147話 ウェグ、ついにマリの子分になる!

 闇の魔導士会を壊滅させたマリは、神秘の森に戻りゴブリアード王国の再建に力を注ぐことにした。幸い新しい土地でも温泉が見つかり、コマリやゴブリンたちも喜んでいる。


「これは立派な王国になりそうじゃ。コマリが熱中するのもうなずける」


 建設現場で働くコマリを見て、感心しているのはマリナカリーンだ。


「あの子は、ゴブリンと国を作るのが楽しくて仕方ないのです」


「うむ、そういう経験を積みながら竜神として成長するのじゃ」


 満足そうに微笑む祖母に、マリは思い切って相談することにした。


「お祖母さま。王国は順調ですが、問題はダンジョンに残された闇結晶です」


「現状はどうなっておる?」


「森林火災で守り手がいなくなり、このままではかなりの量が流出してしまいます。アマルモンに警備してもらってますが、いつまでもというわけにはいきません」


「確かに闇結晶の管理は竜族の責任じゃな」


 マリナカリーンは難しい顔で考え込んだ。


「仕方ない。よい機会じゃし竜族会議を招集することにするかの」


「竜族会議……ですか?」


「マリアンヌは出席したことがなかったか?」


「はい」


「では、竜王さまとローラに会議のことを伝えてくれ。それと、おぬしがいちばん信頼する神族を選んでおくのじゃ。全員が集り次第、竜族の本部へ向かう」


「わかりました、お祖母さま」



 ◇*◇*◇



 竜族本部は、アルデナ山の頂上に近い洞窟の中にあった。奥に入って行くと広い空間があり、立派な館が建てられている。


「ここは初代竜神が使っていた洞窟で、館は母のニーナマリアが建て直した。ルーン帝国の技術を使っていて、一万年経ってもこのようにしっかりしておる」


 マリナカリーンの説明を聞きながら、竜族会議の参加者が館の中に入って行く。


 大広間に集まったのは、


 竜王のシス。

 マリナカリーンとアローラ。

 マリーローラとガルガンティス。

 マリとコマリ。

 それに、ピーとウェグだ。


 そこには大きな会議卓があり、それぞれが席に着いた。


「みなさん揃ったようですね。それでは始めましょうか」


 竜王が会議の開始を宣言する。


「議題に入る前に、初めて参加する方の守護者を選任しましょう。現役の竜神さまに守護者は必要ありませんが、本人の希望もありピーが選ばれました。それで構いませんね?」


 マリに抱かれたコマリ、ローラに抱かれたピーがうなずいた。


「次に聖女の守護者ですが、これにはウェグが内定しています」


 その言葉にマリは同意するが、ウェグはいきなり立ち上がった。


「どういうことだ? さっきから守護者がどうとか言っているが、俺は何も聞いてないぞ!」


「ウェグ、落ち着きなさい。これから話すから」


 マリが説明する。


「竜体を子に引き継がせた竜族は無力なの。なので守護者……ガーディアンが必要になる。それにあなたが選ばれたってわけ」


「俺は嫌だ! 守護者なんて聞こえはいいが、実態はマリのパシリだろう!! そんなのは絶対に御免だぞ!!!!」


 怒鳴る彼をなだめたのはガルだ。


「ウェグ、守護者といっても付きっ切りというわけじゃない。竜族が困ったときに相談に乗ってやればいいだけだ。俺はローラさまの守護者だが、けっこう自由にさせてもらっている」


 彼の言葉に竜王が相槌を打つ。


「そうですよ。あなたが守護者に相応しいかどうか陰から見ていたのですが、聖女に頼まれるといつも引き受けているではありませんか。守護者になったところで、今までと何も変わらないでしょう」


「竜王さま。俺はあいつの頼みを断れない立場だが、ノリノリで引き受けているわけじゃない!」


「まぁ、まぁ、まぁ、そう言わずに。守護者になれば特典が与えられますから」


「特典だと?」


 ウェグの食いつき具合を見て竜王は微笑んだ。


「はい。わたしが竜の力が授けます。小さな力ですが、今の何倍も強くなれますよ。それに、守護者の一族は大切に扱われます。聞けばウェアウルフ族は困っているそうじゃないですか。それを何とかしてあげましょう」


「具体的には、どうしてくれるんだ?」


「そうですね、こういうのはどうでしょう。ヴァンパイア族が住んでいたエルサイラ地方の森ですが、今はもう誰もいません。そこの権利を与えます」


 エルサイラの森について説明しておくと、三年前にマリがガルやサンドラと出合った場所だ。とても美しい森で、ウェグもそれを知っている。


(あの森をくれるのか! これは竜王さまの約束だ。悪い話じゃない)


 かなり悩んだ末、彼は決断した。


「わかった、取引に応じよう。マリ、俺を煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」


「ウェグ! 人聞きの悪いことを言わないでちょうだい! 今までどおり、わたしの子分でいればいいのです」


「だ~か~ら~、俺はマリの子分じゃないと何度も言ってるだろうが!」


 会議室にウェグの抗議が虚しく響いたのだ。

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