149話 踊るゴブリアード!

 ブラックゴーレムが神秘の森に配備された。重たい岩石の体を引きずりながらダンジョンに人が近づかないよう警備している。


「冒険者の侵入を完全に防ぐのは無理かもしれませんが、出入りは大きく制限されるはずです」


「そうですね、竜王さま。迷宮の中にもゴーレムを配置しました。闇結晶を持ち出すのはかなり難しいでしょう」


 ゴゴゴゴ……と動き回るゴーレムを見て、竜王とマリが満足そうにうなずく。


「ところで竜王さま。ときどき勝手に踊りますが何とかなりませんか?」


 コマリがゴーレムを踊らせてからというもの、何かの拍子でとつぜん踊りだす。


「竜神さまが、変な動作パターンを覚えさせましたからね。初期化すれば直りますけど、そうすると基本動作から学習させなくてはなりません」


 ゴーレムは魔力に記憶させた動作を再現する。そのイメージは蓄積され、高度に調教されたゴーレムは、細かく命令しなくても自分で考え行動するのだ。


「コマリの魔力は強力ですから、ゴーレムはそれに影響されてしまったのですね」


「そのようです」


「踊っているゴーレムを見たら、冒険者はどうするでしょう?」


「笑って引き返してくれるといいのですが」


 二人は、苦笑いしながらダンジョンの視察を終えたのである。




 マリと竜王はゴブリアード王国に戻った。建設中の城塞に着くと、そこでもゴーレムが働いている。


「ガルさん、ゴーレムの扱いに慣れました?」


 現場監督のガルにマリが話しかける。


「ああ、もう大丈夫だ。最初は役に立つか心配したが、こいつらはすぐに要領を覚える。おかげで作業効率が大幅に上がったぞ」


「ガルガンティス、ゴーレムは働けば働くほど賢くなります。たくさん仕事を教えてあげてくださいね」


「任せてくれ、竜王さま。やるべき仕事が山のようにあるからな」


 三人で話していると、マリナカリーンとローラがやって来た。


「マリアンヌ、ダンジョンの視察ご苦労じゃ」


「それで、闇結晶を守れそうですかー?」


「お祖母ばあさま、お母さま、ダンジョンはもう大丈夫です。ゴーレムは人間が敵う相手ではありません。必ず期待に応えてくれます」


 マリは嬉しそうに答えたのだ。




「そういえばコマリの姿が見えませんが、あの子はどこで働いているのです?」


「ああ、そのことだが……マリ、ちょっとこっちへ来てくれないか」


 ガルに案内されて広場に行けば、そこでは数体のゴーレムがコマリの指導でダンスの練習をしていた。


 ザ、ザ、ザ、ザ、ザッ、ザッ。

 ザ、ザ、ザ、ザ、ザッ、ザッ。


 それは見事な動きで、倉庫で踊ったときより数段レベルアップしている。


「すっかりゴーレムが気に入ったようで、ああして教えてるんだ」


「ガルさん、ごめんなさい。すぐに働くよう言い聞かせますから」


「いや、構わない。コマリにしかできない作業はすべて終わっている。それにいい面もあるんだ」


「いい面?」


「ああ。ゴブリンがダンスに興味を持ちだして、仕事が終わると一緒に練習しているのさ。彼らのストレス解消に役立ってる」


 ガルの言うように、ゴーレムに混じって多くのゴブリンが一緒に踊っている。とても楽しそうで見ていて微笑ましい。


「マリアンヌー、このままでいいではありませんか。どんなに立派な王国ができたとしても、文化が実らなければなんの意味もありませんからねー」


「そうですね、お母さま」


「しかし、音楽がないのはちと寂しいの」


「ありますよ、マリナカリーン! 楽器を演奏できるゴーレムも残っています」


 空間の門を使い、竜王が音楽用のゴーレムを連れて来た。


 ズン、ズン、ズン、ズン、チャ、チャ。

 ズン、ズン、ズン、ズン、チャ、チャ。


 コマリがイメージした曲を小さなゴーレムが演奏する。すると、それに合わせて巨大なゴーレムが踊りだした。ゴブリンたちはもう大喜びで、一緒に踊ったり手拍子を打ったりしている。


「ははは……今日は仕事になりそうもないわね」


 苦笑いするマリだったが、このあと開かれた宴会で歌いまくったのは彼女だ。


(著作権料の請求なんて来るはずないもの)


 そんな不遜なことを考えながら、日本で覚えたヒット曲を熱唱するのだった。



 ◇*◇*◇



 竜王が貸してくれたゴーレムのおかげで、ダンジョンに残された闇結晶は守れそうだ。しかし『闇結晶をどうするのか?』という問題については、まだ何も解決していない。


「何度も言うが、闇結晶は魔の森の魔族とモンスターしか使っておらん。このままだとアルデシアにあふれ返ってしまうじゃろう」


「そうですね。今まで貯めたぶんは魔の森で使ってもらうとして、これから排出する闇結晶だけでも、わたしたちで消費しませんと」


「でも、マリアンヌー。人間に渡せば戦争に使いますよー。すでに高性能魔導杖を作る技術を持っています。いずれ、もっと恐ろしい兵器を開発するでしょう」


 三人の母娘は顔を寄せ合って相談する。


「そうだ、いい考えがあります」


 マリが何かひらめいたようだ。


「平和的に使ってくれればいいのですから、こういうのはどうでしょう?」


 各国と闇結晶の軍事利用禁止条約を結ぶ。条約を批准した国には平和利用の技術とセットで闇結晶を渡すのだ。条約を結ばない国や違反した国は、新技術を使えず国力を落としてしまう。


「うむ、考えそのものは悪くない。だが、軍事利用禁止と引き換えにできる新技術とはどういうものじゃ?」


「かなり魅力的な技術でないと各国は納得しないですよー。条約を反故ほごにして、与えた闇結晶を戦争に使うに決まっています」


「具体的な内容は決まっていません。ですが、そのような技術を開発できる人物に心当たりがあります」


 マリは笑顔で答える。


「上手く行かなくてもともとです。この件はわたしに任せてください」


 こうして彼女は、闇結晶を使った新技術の開発に乗り出したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る