100話 闇魔力の制御
暗黒樹の化身になったデボラは、ルーナニア遺跡からザエル城塞に帰還した。
「デボラ。まだ一部だけど地下迷宮にあった暗黒樹の根がなくなっていたわ」
「兵たちに闇結晶を集めさせています」
エルフィナとイライアスが報告する。
「ふふ、これでサタンやベリアルと戦える戦力が揃うわね」
「はい。闇結晶さえあれば高性能魔導杖を何万本でも作れます。合成魔王の数も増やせるでしょう」
イライアスの言葉に、デボラは満足そうにうなずいた。
「それはそうと、捕まえたエマニュエル卿はどうしているかしら?」
「あやつは、傷の治療をして地下牢に閉じ込めております」
「少し話がしたいの。ここへ連れて来てもらえるかしら」
やがて、レスリーが引き立てられ部屋に入って来た。デボラは衛兵を下がらせ、エルフィナやイライアスにも部屋を出るように命じる。全員が部屋を出たのを見届けると、デボラは彼の頬を思いきり引っ叩いた!
「なぜ話さなかった!」
「なぜ? 私に重傷を負わせ話をさせなかったのはお前たちだろう」
「迂闊だった。こんなリスクがあるなんて」
「ふふ、それでどうだった? 暗黒樹と対面した感想は」
「あれは何なの? 体の中に入り込んで、わたし自身を食い尽くそうとした」
「あれが闇魔力の正体さ。自らの意思を持ったエネルギーだ」
「意思を持った?」
「そうだ。魔法を考えてみろ、人の意思が魔法の形態を決定するだろう。闇魔力、これは神聖魔力も同じだが人の精神に反応する。人と交わりその意思を
「暗黒樹の闇魔力はそれほど強烈なのね」
「お前は闇の神官で闇魔力と相性がいい。だから暗黒樹と融合できる成功率は誰よりも高かった。しかし、制御できるかどうかは別問題だ。むしろ相性がよすぎて暴走の危険が高い」
「解決策はあるの?」
「ある。可能な限り暗黒樹にアクセスしなければ大丈夫だ」
「それでは闇結晶を取り出せない」
「時間をかけてゆっくりやるんだ。そうすれば、流れ込んでくる闇魔力も制御できる範囲で収まる。いいか、一度に大量の力を使うんじゃないぞ」
「―――わかったわ」
◇*◇*◇
それからしばらくして、デボラとレスリーは暗黒樹へ向かった。闇魔力の制御を試みるためだ。
「どうだ、浸食される感じはあるか?」
「少しね。でも、このくらいなら耐えることができる。しかし、暗黒樹の根の操作はかなりの闇魔力を消耗するわ」
「当然だろう。植物なんだし普通は根を動かしたりしないからな。変則的な能力を使えば、使う魔力も大きくなる」
やがて気力が尽きたのか、デボラは祭壇に横たわり休憩をとった。
「これだけ体に負担をかけて、暗黒樹の根を撤去できたのはダンジョンの一区画だけよ。ザエル城塞にある根を撤去するだけで十年はかかりそう」
「仕方ないさ。暗黒樹を暴走させるよりマシだ」
「しかし、レスリーって変よね。あなたを殺そうとしたわたしに協力してくれるなんて。左手がなくなったのに恨んでないの?」
「お前が暗黒樹の化身になった以上、協力するしか方法がないからな。それはそうと、手に持ってる竜神の杖を返してくれないか。それがあれば、お前の体調をより完璧に管理できる」
「つけ上がらないで! そこまで信用してないわよ。それより根の操作を続けましょう。今は1グラムでも多くの闇結晶が欲しいの」
こうして二人は闇魔力の制御を少しづつだが、着実に習得していったのだ。
◇*◇*◇
同じ時刻。ザエル城塞では、イライアスがダークヴァンパイアの王、エナトル・ラノワと交渉していた。
「我々に渡せる闇結晶がたったの一キロとはどういうことだ?」
「陛下。今回の魔の森侵攻で闇の魔導士会が入手できた闇結晶が約十キロ。その一割をこうして進呈しています。契約通りですが」
「話が違うではないか! もっと多くの闇結晶が手に入ると聞いていたぞ」
「この城のダンジョンには膨大な量の闇結晶があるのですが、暗黒樹の根を排除するのに手間取っておるのです。もうしばらく待ってくだされば、何十倍、いや何百倍もの闇結晶をお渡しできるでしょう」
「その言葉、偽りではあるまいな」
「真実です。地下迷宮への出入りは自由になっておりますから、ご自身の目で採掘の様子を視察されてはいかがですかな」
エナトルは不満を露わにして部屋を出て行く。
「やれやれ、あの調子では裏切りかねない」
イライアスは、ダークヴァンパイアと手を組んだことを半ば後悔していた。
「変な意地など張らず、エマニュエル卿の忠告に従っておればよかったか。今さら愚痴っても仕方ないことだが」
そしてため息を吐く。
「フォックス、おるか?」
「はっ、閣下。ここに控えています」
気配断ち結界を解いてシルバーが現れた。
「エナトルが反乱を起こした場合、合成魔王で抑えることができるか?」
「今の状態であれば何とか。しかし、ダークヴァンパイアは闇結晶を吸収し能力を飛躍的に増大できると聞いております。彼らが大量の闇結晶を手に入れれば、その限りではないでしょう」
「頭が痛いな」
「どうなさるおつもりで?」
「まだわからん……とにかく、あやつから目を離すでないぞ」
「承知しました、わが主よ」
シルバーは再び気配を消し、エナトルの後を追ったのである。
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