150話 新しい闇結晶技術を求めて

 マリが訪れたのは、ガルリッツァ連合国の首都ガルリア。盟主ゼビウス・メイスンは闇結晶技術に詳しく、いい考えを持っているのでは、と思ったのだ。


「闇結晶を平和的に利用する方法ですか?」


「はい、闇の魔導士会が開発した闇結晶技術は破壊に偏っています。彼らが作った高性能魔導杖が戦争に使われだしたら、多くの戦死者が出るでしょう」


「なるほど、理解できました。竜族は闇結晶の平和利用を進めることで、戦争に使われるのを阻止したいわけですな」


「そのとおりです。平和的な利用について、閣下の考えをお聞かせください」


 それを聞きゼビウスはかなり長考した。


「う~む、これは難しい。闇結晶は強大なエネルギーです。兵器として利用するのは簡単ですが、平和的に使うとなると用途が限られる」


「少しなら用途があるのですか?」


「ええ。たとえば暖房器具として優秀です。わずかな闇結晶があれば冬を越すことができる」


 ゼビウスは鉄製の箱を持ってきた。

 触るとかなり熱い。


「闇結晶で作ったヒーターです。闇結晶と触媒を封じ込めた箱で、数か月のあいだ発熱してくれます。煙が出ませんし空気を汚すこともありません。熱量は箱の大きさで調整することができます」


「素晴らしいですね!」


「そう言ってもらえると嬉しいですが、現実は使い物になりません。多少煙が出たとしても、薪や炭の方が圧倒的に安いですから」


 マリは考えてみる。


(闇結晶の価格はかなり下げられる。しかも、これは火を使わないから安全だわ。床下に置けば理想的な暖房器具になりそう)


 しかし、床暖房をやるから闇結晶を戦争に使うな、と言って納得する国があるだろうか?


(ないよねー。闇結晶で高性能魔導杖を作った方が利益が大きいもの)


 マリとゼビウスは、ああでもないこうでもないとアイデアを出し合ったが、魅力的な闇結晶の使い方を思いつかない。




「そうだ、聖女さま」


「どうされました、閣下? 何かいいアイデアが浮かばれましたか」


「いえ。そうではないのですが、神聖ルーン帝国は闇結晶を利用し繁栄を極めたと聞いております。彼らはどのように使っていたのだろう? と思ったのです」


「ああ、なるほど。彼らは闇結晶の上手な使い方を知っていたはずですね」


「そうです。そして、それについてはエマニュエル卿が詳しい」


「確かにそうです。レスリーならルーン帝国の技術を知っているでしょう」


 マリは、レスリーをガルリア城に呼び寄せることにした。守護者となり瞬間移動できるようになったウェグを迎えにやる。


「はぁ~、やっぱり便利屋としてこき使われる運命なのか」


 文句を言いつつも、ウェグはレスリーを連れて来たのである。




「事情はウェグから聞いた。しかし、ルーン帝国の技術を使うのは難しいだろう」


 レスリーは、マリとゼビウスに説明する。


「まず、基礎技術の大半が失われている」


「技術の基本がわかっていても、それを実現するためには多くの周辺技術が必要になる、ということか」


「そうです、閣下。ルーン帝国の技術を復活させるには千年単位の長い時間が必要になります。今回の問題に対処できません」


 それを聞いたマリはがっくりとうなだれた。


「はぁ~っ。やっぱり闇結晶って戦争に使うのがいちばん楽なのね」


「落ち込むな、マリアンヌ。ルーン帝国の技術がダメでも他の方法がある」


 レスリーは、袋からあるものを取り出しテーブルに置いた。それは電池を使った子供用教材だ。


「閣下、これは興味深いですよ」


 そう言いながら、電池に豆電球をつなぎ光らせて見せた。


「おぉ! なんと不思議な。今まで見たことのない明かりだ」


 彼は、次に玩具の飛行機のプロペラを回した。これは、豆電球以上にゼビウスを驚愕させたのである。


「素晴らしい! これがあればアルデシアの科学技術は激変するだろう」


 喜ぶメビウスに比べマリは浮かない表情だ。


「閣下。電球もモーターも素晴らしいですが、アルデシアでは役に立ちません。この世界には電気がありませんから」


 日本で育った彼女は、電気技術がどれだけ優れているか知っている。しかし、それをアルデシアで再現するのは難しい。


「レスリー。わたしも電気を使うことは考えたことがあるの。水車を使って発電すればできなくないけど、それを実現するのに何百年もかかってしまう。それに、わたしの目的は闇結晶の平和的な利用法よ。電気が使えるようになっても問題は解決しないわ」


 それを聞いた彼は微笑んだ。


「そんなことを見落とす私ではないよ」


 彼は小さな木箱を取り出した。それには二本の電極が付けられている。そして、それに豆電球をつなぐと光ったのだ!


「閣下、電気の正体は雷なのです」


「そうか、わかったぞ! この箱は雷撃魔法を応用しているだな」


「正解です。箱の中で小さな雷撃を起こしています。魔法固定化の技術を使い、継続的に電気を取り出すことに成功しました」


 箱の構造はシンプルで、雷撃魔法を固定する金属と電気を取り出す電極だけだ。魔法の威力を変えることで、出力を変化させることができる。


「魔法を応用した小型発電機ね。それで、どれくらいの時間使えるの?」


「箱に入れる闇結晶の量次第だが、豆粒くらいの闇結晶があれば、小さなモーターを百年以上回すことができる」


 技術に暗いマリでもこれには驚いた。これは完全エネルギーだ。闇結晶は竜体が生み出し続ける。アルデシアはエネルギー問題から永遠に開放されるだろう。


 日本さえ解決できないエネルギー問題を、レスリーは見事に解決したのである。

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