺すのを止めるために殺すというのは……』


『もちろん破綻しておる。ロングキャットグッドナイトの管理下にいなければもう霧散しておる数式じゃよ。あいつは……潔癖なやつでな。尊敬に値するパペットじゃった。突撃隊によるレーゲント搾取に心を痛め、不死病患者も……おぞましい肉塊どもも等しく人間だと訴え、彼らを守るために戦おうとした。そうさな、おぬしには便所というものの記憶は無いかもしれんが……壁のどこもかしこもに、卑猥な落書きがされていたとする。それらを消すことは出来るじゃろうか?』


『可能だろう』


『そうじゃな、その場その場では、あるいは可能かもしれんな。だが世界中から消すことは出来ん……それが道理というものじゃ』


 ケルゲレンは空を知らぬ黒い鳥のような兜の庇を傾け、嘆いた。


『しかしベルリオーズはそれを望んだ。不死ならば出来ると信じた。あの騎士は、世界から殺人による悲しみを根絶やしにしようとしたのだ。そのために狂気を求め……道を見失い……やがて聖なる猫を見た』


『何をすれば倒せる?』


『刃は祈りにも呪いにも通じん。言葉には言葉しか通じん。だからレーゲントで囲んで聖句で抑え込むのが正道じゃな……ワシはもう行く。エージェント、無理をするでないぞ』


『警告。戦力比、エージェント・ヒナの劣勢で推移すると予想されます』

 ユイシスの金色の影がリーンズィに囁きかける。

『現在は優勢です。エージェント・ヒナはベルリオーズを構成する要素のうち180箇所を破壊し、基幹部の破壊に六度成功。しかし撃破には至っていません。いずれ連続稼働時間の限界に達し、ベルリオーズに敗北すると思われます。エージェントを見捨てることは出来ないと貴官は理解しています。準備はよろしいですか?』


 リーンズィは、言葉に窮した。

 ヒナを騙すような形で裏切るのは不可能だ。それが調停防疫局の流儀ではある。だから救援に向かうのは当然だ。彼女の自覚がどうであれ、彼女は紛れもなくエージェントの一人で、同胞だ。

 しかしどうすればあんな常識から逸脱した機体と渡り合える?

 安寧な生存、自己の防衛を第一義とする悪性変異体が相手ならまだしも、テスタメント・ヘッドは沈静化させる方法が不明瞭だ。それに何より、リーンズィにせよ、ミラーズにせよ、あんな非常識な破壊の嵐に飛び込めば肉体が持たない。ウンドワートやケットシーに匹敵する機体で無ければ、実力を比べることもなく破壊されてしまうだろう。

 アルファⅡモナルキアに何が出来る?


 ミラーズが二刀を構えて歌う。


『大丈夫ですよ。何があっても、あなたは大丈夫です』


 ヴォイドは迷わなかった。

 左腕のガントレットの意思決定ハンドルを引き、電子の守護天使に告げた。


『アポカリプスモード、レベル1』


『何を……』


 反論しようとするリーンズィの顔を、何も見ることは無い、閉ざされたバイザーの、フルフェイスの大男の両手が掴んだ。


『……戴冠コロネーションプロトコルの開始を提案する』

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