151話 闇結晶発電機
魔の森に次元の門が出現したとき、日本政府はその場所に自衛隊基地を作った。レスリーは門を監視するため、マリに頼まれそこに滞在することになったのだ。
「基地で暮らすようになっていちばん衝撃を受けたのは、次元の門ではなく日本の電気技術だった。輝く照明、モーターで動く機械、それらを見て考えた。電気技術はアルデシアの未来を大きく変える、とね」
「それで研究したわけね」
「そうだ、自衛隊に資料を取り寄せてもらい没頭した。専門書は用心して見せてもらえなかったが、子供向けのものは許可が出た。さっきの電池や豆電球、モーターの模型は、彼らから贈られたものだ」
レスリーは何千年も生きている優秀な学者で、日本の電気技術を理解するのに大した時間はかからなかった。
「白熱灯、モーターに関しては、多くの素材がアルデシアに存在する。ないものもあるが代用品がある。すぐに再現できるだろう」
「それが本当なら凄いことだわ!」
話を聞いてマリも興奮している。
「ただ一つ問題があって、かなりの額の開発費が必要になるんだ」
「それはわしが何とかしよう。ガルリッツァ連合国は豊かでないが、それくらいの費用なら捻出できる」
ゼビウスが出資を申し出て、マリも賛成した。
「電気技術の開発は、連合国と竜族の共同出資で進めることにしましょう」
こうして、マリとゼビウスは固い握手をしたのである。
◇*◇*◇
連合国で始まった電気技術開発だが、本拠地を首都のガルリアにしたのは正解だった。ガルリア大学のレベルは高く、白熱灯、モーターの試作品が、わずか三か月で完成したのだ。
光り輝く照明、唸りをあげる動力を見ながら、マリは満足げにうなずいた。
「計画は大きく前進しました。あとはこれらの技術を使い、誰もが欲しがる道具を作らなければなりません。これのためなら闇結晶の軍事利用をあきらめてもいい、そんな魅力にあふれた製品です」
「聖女さまはあるのですか? 具体的な構想が」
「はい、あります。トラックを作るのです!」
「トラック?」
ゼビウスが首をかしげる。
「説明しましょう。トラックとは、重い荷物を大量に運ぶ自走荷車のことです」
「そういえば、自衛隊は輸送車両をトラックと呼んでいたな」
レスリーはすぐに納得した。
「頑丈な荷車にモーターを取り付け走れるようにします。白熱灯を装備させれば夜間でも荷物を運べるでしょう」
「輸送に注目されたのですな。これなら各国が欲しがりましょう。聖女さまの着眼点は実に素晴らしい!」
ゼビウスに褒められマリは胸を張っている。こうしてトラックの開発が始まったのだ。
それから半年。荷車を改造したトラックが完成した。そして、連合国の要人の前で披露される。運転手が座席に乗ってスイッチを入れると、モータが唸りを上げ、大きな車体がスピードを上げていく。
それを見た群衆は大歓声を上げた!
馬や牛に頼らず大量の荷物が運ばれる。それは画期的なことなのだ!
「やりましたな、聖女さま!」
「マリアンヌ、おめでとう! これは試作機だ、性能はもっと上がる。誰もが欲しがる魅力的な商品になるだろう」
「ありがとう、メイスン閣下、レスリー。お二人のおかげです。これで闇結晶を平和的に使う目途が……」
マリがそう言った時だった―――
ドガァァ―――ンン!!
トラックが轟音と共に爆発したのだ!
ドライバーは無事だったものの、試作トラックは大失敗だ。調査の結果、すぐに原因が判明した。モーターの出力に耐え切れず闇結晶発電機が爆発したのだ。
「モーターが使う電流量が大きすぎた。発電機の容量を超えてしまったんだ」
「レスリー。技術的なことはわからないけど、それならもっと大きな発電機を作ればいいだけじゃない?」
「聖女さま、そう簡単ではないのです。爆発したのは、魔法固定化に使う金属が雷撃魔法の出力に耐え切れなかったからです。もっと耐熱性の高い金属を使えば解決しますが、アルデシアにそんな金属はありません」
「すまない……手に入る金属で大丈夫と思ったんだが、出力を上げると想定以上の高熱になる」
マリはがっくりとうなだれた。
「マリアンヌ、まだあきらめるのは早い。解決策がなくもないんだ」
「どんな策なの?」
「ルーン帝国が使っていたオリハルコンだ」
「オリハルコンって聞いたことあるわ。ファンタジー小説に登場する金属でしょう。アルデシアにもあったんだ」
「ああ、帝国を支えた中核技術の一つだ」
「でも、その技術を復活させるのは難しい、って話してたじゃない」
「オリハルコンの精製なら今ある技術で可能だ。ただ、どこで採掘されていたのかわからない」
「いいわ、わたしが調べてみましょう」
こうしてマリは、幻の金属オリハルコンを求めてアルデシア中を駆けずり回ることになったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます