95話 ザエル城塞の決闘!
8月5日。
魔の森侵攻軍は、魔王アザゼルの居城、ザエル城塞に到着した。三万の軍で城塞を包囲し、突入の機会をうかがっている。
「デボラ、不気味だわ。静かすぎる」
「確かに様子が変ね。見張りの魔族すらいない」
エルフィナとデボラが首をかしげたのも当然だ。城塞は四方の門が開け放たれ、中からは物音一つ聞こえてこない。
「計画では四つの城塞門を炸裂魔法で破壊、全軍で突入する予定ですが……」
「ワイズマン卿、包囲網を維持したままいったん全軍を城塞から遠ざけましょう。ここまで順調に来たのです。焦ることはない」
「賢明な判断かと。幸いわが陣営の合成魔王は全員が飛行できます。まずは、彼らに偵察させてはいかがでしょう」
そして、リリンをはじめ七人の魔王が本陣に集合したときだった。突然、見張りが鐘を鳴らしはじめたのだ。
ガ~ン! ガ~ン! ガ~ン! ガ~ン!
「何事かっ!?」
部隊長たちが騒めき怒号が辺り一面に響く!
「報告します! 魔族が一人、本陣へ向けて飛行して来ます」
「アザゼルか?」
その言葉に全員が色めき立った。アザゼルであれば一人で部隊を壊滅させるなど造作もない。
「いえ、別の魔族です。使者の旗をなびかせ上空で待機しております」
「使者だと?」
「ビリジアーニ卿、私が接触してみましょう。使者であれば話を聞いてみるのも一興かと」
「バフォメットか。よいでしょう、行きなさい」
彼は、黒い翼を羽ばたかせ上空にいる魔族に接近した。そして十分後、その魔族を誘導しながら本陣に舞い戻ったのだ。
「俺の名はイポス、アザゼルさま側近の一人だ。この軍の統率者に話がある。どいつが大将だ?」
イポスと名乗る魔族は堂々と告げる。
「わたしが総司令官のビリジアーニだ。魔族ごときがどんな用件で来たのか? 降伏するのなら受け入れてやってもよい」
デボラは虚勢を張るが緊張を隠せない。
「フフ……降伏か、考えてもいいぞ。ただし、お前たちがアザゼルさまに勝つことができたらだ」
「どういうことだ?」
「な~に、話は簡単だ。城塞の広場でアザゼルさまが一人で待っておられる。お前たちがアザゼルさまを滅ぼせたら、俺たち魔族は降伏しよう」
「決闘を希望しているわけか」
「そうだ。無駄に城塞が破壊されるのは俺たちも避けたい」
「わかった、条件を聞こう」
「魔族は全員、城塞から退去している。お前たちの代表が広場まで出向き、アザゼルさまと戦えばいい。代表は何十人でも何百人でも構わないぞ。一対一では話にならんし、お前たちも拒否するだろうからな」
イボスは最後に付け加える。
「アザゼルさまが勝ったときは戦利品が欲しい。闇結晶十キロを賭けてもらう」
魔族側の思わぬ申し入れに、デボラたちは提案の検討に入った。
「私はこの申し出を受けるべきだと思います。魔族は闇結晶に困窮しているので、このような賭けを申し出たのでしょう」
「エマニュエル卿は、ずいぶんと積極的ですね」
デボラはレスリーを見やる。
「魔族が人間の力を甘く見ている今が、最大の勝機です。それにアザゼルを討伐できなければ、計画はそこで失敗してしまいます」
「アザゼルの戦闘力は魔王随一と聞いています。間違いなく勝てるのですか? もし負ければ、侵攻軍の士気が低下してしまう」
「そうですぞ! 士気の低下は絶対に避けたい。下手をすれば撤退しないといけなくなる。魔族もそれを狙っているのだろう」
イライアスが声を荒げる。
「ワイズマン卿。それでは、アザゼルが一人でいる城塞に全軍で突入しますか? 狭い場所の乱戦で、彼を滅ぼす自信がおありでしょうか?」
アザゼルの戦闘力は桁違いだ。一万の兵で取り囲んだとしても討ち取ることは難しい。イライアスも馬鹿ではない。そのことは承知している。
「そこまで言うのならやってみればよかろう! だが決闘に負けた場合、相応の処罰を覚悟してもらいますぞ!」
「そのときはご随意に」
レスリーは不敵に笑う。
「わかりました。もともとアザゼル討伐はエマニュエル卿の担当です。何か策があるのでしょう。この場はあなたに任せます」
「感謝します、ビリジアーニ卿」
それから一時間後、開け放たれた城塞門の前にレスリーは立っていた。彼を取り囲むように七人の合成魔王が勢揃いしている。
「リリン!
バフォメット!
ゼバル!
アンドラス!
キマリス!
ブネ!
マルコシアス!」
はっ! と七人の声が同時に響いた。
「あなたたちに力を授けたのは、今日、このときのためです!」
彼は黄金の魔導杖を握りしめる。
「私の作戦に従えば、いかに強大な魔王アザゼルといえど滅ぼせる。奮戦を期待します!」
うなずく合成魔王たちを従え、レスリーは門をくぐった。行く手に待つのは魔王アザゼル。最強の魔族と謳われる魔王の中の魔王だった。
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