8話 襲い来るスケルトンの群れ!

 聖女を出迎える騎士の一行が出発してから、グレンは手持ちぶさたになった。そんなとき、姫巫女が控えの間を訪れお茶を入れてくれたのは、本当にありがたかった。


 姫巫女、クリスティ・シェイルーブ・ラ・ミストレル。神国の代表で強大な神聖魔力を持つ十七歳の娘だ。その魔力ゆえに十二歳で最高位神官に抜擢ばってきされ、十六歳のとき姫巫女に就任した。


 姫巫女は宗教的な象徴で神聖魔力の高さが何より優先される。魔力が高いのは若い乙女で処女性を失えば半減してしまう。そのため、姫巫女在任中は結婚はおろか恋愛さえ許されていない。


 グレンはクリスティの横顔を見つめながら、姫巫女の制度についてあれこれ考えていた。神国のために恋愛すらできない、この美しい娘はそのことをどう思っているのだろうか、と。


「コクランさま、どうかなさいました?」


「いえ……お茶がたいそう美味しかったので、ついボーっとしてしまいました」


 つまらないことを考えていたと反省し、グレンはごまかした。


「サラの入れてくれるお茶は絶品でしょう」


 クリスティが自慢げに目をやった先には、艶やかな赤毛をツインテールにまとめた美少女の姿がある。十歳くらいだろうか、白い神官服に赤い髪がよく映えていて、輝く緑の瞳はエメラルドのようだ。


「サラは侍女をしていますが、魔力はわたしと同等ですわ。彼女はもう最高位神官なのですよ」


「それは凄い。姫巫女さまは歴代でも魔力が高いとうかがっています。その年齢でそれほどの力を持っているとは」


「宰相閣下もサラには目をかけています。こうして、わたし専属の侍女をさせるのは教育の意味が大きいのです」


 クリスティはサラを見やる。


「サラ。コクランさまは、わたしが小さなころからミスリーの英雄でした。いい機会ですからしっかり覚えていただきなさい」


「はい、クリスティさま」


 サラは深々と頭をさげた。


「しっかりしていますね。私が十歳のころは街の悪ガキでした」


「まぁ、コクランさまったら」


 クリスティはクスクスと笑う。


「でも、サラには期待していますわ。早く次の姫巫女になって、わたしに楽をさせてくれると信じています」


「クリスティさま、めったなことを言わないでください!」


 サラは可愛い顔を膨らませた。


「ふふ、ごめんなさい」


 屈託なく笑うクリスティを見て(姫巫女さまは引退を望まれているのだろうか?)と、グレンはまたつまらない想像をしてしまうのだ。




 その時―――


 ガァ~~~ン、ゴォ~~~ン。

 ガァ~~~ン、ゴォ~~~ン。


 城塞中の鐘が一斉に鳴り響いた!!


「どうしましたか!?」


 クリスティが衛兵に向かって叫ぶ。


「直ちに確認を……」


 彼が言い終える前に別の兵がかけ込んで来た。


「敵襲です! 姫巫女さまは早く安全な場所へ避難されてください」


「敵? どこの軍隊だ!」


「信じられないのですが、もの凄い数の骸骨が攻め込んでいると」


 クリスティは、それがスケルトンと呼ばれるアンデッドだと気がつく。


「敵がスケルトンであれば、神聖魔法なしでは対処できません!」


「クリスティさま、これを」


 サラがクリスティ愛用の魔導杖を渡した。


「宰相閣下の護衛に向かいます。サラはわたしから離れないように」


「はい!」


「コクランさま、助力をお願いできますか?」


「もちろん!」


 グレンは、衛兵から剣を受け取り宰相の執務室へ向かい走りだした。その後を、クリスティとサラが追って行く。




 三人が執務室に着くとそこは地獄だった。十体のスケルトンに部屋は占拠され、宰相は胸を突かれて血の海に倒れている。


「宰相閣下っ!!」


 グレンはスケルトンに切りかかった! 


 だが、剣は骨に弾かれてしまい効果がない。アンデッドに通常攻撃が効かないことを、彼は改めて思い知ったのだ。


「サラ、ヒールです!」


「はい!」


 二人はヒールを放ち、それを浴びたスケルトンは灰になって崩壊する。


 部屋の中を一掃すると、クリスティは倒れている宰相にかけ寄った。しかし、すでに彼はこと切れていたのだ。


「この部屋を守っても意味がありません。状況を見渡せる場所へ行きます!」


「わかりました。この部屋の真下が中央バルコニーです。そこへ行きましょう」


 三人はスケルトンの軍勢を突破して行く。


 そしてバルコニーに着き、そこから周囲を見下ろして思わず息を飲んだ。数万のスケルトンが城塞内になだれ込み、そこここで虐殺を繰り広げていたのである。

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