152話 幻の金属、オリハルコン!
闇結晶発電機を使ったトラックは失敗した。発電機が大出力に耐え切れず爆発したのだ。改良したいが、それには高熱に耐えられる特殊な金属が必要になる。また、白熱灯にも耐熱金属が必要だとわかった。今のままでは寿命が短かすぎるのだ。
このことで、マリは専門家に頭を下げることにした。金属の権威といえばドワーフ族である。彼女はドワーフ族の王、ガンダルヴスに会見を申し入れた。
王の前で、マリは
ギリム・ガンダルヴス・ラ・ドワーヴン。ガッシリした体だが背丈はやや低い。顔は髭もじゃで彫が深く、濃い眉の下には厳しくも優しい瞳がのぞいている。豪華な衣装を身にまとい、彼は玉座に座ったまま話す。
「聖女よ、以前は失礼した。竜神さまに
ゴブリアード王国のことで、マリはドワーフ族に援助を頼んだが断られている。それを、コマリが再交渉してまとめ上げたのだ。
コマリの手柄なのだが、そのあとドワーフたちが酷く怯えている。
(ドワーフがこんなに怯えるなんて、あの子はどんな交渉をしたのかしら?)
マリは想像して冷や汗を流した。
「それで、ダンジョンに仕掛けた罠は役に立っておるか?」
「陛下、残念ながら森に火をかけられダンジョンは壊滅しました。せっかく仕掛けていただいた罠も壊れています」
「それは痛ましいことだ。しかし、それはわしらの責任ではない。罠の代金は返さんからな」
「返さなくて結構です―――というか、ここを訪ねたのは別の用ですわ」
「そうか、別件か。それでは、この会見は新たな料金をいただくことになる。構わぬな?」
「構いません」
「会見料だが、金貨十枚でどうだろう」
「高すぎます。相談するだけなら、金貨一枚で十分でしょう」
「竜族は存外ケチであるな。金貨九枚では?」
ドワーフとの会見はいつもこうなる。彼らは金が大好きなのだ。
(仕方ないわよね。彼らは地下生活で農耕できないもの。食料はお金を払って買うしかないのだから)
マリは内心でため息をつく。
「わかりました、ここは陛下のお顔を立てます。金貨を五枚お支払いしましょう」
「おお、それで手を打とう! 土産として金貨二枚が別料金になるが」
結局、マリは金貨七枚を支払うことになった。ちなみに、金貨一枚は日本の価値で十万円だ。
「それでは用件を聞こうか」
「オリハルコンという金属を探しています。陛下には心当たりがありませんでしょうか?」
「知らんな。初めて聞く言葉だ」
「そうですか……仕方ありません。今日はこれでお
マリが立ち上がろうとしたときだ。
「そういえば黄金に輝く金属なら知っておる。確か名前が、オリル、オルハ……歳のせいかよく思い出せん」
ガンダルヴスの態度を見て、これは駆け引きだとマリも気がついた。
「無理に思い出していただかなくて結構です。会見料の金貨七枚はすぐにお支払いします。コマリに連絡して、ここに持って来させましょう」
「ま、待てっ! わざわざ竜神さまに来ていただかなくてもいい。次に来たとき払ってくれれば十分だ」
「支払いが遅れたとあっては竜族の信用に関わります。大丈夫です。あの子がその気になれば十分で到着しますから」
「い、いや……おぉ、そうだ! 金属の名前を思い出した。確かオリハルコンだ」
マリは再びひざまずく。
「遥か遠い昔に使われていた金属だ。今は採掘しておらず、ドワーフ族も詳細は知らぬ」
「そうですか。では、コマリに来てもらわないといけないですね」
「待て、待て! わしは知らんが、知っている人物に心当たりがある」
「誰です、それは?」
「何万年も生きておられる偉大な王―――オベロンさまだ」
「げっ、妖精王さま!」
彼女は思わず奇声を上げてしまったのだ。
◇*◇*◇
『世の中は、金と色とは、いうけれど、守銭奴の次は、色情魔かな』
ざれ歌を詠みながら、マリはオベルの森に到着した。
「おぉ、聖女よ。今度こそ、予に胸を揉まれに来たのだな」
パシッ!
シルフィが容赦なく妖精王の頭をはたく。
今回はマリも一緒だ。
「本当に冗談の通じぬ女たちだな」
「今はそんな気分ではありませんっ!」
「何やら機嫌が悪そうだ。で、用件は何だ?」
マリはこれまでの経緯を話す。
「オリハルコンか。エマニュエル卿が説明したように、その金属はルーン帝国で使われていた」
「ありましたね、オベロンさま。黄金に輝くとても重たい金属です」
「うむ。金に似ているが固さがまったく違う」
「オリハルコンは今も入手できるでしょうか?」
「この森のドワーフたちが採掘していたが、もう住んでいない。ルーン帝国が滅びたことでオリハルコンの需要がなくなり、採算が合わなくなったのだろう」
「はぁ――――――っ」
マリは精魂尽き果て座り込んでしまった。
「聖女、オリハルコンはどれくらいの量が必要なのです?」
「たくさんは必要ありません。魔法固定化の支えに使うだけですから、わずかな量があればいいのです」
それを聞いて、シルフィはオベロンと小声でささやきき合う。
「聖女よ。森にいたドワーフの話をしたが、彼らが奉納したオリハルコンが少しだけある」
「ここにあるのですか! オリハルコンが?」
「はい。捧げものなので差し上げるわけにはいきませんが、少しのあいだお貸しすることはできますよ」
「ただし、貸し出す期間は千年だぞ。そのあいだに採掘して返すのだ」
「この森で採掘されていたのなら、まだ残っているかもしれません。ドワーフたちに頼んで探してもらいます!
―――妖精王さま、シルフィさん、ありがとうございました!」
マリはシルフィに抱きついた。
「次は予に抱きついてくれるのであろう?」
だらしなくよだれを垂らすオベロンの顔を、マリとシルフィはジト目で見つめるのだった。
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