11話 マリ、魔力を使い果たす
ここは先ほどのバルコニー前広場。スケルトンを滅ぼした、マリ、ソフィ、ハリルは、互いに顔を見合わせホッと一息ついたところだ。
「マリさま、凄いです!」
ハリルが感動した目でマリを見やると、そこには「えっへん!」と誇らしげに胸を張るレベル99の女神官の姿がある。
「マリ――――――っ!!」
ソフィは、マリに飛びつききつく抱きしめた!
「ちょ、ちょっとソフィ! 恥ずかしい! ハリルくんが見てるって」
そう言いつつ彼を見ると、しっかり目を逸らしてくれている。
(ああ、いい子だな)マリはそう思った……
「そうじゃない! 本当に恥ずかしいから」
「誰が見ててもいいじゃない!」
ひとしきり抱擁が終わると、ソフィは正面からマリの瞳を見つめた。顔の距離は吐息が感じられるほど近く、彼女の青い瞳はうるんでいる。
(もしかして、このままキスシーンに突入?)
身構えるマリだったがその瞬間は訪れず、代わりに「ごめん」という消え入りそうな声が耳元でささやかれた。
「マリの気持ちを考えてなかった。もう聖女さまなんて言わない。だから許してくれる?」
「ううん、わたしの方こそ悪かったわ。団長さんを見て思ったんだ、騎士には騎士の態度があるって。それをわかってあげられなかった」
「もういいわよ」
「よくない! ぜんぶわたしのわがままなの。ソフィはこの世界でたった一人の友だちだもん。だから、ソフィが離れていくようで怖かったんだ。ゴメン、嫌な思いをさせて本当にゴメン」
今度はマリの方から抱きつき、そんな彼女の髪をソフィは優しくなでたのだ。
……、……
……ん?
最初に違和感を覚えたのはハリルだった。小さいが、ズン、ズン、という音が近づいて来る。
「何かしら?」
ソフィは音のする方へ向き耳を澄ました。
ズン、ズン……何かの足音のようだ。
「東門の方角です。行ってみましょう!」
ハリルは走りだし、マリとソフィも後を追う。
東門へはすぐに到着した。そして城壁の上から眺めれば、モンスターが一体、ミスリー城塞を目指してまっ直ぐ進んでくる。体高が二十メートルもある巨大モンスターで、このままだと城壁を乗り越え街を破壊するだろう。
「ハリルくん、きょう最後のお仕事よ」
彼は静かにうなずいた。
「ソフィ、ハリルくんが魔力を溜めるあいだ時間稼ぎできそう?」
聞くまでもない、こちらは凶暴な笑みを浮かべてやる気満々だ。
「それじゃ行くわよ、行動開始!」
マリの合図と同時に、ソフィは城壁から飛び降りモンスターへ向かう。そして走りながら抜剣、その勢いを利用して足を切り裂いた。
ブモオォォオオオ――――――ッ!!
モンスターは一瞬よろめいたものの、激しく咆哮を上げソフィを攻撃する。
「足が止まった! ハリルくん詠唱に入って。わたしも君に魔力を送るから」
「マリさま、モンスターが遠すぎます! この距離だと威力が足りません」
「大丈夫よ。わたしの魔力を注ぎ込めば、この距離からでも十分いける!」
ハリルは目を閉じ集中する。
「そう、いい感じ。ハリルくんの魔力がどんどん高まるのがわかる」
マリはハリルの後方に立ち、彼の肩に手を置いて魔力を注ぐ。二人の姿は、あふれ出る余剰魔力のせいで輝いていた。
クリスティとサラ、グレンも城壁の上にやって来た。光輝くマリとハリルを見たあと、巨大モンスターと格闘するソフィを見つめる。彼女は、荒れ狂うモンスターの攻撃を紙一重でかわしている。それはハラハラの連続で、城壁の上から見ていた群衆は何度もため息を漏したほどだ。
そんな戦いの中、マリから連絡が入った。
『ソフィ、この声が聞こえたら全力で離れて。十秒後に炸裂魔法を使うわ』
『OK』
ソフィはトンボを切りモンスターから距離を取ると、後ろにダッシュした。
「……3、2、1、ハリルくん、今っ!!」
ハリルは溜めこんだ魔力を一気に解放する! すると、モンスターの頭上に巨大な魔法陣が出現し、直後、きらめく閃光が走った!! その十秒後に爆発音と衝撃波が城塞に到達。周囲の木々を揺らしたのだ。
ソフィも爆風を受けて倒れるが、すぐに起き上がり口の中の砂を吐き出した。そしてモンスターのいた場所を見れば、もうそこには巨大な姿はなく、二本の足の残骸だけが残っている。
それを見ていた群衆は大歓声をあげた! そして、この地で聞いたことのないような大きなどよめきが湧き起こったのだ!!
「終わりましたね」
ハリルがそう言った直後、彼は肩にズシリと重みを感じた。マリがもたれかかったのだ。その顔に意識はなく、そのまま地面に倒れてしまう。
「マリさま……マリさまっ!」
叫び続けるハリル!
周囲の人が集まりはじめ、クリスティやサラ、グレンもそちらへ向かった。
「道を開けてください。わたしは神官です、道を開けて!」
二人のところへたどり着いたクリスティは、マリを診察するとホッと胸をなでおろしたのだ。
「大丈夫よ、少年魔術師くん。聖女さまは魔力を使い切っただけみたいだから」
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