146話 闇の魔導士会、壊滅!
それからしばらく経ったある日のこと、スローン帝国の首都スローニアで大きな会合が開かれた。会場を警備するのは五人の合成魔王たち。そう、ここで闇の魔導士会の総会が開かれていたのだ。
壇上に立っているのは幹部の一人、大賢者イライアス・ワイズマン。
「お集りの会員の方々! 我々の夢がまた一歩、前進しました!」
観衆を前にして彼は得意の絶頂だ。
「今から、神秘の森のダンジョンを攻略した成果をご覧に入れましょう!」
彼が合図を送ると荷車に乗せられた闇結晶が運ばれてきた。それは恐ろしく巨大な結晶だ。
「この闇結晶はダンジョンの奥底に埋まっておりました。これ一つで一トン近い重量があります」
会場に割れんばかり拍手が巻き起こった!
闇結晶は、指の先ほどの大きさでさえ金貨数十枚の価値がある。これだけの大きさの結晶になると、価格を付けることさえ不可能だ。
「これで悲願を達成できたぞ!」
「いや、これからが本番だ。この闇結晶を使えば高性能魔導杖が数千、いや数万本作れる」
「魔術師の大量育成が必要になりますな。これからが大変だ、はっはっはっ」
「もはや魔族は敵ではない! 再び魔の森へ侵攻するべきだ!!」
「闇の魔導士会、バンザイ! 新総裁イライアス・ワイズマン、バンザーイ!」
年代物のワインが封切られ、何百ものグラスが掲げられた。
―――そのときだ!
澄んだ美しい声が会場に響き渡った。
「みなさんの喜ぶ気持ちは理解できます。自らの繁栄を願うのは自然なことで、誰にも非難できません」
会場が静まり返る。
「ですが、そのために多くの命を犠牲にしていいわけではありません。あなた方はやりすぎたのです」
「そこか! 姿を現せっ!!」
五人の合成魔王が一人の女を取り囲んだ。それは、気配断ち結界を使い会場に潜んでいたマリだ。
「聖女! どうしてここがわかった?」
ワイズマンが叫ぶ。
「ワイズマン卿、お久しぶりですね。暗黒樹事件のあと、デボラさんやエルフィナさんと一緒にお会いして以来です」
「そんなことはどうでもいい、説明しろ!」
マリは微笑む。
「そうですね、お話しましょう。まず、神秘の森のダンジョンに残っているのは小さな欠片ばかりで、あなた方が期待しているような量はありません」
「何をバカな! これだけ巨大な闇結晶が採掘されたではないか」
それを聞いた彼女は、口の端を持ち上げて獰猛に笑った。
「まだ気がつかないのですか。その闇結晶はわたしが用意したものです。そして、コマリにマーキングさせました。あの子は、それがある場所を追跡できます」
これは瞬間移動の応用だ。魔王ベリアルは、彼の血が付いた物がある場所ならどこにでも移動できる。コマリも、マーキングした物の近くに空間の門をつなげることができるのだ。
ダンジョンが壊滅したとき、マリはある計画を思いついた。最下層に巨大な闇結晶を置いておけば、神秘の森を焼き払った犯人がそれを持ち去るだろうと。そして思惑は当たり、闇の魔導士会のアジトに運び込まれたのだ。
「失礼ですが、あなた方の計画は調べさせていただきました。帝国内乱を演出し、混乱に乗じて神秘の森を焼き払う。そうすれば、竜神がダンジョンを放棄すると考えたのでしょう」
マリの話は続く。
「完璧な計画でしたね。闇の魔導士会がやったという確たる証拠がなければ、竜神といえど罰することができません。火を放ったのがあなた方ではないかと疑いつつも、今まで手を出すことができなかったのですから」
「くそっ! 巨大闇結晶がここに運ばれるのを予想し、こんな罠を仕掛けたのか」
「はい。想像以上に上手くいきました」
イライアスがマリをにらみつけた!
それは憎悪に満ちた
「構わぬ! せっかく一人で来てくれたのだ、この女を殺せ! 早くっ!!」
合成魔王たちが一斉に襲いかかる!
「なんと愚かな……あなたたちは最後のチャンスを自ら放棄したのです」
そして両手を上げて叫んだ!
「コマリ―――っ!!!!」
刹那、輝く閃光が天井を破りイライアスと合成魔王たちを貫いた!
ぐわぁぁぁ―――ぁぁつ!!!!
切り裂くような悲鳴を上げながら、彼らの体が燃え上がる。そして灰になり崩れ落ちたのだ。
それを見届けたマリは冷たい声で言い放つ。
「ワイズマン卿は亡くなりました。会場にいる方は、わたしと一緒に来ていただきます。そして、神秘の森放火の共謀罪で裁きを受けてもらいましょう」
こうして、闇の魔導士会の幹部たちは拘束されたのである。
◇*◇*◇
聖都へ連行された幹部は、尋問を受けすべてを白状した。そして闇の魔導士会の全貌がアルデシア各国に通報され、彼らは活動不能になったのだ。
ただ、会のメンバーは各国の要人が多い。そのため最後は放免され、それぞれの国に帰って行った。
「マリアンヌは甘い! わしなら全員死刑じゃ。今からでも遅くない。あやつらに相応の罰を与える」
怒っているのはマリナカリーンだ。
「まぁ、まぁ、お師匠さまー。かなりの被害が出ましたけど、闇の魔導士会はこれで壊滅しました。聖女さまのお手柄です」
「そうだな。それにマリの甘いところは嫌いじゃない。それで苦労することがあっても最後は帳尻を合わせてしまう」
アローラとエリックにたしなめられ、彼女も渋々納得したのだ。
スローン帝国にも、今回の内乱の内幕が報告された。闇の魔導士会に協力した軍幹部が調査されている。
サースロン侯と彼の騎士団は、多くの死者を出したものの侯爵は無事だった。嫌疑を解かれた彼は、城塞に戻り領主の座に返り咲いたのである。
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