27話 暴竜復活!(後編)
暴竜の口から閃光が放たれた!!
それはもう火炎ブレスなんて生やさしいものではなく、光を浴びた岩石は溶けるというより瞬時に蒸発している。
威力も信じられないくらい凄まじい!
切り立った崖は崩壊しブレスの跡がどこまでも続いている。火炎ブレスというより核融合フレアといった方がふさわしいだろう。
「あんなブレスの直撃をくらったら体は蒸発してしまう! そうなったら蘇生は不可能だわ!!」
そういえば、先代の聖女が暴竜討伐をしたときに三人の英雄が犠牲になってる。話を聞いたときは気がつかなかったが、聖女がいれば蘇生できるし犠牲など出るはずない。おそらく、三人の英雄はこのブレスで蒸発したのだ。
「ソフィ―――っ!!」
マリは叫び、ソフィを目で探した。
幸い直撃は免れたようで、崩れた土砂の下敷きになっている彼女を見つけることができた。岩がぶつかり、その衝撃で意識が飛んだのだろう。ガルガンティスの時もそうだった。強い衝撃をまともに受ければ聖女の恵みといえど気を失ってしてしまう。気絶はヒールで回復できないのだ。
状況は最悪だ!!
暴竜もソフィを捉えている。二度目のブレスが放たれれば、彼女は永遠にこの世界からいなくなってしまう。だが、マリには打つ手がない。助けるにしろ聖女の恵みを撃つにしろ、今いる高台では距離が遠すぎるのだ。
考えあぐねていたそのとき、暴竜の真後ろでもの凄い爆発音が響いた。暴竜はそちらを向くと辺りを見渡し警戒している。
マリはすぐに状況を理解した。
ハリルが炸裂魔法で暴竜の注意をそらし、その隙にソフィを助けようとしているのだ。しかし、彼は子供で上手く抱きかかえることができない。そんな二人をめがけ、暴竜のブレスが再び襲った!!
「ああっ……!」
彼女は思わず両手で顔をおおってしまう。
振り向きざまのブレスだったため狙いが正確でなく、今度も直撃は免れた。だが、跳ね上げられた岩石に巻きこまれハリルも倒れてしまったのだ。二人は今、暴竜の目の前で気を失っている。
マリはとっさに自分自身に魔法をかけ、神聖魔力の光りを辺りにまき散らした。アンデッドは神聖魔力を嫌う。弱いアンデッドなら逃げ出すが、暴竜であれば必ず襲ってくるはずだ。
思惑は当たり、暴竜は倒れている二人を無視してマリを見据えた。
「よし、ターゲットは取った。あとは二人から暴竜を引き離す!」
マリは後ろを向いて走りだした。案の定、暴竜も彼女のあとを追って来る。誘導するのに成功したのだ。
これくらい離せば大丈夫だろう―――マリは暴竜をソフィやハリルから十分に引き離したと判断すると、さらに走るスピードを上げた。二人の安全は確保した、今度は自分が暴竜から逃げ切る番だ。
かなりの時間走り、もう大丈夫だと感じたマリは立ち止まって後ろを確認した。暴竜の影はなく完全に引き離せたようだ。ただ、逃げおおせた解放感はなく気が重かった。再戦するときまでに、あのブレス対策をしなくてはならない。
「岩を蒸発させ、地形ごと変えてしまうブレスに対策なんか……」
そう考えていると、ふいに上空で音がした。
バサッ、バサッ……そしてマリの周囲が急に暗くなる。慌てて空を見上げれば、そこには翼を広げ急降下してくる暴竜の姿があるのだ!
「暴竜が飛ぶなんて聞いてないんですけど! それに、さっき見たときは羽なんて生えてなかったじゃない」
「ブレスを放つとき隙ができる。そのタイミングで聖女の恵みを撃つしかない!」
だが、いまの暴竜はダメージがゼロ、完全な状態だ。聖女の恵みでも体力をすべて奪えるかどうかわからない。もう運任せの勝負だ。
「さぁ、来い!」
そう叫ぶとマリは身構えた!
―――それから数分が経過する。
暴竜は一向にブレスを放ってこない。それどころか暴れる気配がまるでない。ただただ、じっとマリを見つめるだけなのだ。
「どうした、かかって来ないの!」
マリは暴竜をにらみつける。彼女と目を合わせた暴竜は、小首をかしげるような仕草をした。マリは不自然さを感じ慎重に様子をうかがう。
そして気がついたのだ!
「暴竜が脱色してる??」
最初に高台から見たときの
マリはあることを思い出した。それは、ヴァンパイア化したフェリシア姫殿下のことだ。彼女が兄と再会したときも黒いオーラが減っていたのである。
マリが思案を巡らせていると、暴竜はグゥゥと甘えるように唸った。そして、巨大な顔を彼女にすりつけてくる。そのときマリは
この竜は敵じゃない!
マリは暴竜に向けて、フェリシア姫殿下を治療した魔法を使った。彼女は持てるすべての魔力を魔法に注ぎ込んだのである。
強烈な光の渦が散乱し、暴竜はその中で激しい咆哮を上げだした。
「頑張って!」
マリの目に涙が浮かぶ。苦しむ暴竜を見てどうして涙が出るのかわからない。ただ止めどなくあふれ出る涙を、彼女は抑えることができなかったのだ。
魔法は終り、目の前には横たわる暴竜がいた。だが、それは黒いオーラに包まれたものでなく、光り輝く黄金の姿だ。息はしているものの意識はないようで、静かに寝ている。
そして不思議な現象が起きた!
注意深く見ていたマリだが、突然、空間が入れ替わったような錯覚に襲われた。いや、実際に空間が入れ替わったのだろう。そこには竜でなく、小さな女の子が倒れていたのだ。
三歳くらいだろうか、奇妙なことにちゃんと白いローブをまとっている。その子に近づき抱きかかえてみれば、体重は竜のものではなく子供の重さだ。マリはその子を背負い、ソフィやハリルの方へ向かって歩き出した。
長い時間をかけて二人のところにたどり着いたマリは、ようやく
その様子を見つめていたマリだが、魔力切れで視界がかすむ。あとをサラに託し、彼女は背負った子供を庇うようにうつぶせに倒れたのだ。
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