10話 ミスリー城塞の攻防!(後編)
ミスリー城では、クリスティ、サラ、グレンの三人が、バルコニーの入り口にバリケードを築いて防戦していた。最高位神官のヒールにまったく歯が立たないスケルトンだが、数が圧倒的に多い。彼らは押され気味になっていた。
「クリスティさま、そろそろ魔力が……」
「頑張って、救援が来るまで持ちこたえるの!」
そう言いつつもクリスティにはわかっている。この数のスケルトンだ、救援に来る余裕などどこにもないだろう。彼女の魔力も底が見えはじめ、半ばあきらめの気持ちが湧きかかった頃だ。
「姫巫女さまのおっしゃるとおりです! 救援がそこまで来ている」
グレンが叫ぶとほどなくして神官が三名、バルコニーに飛び込んで来た。
「姫巫女さま、救出に参りました!」
それは、デリックへ聖剣を届けたルリだ。
「助かります、ルリさん。それにリンさんとシスさんも」
「姫巫女さまとサラは、いちど下がって魔力を回復してください。スケルトンは、しばらくわたしたちが食い止めますから」
「魔力回復したらここを放棄して城塞外まで撤退します」
うなずくクリスティを確認し、ルリは指示を出した。
「リン、シス、ここの入り口に結界を張るよ!」
「了解、ルリ!」
「あいよ、姐さん!」
三人の女神官たちはトライアングル神聖魔法結界を張り、その一辺で入り口を封鎖した。クリスティ、サラは肩で息をしながらその場に座り、グレンも荒い息をしながら休憩を取る。
「助かったぜ。お前さんたちが来なかったら危なかった」
「ミスリーの英雄さまも、アンデッドが相手じゃ分が悪いかい」
結界を張りながらルリが笑う。
「ぬかせ、聖剣を持ってりゃスケルトンくらいどうとでもなるさ。
―――ところで城塞内はどうなっている?」
「酷いあり様でね、神殿以外はほぼ壊滅してる。生き残ってる連中を騎士や冒険者、神殿の部隊が脱出させてる最中さ」
「そうか。神殿にはアンデッドに対抗できる神官がいたんだな」
「それに聖剣のストックがあったからね。それをあたい達が配って回ってたんだ」
「俺にも一本よこせ……って、持ってないじゃないか!」
「すまない、グレンの旦那。聖剣はさっき配り終えちまった」
うなだれるグレンにシスが声をかける。
「あたいは神聖力付加魔法が使えるよ。聖剣ほどじゃないけど、その剣でもスケルトン相手に戦えるから」
聖剣は神聖魔力を封じこめた特殊な剣で、通常攻撃の効かないアンデッドに対して唯一効果がある武器だ。また神聖力付加魔法は、一時的に通常の剣を聖剣に変えることができる。
「ルリさん、結界はどれくらい張れますか?」
「張るだけなら一日中でも張れるけど、城塞内の人が少なくなればスケルトンがここへ集中して押し寄せるからね。魔力回復は急いでおくれ」
「回復には時間がかかりそうなのか?」
「わたしはともかく、サラは魔力を使い果たしているようで」
そう言いつつ、クリスティはサラを見た。しかしサラは、彼女の声など聞こえないかのように広場をじっと見つめている。
「サ……サラ? どうかしましたか」
「クリスティさま、広場を見てください!!」
サラの叫びを聞きクリスティが慌ててそちらを見ると、そこでは信じられない光景が繰り広げられていた。スケルトンが次々に燃え上がっているのだ。
続いて一人の女騎士が広場に飛び込んで来た。そして、残ったスケルトンをなぎ倒していく。スケルトンが一掃されるとさらに二人の人影が広場へ入って来た。一人は白いローブを着た女、おそらく神官だろう。それと魔術師の少年。
(さっきの火炎弾は、あの子が放ったの?)
クリスティは、そんなことを考えながら三人を眺めていた。
「スケルトンは処理したわ!」
ソフィは広場にいる最後の一体を破壊し、マリに向かって叫んだ。
「こちらも大丈夫です。仮に襲ってきても、マリさまには決して近づけません!」
「ソフィ、ハリルくん、今から『聖女の息吹』を使うわ。数分間、わたしは無防備になるから、そのあいだのガードをお願いね!」
広場の中央に立ったマリは、空へ向かって両手を広げる。すると、体から光の粒子が渦のようにあふれだした。足元には魔法陣が現れ、その面積はどんどん広がっていく。その面積は止まるところを知らず、城塞の外まで広がっていったのだ。
そして次の瞬間、巨大な魔法陣からきらめく光りの柱が立ち昇った!
「どうした!?」
光りに包まれたグレンが叫ぶ!
「この魔法はお前たちなのか?」
「ち、違うよ旦那! こんなに巨大な神聖魔法結界なんて……」
「ルリ姐さん、これって神聖魔法結界なの? 城塞の外にまで広がってるけど」
「間違いない、スケルトンを見てみな!」
全員がスケルトンに目をやると、彼らはピタリと動きを止め、やがて灰になり崩れ落ちたのである。
「凄い! この数のスケルトンを一気に」
リンが、信じられないという顔で辺りを見渡した。すると光の柱に変化が生じたのだ。柱状の光りが粒子に変換され辺り一面に散乱する。それは不思議な光子で、不規則に飛び跳ねながら人の遺体を見つけると優しく包み込む。そして、ゆっくり吸い込まれれていったのだ。
サラはこの光に見覚えがあった。
「クリスティさま!」
「ええ、これは蘇生の光りね。わたしたちが実験をしていたのと同じ。規模はまったく違うけど」
そこまで話してクリスティは気がついた。
「それでは宰相閣下は!」
そして、サラと一緒に走りだしたのだ。
執務室にたどり着き、宰相のかたわらにしゃがみ込んで呼びかける。
「閣下、ヴィネス侯爵閣下!」
う~ん、宰相はうめき声をあげながら上半身を起こした。
「私は……いったい? スケルトンに胸を刺されて死んだと思ったが」
彼は辺りを見渡しクリスティに気がつく。
「そうか、姫巫女さまに手当てをしていただいたのか」
「違います、聖女さまです! 聖女さまがミスリーをお救いくださいました!!」
目に涙を浮かべ、クリスティは笑ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます