148話 はじまった竜族会議
マリの守護者にウェグが選ばれ、竜王から瞬間移動の能力が与えられた。コマリの守護者にはピーがなり、翼が生えて飛べるようになった。
ちなみに、マリナカリーンの守護者はアローラで猫の神族だ。強大な魔力を持っていて、彼女の魔法シールドは絶対防御を誇っている。そして、マリーローラの守護者がガルガンティス。巨人の神族であり、彼の生産能力はどんな物でも作ることが出来るのだ。
こうして竜族は新しい戦力を加え、万全の体制になったのである。
「さて、ずいぶん脱線してしまいましたが会議を始めましょう。議題はマリナカリーンから提出された『闇結晶をどう扱うか?』です」
それを聞いて反応したのはローラだ。
「お母さまー、あの議題をまた蒸し返すつもりですかー?」
「孫とひ孫のためじゃ。わしだってお前とこんな話などしたくない!」
二人はにらみ合い、目線はバチバチと火花を散らしている。
「あの……お祖母さまにお母さま。いったいどうされたのです? なにやら不穏な雰囲気ですが」
「マリアンヌー、いい機会ですから覚えておきなさい。お母さまが闇結晶を人間界にばら撒いた張本人なのですよー」
意外な事実にマリは驚く。
「どういうことです?」
「この人は魔術師協会の設立資金が欲しくて、アルデシア中の魔導士たちに闇結晶を売り歩いたのです」
「なるほど……そういえばメイスン卿に聞きしました。二千年前に黒髪の美女から闇結晶を買ったと。それってお祖母さまのことだったのですか」
「こんな危険なものを売るなんてー、本当にどうかしています!」
「ローラよ、お前は何もわかってない。遥か昔、闇結晶は人間のあいだで有効に使われておったのじゃ。不幸にして母の時代に大きな事故が起きてしまったが、人間は闇結晶を制御できておった」
「神聖ルーン帝国は滅んだじゃありませんか!」
「あれは竜の力が暴走したためじゃ! 闇結晶が原因でないと言っておろう!」
「それは詭弁ですよー! 闇結晶が同じくらい危険なのは事実です!」
「頭の固い奴じゃの! よいか、このままだとアルデシアに闇結晶が溜まる一方なのじゃ。魔族だけでなく、人間にも消費してもらわんと困る。
―――それと語尾を伸ばすでない。何回注意すればよいのじゃ!!」
「それはー、わたしの勝手ですー。関係ない話をしないでください! それにー、わたしからライオン丸ちゃんを取り上げたのは、お母さまじゃないですかー!!」
変なところで壮絶な母娘喧嘩が始まってしまった。アローラとガルは、そんな二人を苦笑いしながら見守っている。
「二人ともいい加減にしてください! なぜ竜族会議が長いあいだ中断されていたのか、よ~く理解できました」
母娘喧嘩も収まり、竜王がこれまでの経緯を話してくれた。
以前の会議で闇結晶を巡り、二人の意見が真っ二つに割れてしまった。闇結晶を人間に開放したほうがいいと言うマリナカリーン。人間に渡すべきではないと主張するマリーローラ。結論は出ず、この問題は保留になっていたのだ。
「お二人の意見は理解できます。わたしもどうするのが正しいかわかりません。そもそも正解などないのでしょう」
竜王も困り果てたのだろう、はぁ~、と深いため息をもらした。
「お母さまが言われるように、人間に闇結晶を開放するのは不安です。ですが、すでに軍事利用されはじめました。隠し続けるのは無理でしょう。むしろ、隠蔽してしまうと偏った使い方をされかねません」
「マリアンヌの言う通り、公開して正しい使い方を人間に教育すべきじゃろう」
「でもー、闇結晶が戦争に使われれば多くの命が失われますよー」
マリが心配しているのもその点だ。確実に戦死者は増える。
「これは本当に悩ましいですね」
彼女も竜王と同様、深いため息をついたのだ。
「マリ。悩むのはいいが、その前に片づけなくてはいけない問題があるだろう」
ウェグの言葉で、マリは神秘の森のダンジョンを思い出した。
「そうでした。竜王さま、神秘の森が焼かれてダンジョンが無防備になりました。このままでは人間が闇結晶に押し寄せて来ます」
「そのことはわたしも知っています。大急ぎで手を打ちましょう」
竜王は席を立って館の外に出た。そこには巨大な倉庫群があり、彼女はその一つに入って行った。マリたちもそのあとを追う。
三十五番と書かれた倉庫の中には、巨大な漆黒の人型が数百体収められていた。
「これってまさか……ゴーレム!」
マリの言葉に竜王はうなずく。
「はい。ここにあるのはルーン帝国の遺産で、闇結晶を動力とするブラックゴーレムです」
ゴーレムは高さ三メートルから五メートルの人造モンスターで、攻撃力が高く守りも固い。
「これを百体ほど、神秘の森とダンジョン内に放ちましょう」
「ありがとうございます、これがあれば闇結晶を守ることができます」
マリは頭を下げる。
「しかし、竜王さまがこれほどの力をお持ちとは知りませんでした」
「マリアンヌ、竜王さまの力はこんなものではないぞ。その気になれば国の一つや二つ、軽く滅ぼしてしまうじゃろう」
「お母さまの言うとおりですよー。怒らせると大変なことになります。神族や魔族が束になっても止めることができません」
「あのー、人を化け物みたいに言わないで欲しいのですが……」
竜王は恥ずかしそうに頬を染めたのだ。
「では、起動してみましょう。誰かゴーレムに命令してみてください」
「それではわたしが」
マリが名乗り出て命令しようとしたとき、
「おどれー!」
コマリの声が倉庫内に響き渡り、ゴーレムたちが一斉に踊りだしたのだ。
ザッ、ザザッ、ザッ、ザザッ、ザッ、ザザッ。
軽快なステップでリズムを刻む。
「おお、これは面妖なダンスじゃ!」
「はい、お母さま。わたしも初めて見ましたー」
マリナカリーンとローラが感嘆の声を上げ、マリは冷や汗を流している。
(これってゾンビが踊るダンスだわ。コマリが日本のTVで覚えたのね)
それから四分余り、ゴーレムたちはポップなダンスを踊り切ったのである。
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