136話 目指せ、ゴブリン王国!
整列したゴブリンの中の一匹が近寄って来た。そして、ミアに抱かれたゴンに向かい何かしゃべっている。
「キー、キー、キキッ、キーキキキキ」
「キキッ! キキキキ、キッキッ、キキ」
話しを終え、ゴンはマリを見た。
「マリ……かれらはボクのなかま……そして、ボクはかれらのおうじ」
―――しばらく沈黙が流れた―――
「え~~~っ! この子しゃべれるの?」
「そうなの、マリ。最初はしゃべれなかったんだけど、あたいと一緒にいるうちに人間の言葉を覚えたみたいで」
ゴンは、ミアの腕の中でコクリとうなずいたのである。
改めて話を聞き、マリも事情が呑み込めた。
子供たちは、狩の途中でオークに襲われているゴブリンの群れを見つけた。そしてオークを倒し、死んだゴンを蘇生したのだ。
助かったのは彼一匹だけだったが、日が経つにつれ散り散りになった仲間がゴンの元へ集まって来た。彼は族長の息子で、群れを率いていく立場にあるらしい。
「ゴンに仲間と一緒に森へ帰るよう言ったんだけど、泣いて嫌がるんです。ミアになついてしまって別れたくないんでしょう。ミアも手放したくないみたいで」
はぁ~、とニールはため息をもらす。
「ゴン一匹ならともかく、三百匹の仲間が一緒だと不味いわね。これじゃ聖都でも受け入れられないわ」
それを聞き、ミアは今にも泣きだしそうだ。
そんな様子を黙って見ていたウェグが、マリの肩を肘でつついた。
「どうしたの、ウェグ。何かいい考えがある?」
「ほら、俺に話しただろう。神秘の森のことだ。ウェアウルフの代わりにゴブリンを使えばいい」
マリは考えてみる。
「確かにあそこなら、ゴブリンが三百匹いても誰の迷惑にならないけど……でも、あの森のモンスターは強いわ。彼らじゃ生きて行けないわよ。ましてや、闇結晶を管理するなんてできっこない」
「マリはゴブリンのことを知らないんだな。あいつらは、ある意味ウェアウルフより強いんだぞ」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。ゴブリンに関してはローラさまが詳しい。帰って相談してみるといいだろう」
「母が? 初めて聞いたわ」
「母娘なのにそんなことも知らなかったのか?」
ウェグは呆れた顔でマリを見る。
「マリーローラ・ミドーは高名な学者で生態学の権威だ。ウェアウルフの調査に来たことがあって、そのとき供をしていたのがガルガンティスだ。その縁で、俺と奴は親しくなった」
彼女は意外な事実に驚いたのだ。
◇*◇*◇
マリは聖都へ戻り母に相談した。ミアとゴンも一緒である。話を聞き終えたローラは、ゴンを抱きかかえニヤリと笑ったのだ。
「それはー、素晴らしいアイデアですよー」
「ですが、お母さま。ゴンと彼の一族が神秘の森に移住できたとして、人間から闇結晶を守れるでしょうか?」
「今の数では無理でしょうねー。でもー、十万匹のゴブリンならどうです?」
「その数のゴブリンならできるかもしれません。しかし、そんな数の群れは見たことも聞いたこともないです」
ゴブリンは数百匹で群れを作る。かなり多くても千匹だ。
「わたしは一万匹の群れを知っていますよー。特殊なケースでしたが、条件さえ揃えば十万匹の群れも不可能じゃないと思います」
「どんな条件です?」
「大きく二つですねー。一つは食料で、大勢の仲間を養えるだけの食べ物を確保できないといけません」
「それは何とかなります。わたしたちが援助すればいいでしょう。
―――それで二つ目の条件は?」
「指導者です。先ほど話した一万匹の群れは、とても賢いゴブリンに率いられていました」
そして、彼女はゴンの顔をじっと見つめた。
「わたしは長いあいだゴブリンを研究してきましたが、人語を話せる個体に出会ったのは初めてです。この子なら偉大な指導者になるでしょう」
その話を聞いてミアがたずねる。
「ローラさま、どうしてゴンは人の言葉をしゃべれるのですか?」
「詳しくわかりませんが、おそらく蘇生魔法の副作用でしょう。幼いころは魔力の影響を強く受けます。蘇生魔法のような強烈な神聖魔法を浴びれば、影響がない方が不思議です」
ローラはすっかり興奮していて、語尾を伸ばすことも忘れていたのだ。
「巨大な群れを率いるのは難しいでしょうが、ゴンにならできると思いますよ」
「ローラさま……ボク、がんばってみます……だから、なかまをおねがいします」
「はい。竜族が全力で支援します!」
彼女はゴンの頭を優しくなで、彼も嬉しそうにうなずいた。
「ゴン、凄い! 十万匹のリーダーなんて。それって、まるで王さまじゃない!」
「そうね、ミア。これは王国だわ。神秘の森のゴブリン王国よ!」
マリとミアは抱き合って喜んだのだ。
こうして、ゴブリン王国建国の方針が打ち立てられた。マリたちは、その実現に向けて動きだしたのである。
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