9話 ミスリー城塞の攻防!(前編)

「この骸骨野郎―――っ!!」


 デリックが巨大な剣を振り回し、渾身こんしんの一撃をスケルトンに叩き込んだ!


 ガチィイイ―――ン!!

 剣と骨の間に火花が走る!


 スケルトンの骨は鉄のように固く通常の剣では役に立たない。しかし、彼の大剣はそんな骨格を粉砕したのだ。その横ではギルバートが火炎弾を放っている。


「ギル! 攻撃魔法はできるだけ使うな。俺たちが脱出するとき、お前の魔力が切れていたらどうしようもない」


「わかっちゃいるがこの数のスケルトンだ。まともに戦えているのは俺とお前しかいない。クソっ! こんなときハリルがいたらありがたいんだが」


「ハリルはガキだってバカにしてただろう」


「ああ。ガキで未熟で足手まといだが、あいつの魔力は神国一だからな!

 ―――それよりどうする。いつまでもここを守りきれないぞ」


「ここが落ちると南門から脱出するルートが絶たれてしまう。一人でも多くの住民が逃げられるよう、できるだけ頑張るしかない」


 デリックたちは、ナルカ村からミスリーに帰還したあと冒険者ギルドで待機していた。そのときスケルトンの襲撃に遭遇したのだ。


 冒険者ギルドは南門のすぐ近くにある。彼らだけなら楽に脱出できたが、そうすれば城塞内に残された住民が惨殺されてしまう。デリックは、意を決してメンバーに門の防衛を命じたのだ。


「すまんな、貧乏クジを引かせちまって」


「構わないさ、こういうのは俺の好みだ!」


「ああ、俺も好きだぜ!」


 ギルバートに続き、メンバー全員がそう言ってくれる。仲間ってのは本当にありがてぇ―――デリックは、尽きかけていた気力があふれ出るのを感じるのだった。




 そんな中、三人の女が南門を目指して走って来る。避難者なのか? デリックがそう考えていると、九体のスケルトンが彼女たちに襲いかかったのだ!


「ルリ! 左後方から四体迫っている」


 金髪をショートカットにした女が、先頭を走る長い黒髪の女に声をかけた。


「姐さん、右後方にも五体いるよ!!」


 今度は黒髪の、少年のような少女が叫んだ。


「わかった。リン、シス、ギリギリまで引きつけて一網打尽にするよ!」


 スケルトンが襲いかかる瞬間、彼女たちは一気に散開して逆に包囲する。そして両手を広げると三人を頂点とした三角形の魔法陣が現れ、その中にスケルトンを封じ込めた。


 神国の神官が最も得意とするトライアングル神聖魔法結界だ。


 光りの柱が立ち昇る結界の中で、ガチガチ、ガタガタ、あごの骨を鳴らしながらスケルトンは暴れ回った。しかし結界を破ることができず、やがて灰になり地面に崩れ落ちたのだ。


 スケルトンを葬り去った三人は、デリックの近くまで来ると大きな袋をガチャリと降ろした。


「あたいは神殿の神官でルリという。残りの二人は同じくリンとシスだ。まずは南門を守ってくれたことに礼を言わせておくれ」


 ルリは肩で息をしながら話しだした。


「袋の中には聖剣が入ってる。これがあればスケルトンと互角に戦えるだろうさ」


 冒険者たちは聖剣を取り出しスケルトンを攻撃し始めた。鉄のように固い骨格に剣が効かなかったのだが、聖剣はそれをバターのように切り裂くのだ。そしてスケルトンは灰になり、音もなく地面に崩れていく。


「これなら南門を守れる。ご苦労だったな」


 デリックが礼を述べると、ルリは険しいまなざしで問い返した。


「それより聞きたいことがあるんだ。姫さまはここを通って脱出したかい?」


「いや、姫巫女さまはここを通ってない。まだ城にいるんじゃないのか。城塞の外に出るなら南門が最短だからな」


「やはり城の中か」


 ルリは、厳しい目でミスリー城を見据えた。


「リン!」


 声をかけられた金髪の女神官が即答する。


「行くしかないんじゃない、ルリ」


「シスは?」


「姐さん、急いだ方がいいよ!」


「おいっ、お前たち本気か!? 城へ向かうなんて無茶苦茶だ。自殺するようなものだぞ」


「冒険者の旦那、あたいたちはこう見えても神殿の最高位神官でね」


「しかも対アンデッドのエキスパートだよ」


「ここは、プロのあたいたちに任せなって」


 しかし……そう言いかけたデリックを残し、三人の最高位神官は城を目指して走り去ったのだ。



 ◇*◇*◇



 マリたちを乗せた馬車がミスリー城塞に近づいたとき、騎士団長のクロイド卿はすぐに異変に気がついた。


 馬車を止め状況を確認すれば、もの凄い数のスケルトンが城塞を攻めている。彼は騎乗したまま馬車に近寄り、中にいる三人に声をかけた。


「聖女さま、緊急事態です! 直ちにここから離れてください」


「何があったのですか?」


「スケルトンの襲撃です!」


 クロイド卿はマリに告げるとソフィを見た。


「お前はもう騎士団の一員ではないが、俺は立派な騎士だと思っている。いいか、聖女さまを必ずお守りするのだぞ!」


「団長は?」


「俺は部下と共に騎士の義務を果たす」


「では、わたしも連れて行ってください!」


「お前がここを離れたら、誰が聖女さまをお守りするのだ?」


 ソフィはマリをしばらく見つめ、決意を固めた目でクロイド卿に振り向いた。


「わかったようだな。それでこそ俺が見込んだ騎士だ。聖女さまは任せる!」


 三人を一瞥いちべつして別れの挨拶を済ませると、クロイド卿は二人の部下と供にミスリー城塞へ向けて馬を走らせたのだ。


 ソフィは馬車から降り、走り去るクロイド卿の背中を見送る。城塞を襲っているスケルトンの群れに飛びこめば無事では済まないだろう。




「ソフィ!」


 彼女はその声で我に返った。気がつくと後ろにマリが立っていて、その横にはハリルもいる。


「団長さんを手伝いに行きたい?」


「行きたいけど」


「なら、行きましょう!」


「無茶いわないで! あの数のスケルトンと戦うなんて無謀だわ」


「目の前にいるわたしを誰だと思ってるの」


「誰って……」


「これでもレベル99の神官なのよ。あの程度のスケルトン、かる~く蹴散らして見せる!」


 そう言い放つマリの瞳は揺らぎも陰りもなく、確かな自信が漂っている。


「レベル99って何のことかわからないけど、マリにならできそうな気がするわ」


 笑顔が戻ったソフィを見て、マリも微笑む。


「で、どうすればいい?」


「わたしとハリルくんを守りながら戦える?」


「やってみせるわ!」


「ハリルくん、覚悟はある?」


「僕の家族も城塞の中にいます。頑張りますから連れて行ってください!」


「じゃ、決まりね!」


 マリは、三人にステータス上昇魔法をかけ城塞に向かって走りだした。


「ハリルくん、スケルトンは火に弱い。ガンガン火炎弾を撃って。ただ、魔法で威力が強化されてるから試し打ちをして加減を覚えなさい」


「はい!」


 ハリルは、目についたスケルトンに向かい火炎弾を放った。魔力を貯めない弱い攻撃だったが、それは三体のスケルトンを焼き滅ぼしたのだ。


「す、凄い! でも、威力がありすぎて街中じゃ使い難いかも」


「大丈夫、人を巻き込んでも後でわたしが何とかする。いいって言うまでガンガン撃って!」


 ハリルは火炎弾を次々と放ち、スケルトンを焼却していく。


「でも数が多すぎる。これじゃキリがない」


「任せてソフィ、考えがあるわ。城塞の中央、ミスリー城まで突っ走るわよ!」


 三人は、もの凄い速さでスケルトンの大軍の中をかけ抜けて行くのだった。

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