163話 失われた十万個の不老玉

 マリとペネムは空間の門を使い、天界からルーンランド遺跡に瞬間移動した。


「昨日のホワイトゴーレムは、この門を使っていたのですね」


「そうです」


「空間の門をつなぐ装置ですか……ルーン帝国のものでしょうか?」


「ええ、ニーナマリアさまが用意してくださったと聞いています」


 空間の門発生装置は、天界とニーナマリアの連絡用に使っていた。天界で問題が起きたときは、ホワイトゴーレムが使者としてルーンランドへ行く。ただ、彼女が他界して遺跡が埋められたあとは使ってなかったそうだ。


「もしかして、この遺跡が発見されるようにしたのはペネムさんですか?」


「はい。ゴーレムに命じて開放させました。遺跡が出現すれば竜族の方が調査に来ると考えたのです」


 ラグエルの死が近づいたため、無理をしてもマリたちに合いたかったのだろう。


「ところで聖女さま、ここにいても意味がありません。これからどうされます?」


「ゴブリアード王国に行きます。あそこなら、ペネムさんがセラフィムだとわかっても問題ありませんから」


「助かります。人間との接触は固く禁じられていますので」


 しばらくすると、遺跡の中に別の門が現れた。

 マリがコマリに連絡して開けさせたのだ。


「さぁ、ここから王国へ行きましょう」


 彼女はペネムの手を取り、二人は門の中に消えて行ったのである。



 ◇*◇*◇



 ゴブリアードに到着したマリは、ファム、ハリル、ウェグに深々と頭を下げた。


「みんなごめんね、心配をかけちゃって」


 そして、マリナカリーンとマリーローラに天界ことを報告したのだ。




「なるほど、母はそんな問題を抱えていたのか。娘のわしにまで秘密にするなど、よほど悩んでおったのじゃろう」


「確かに不老術と不老玉は厄介ですねー。人間の欲望に火をつけ社会を混乱させてしまいます。セラフィムを隔離するしか方法がなかったのでしょう」


「天界のことを自分一人の胸に収め、永遠に封印するつもりだったのじゃな」


 マリとペネムの話を聞いて、マリナカリーンとローラはうなだれた。


「お祖母さま、お母さま。曽祖母さまが作られた天界のおかげで、セラフィムたちは心配ありません。問題は地上に残された十万個の不老玉です」


 マリの言葉を聞いてローラが首をかしげる。


「ですがー、それらの不老玉が作られたのは一万年以上も昔のことでしょう。もう効果を失っているのではないですかー」


「いえ、ローラさま。同じ時期に作られた不老玉がありますが、今も効果を持続しています」


「魔法玉はルーン帝国の技術で、寿命は十万年以上だと言われておる。悪条件が重なっても数万年は持つじゃろう」


 ペネムが説明し、マリナカリーンも同じことを言う。


「劣化がなかったとしても、大崩壊の爆発で壊れているのではないですか?」


 今度はマリが疑問を口にした。


「聖女さま、その可能性も低いと思います。破壊されれば欠片が残ります。大崩壊の直後、ホワイトゴーレムに魔の森をくまなく探させましたが、そのような破片は見つからなかったそうです。十万個の不老玉はまとまって保管されている、ラグエルさまはそう考えています」


 それから四人であらゆる状況を検討したが、ペネムが言うように、どこかに保管されている可能性がいちばん高い。


「ここまでわかれば、あとは探すだけですね」


「マリアンヌよ、これまでの話は憶測にすぎぬ。見つけるのは困難じゃろう」


「お祖母さま、わたしたちはホワイトゴーレムを調べている途中でした。それを続けていけば、不老玉の手がかりも見つかるかもしれません」


 マリナカリーンはしばらく考えた。


「そうするしかないな……マリアンヌに任せることになるが、大丈夫か?」


「はい。いくつか心当たりがありますし、吉報を待っていてください」


 こうしてマリは、ホワイトゴーレムと十万個の不老玉について調査を開始したのである。



 ◇*◇*◇



 マリはガルリッツァ連合国に向かった。連合国の首都ガルリアでは、盟主のゼビウス・メイスンとレスリー・エマニュエルが電気技術の開発をしている。二人はルーン帝国の技術に詳しく、何か知っているのではと考えたのだ。


「う~む、聖女さまはルーン帝国について調査しておられるのですか」


「そうです、閣下」


「マリアンヌ、具体的にどのようなことを知りたいんだ?」


「知りたいのはホワイトゴーレムについてなんだけど、直接の情報でなくても構わないわ。他にも知りたいことがあるし、調査のきっかけになればいいのよ」


 マリは二人を真剣な目で見る。


「わかった。私が受け継いだ竜の民の記録をすべて見せよう」


 そして、レスリーから何千ページに及ぶ資料を渡されたのだが、その中に手がかりになりそうな情報はなかったのだ。


「私の持ってる資料は基礎学問が中心で、兵器など具体的な技術については記載がないようだ。

 ―――役に立てなくてすまない」


「仕方ないわ。ルーン帝国の情報と一口に言っても膨大な量だろうし、必要な情報がすぐに手に入るとは考えてなかったから」


 マリはゼビウスとレスリーに礼を言い、ゴブリアードに戻ったのだ。





 ゴブリアード城では、ペネムがマリの帰りを待っていた。


「聖女さま、何か収穫がありましたか?」


「いえ、ペネムさん。役に立ちそうな情報はありませんでした」


 そう言って肩を落とす。


「でも安心してください。もう一つ当てがありますから。魔の森にはルーナニア遺跡があって、あそこはルーン帝国の首都だったそうです」


 ルーナニアは、かつて闇の魔導士会が暗黒樹を植えた古の都市だ。


「う~ん、ルーナニアですか……」


「そうですが、何か問題でも?」


 難しい顔をするペネムに、マリがたずねる。


「わたしも詳しくありませんが、あそこはルーン帝国でも前時代の首都だったはずです。ニーナマリアさまの母君、マリグレイスさまの居城で、高度な文明を誇った後期ルーン帝国の首都ではありません」


「そうだったのですか」


「ルーン帝国の歴史については、竜神さまが詳しく知っていらっしゃるのでは?」


「残念ですが、コマリも知りません」


 マリナカリーンは母の過ちを隠すため、帝国に関する竜体の記憶を封印した。彼女はマリのために封印を解いたが、戻ったのは記憶の一部だけだ。


 これは憶測だが、危険な技術の復活を心配したニーナマリアが、マリナカリーンと同じように竜体の記憶を封印したのだろう。そして、それを解くことなく本人が他界したため、帝国の記憶は永遠に失われてしまったのだ。


「なるほど、そういうことですか。帝国の記憶は竜神さまも持っていらっしゃらないのですね」


「それがわかれば調査する切っかけになると思うのですが」


 二人は一緒に首をひねる。


「そうだ! 記憶といえば天界には図書館があります。そこには当時のセラフィムの手記が残されていますから、読めば何かつかめるかもしれません」


「ペネムさん、ぜひ案内してください!」


 そして、マリとペネムは天界に戻ったのだ。

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聖女に転生したら幼い竜になつかれてしまいました。チートで無双する困った子ですが、可愛いので一緒に暮らしていこうと思います。 お気楽ドードー @okiraku-do-do-

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