5話 聖女降臨!
「このクソ野郎ぉ―――っ!」
「くたばりやがれ――――――っ!」
盾を構えた戦士たちが叫びながら突撃する!
ガァアン! ガァアン! ガァアアン!
鉄の板が派手な音を立てモンスターの進攻を押し止めた。だが、そいつは容赦なく反撃してくる。防御役の戦士は懸命に耐えるがダメージを受けるのは避けられず、その治療に神官が何度もヒールを唱えた。それも三人がかりだ!
均衡状態を作り上げると、攻撃役の剣士が背後に回り切りつける。モンスターは彼らをにらみつけるが、すると戦士が激しく盾を叩きつけ、再び自分たちに注意を向けさせるのだ。魔術師二人は少し離れた場所にいて、攻撃魔法の準備に入っている
ここナルカ村では、苛烈な戦いが繰り広げられていた!!
今日の朝、マリとソフィが出立するのと入れ違いにミスリーに凶報が届いた。ナルカ村近くの湖に大型モンスター『ミスロザウル』が現れたと。
ミスロザウルは巨大なトカゲのモンスターで全長は六メートルもある。二足歩行で背中から尻尾にかけて大きなトゲがあるのが特徴だ。この討伐難易度Aのモンスターに対して、冒険者ギルドは緊急招集をかけ十人のパーティーを送り出した。
彼らが現場に到着したときミスロザウルは村を襲う寸前だったが、なんとか進攻をくい止め戦闘陣形を築くのに成功したのだ。
「ハリル、準備はできたか!?」
パーティーリーダーのデリックが、巨大な剣を振り回しながら叫んだ。ハリルと呼ばれた魔術師の少年は、全神経を集中し魔導杖に魔力を込めている。
「もう少しです、リーダー!」
今回は緊急招集で魔術師の数が足りていない。ハリルの責任は重大で、握る杖にも力がこもる。
その時だった!
戦士のシモンが弾き飛ばされ、彼を踏み潰そうとミスロザウルが迫って行く。それを見たハリルは、助けようと思わず火炎弾を撃ってしまった。そして、もう一人の魔術師ギルバートもそれに合わせて火炎弾を放つ。
クゥゥオォ――――――ッ!!
咆哮を上げながらモンスターが炎上した。しかしそいつは炎の中で動き続け、方向転換するともの凄い速さで湖の中へ逃げ込んでしまったのだ。
「ちっ、失敗しやがって!」
ギルバートが舌打ちする。
「そう責めるな、ギル。ハリルが火炎弾を撃たなければ、シモンは危なかった」
「シモンを助けるのはハリルの役目じゃねぇだろう!」
防御役に危険が及んだ場合は回復役が助けるのが筋で、ハリルが注意深く戦況を見ていれば、神官がシモンを助けようとしたのに気がついたはずだ。
ふてくされたギルバートは村へ引き返し、メンバー全員がそれに続いた。
「デリックさん、ごめんなさい」
うつむいたハリルをデリックは殴った!
「ハリル! なぜ殴られたかわかるか?」
「魔法を撃つタイミングをしくじりました」
「そうだ。中途半端な攻撃魔法はモンスターを手負いにさせるだけだ。撃つ時は必ず止めを刺せ」
「はい」
口から血を流しながら彼はうなずく。
ハリルは魔術師の才能に恵まれたとはいえ、まだ十歳の子供である。殴るデリックも本当は辛い。しかし、こうするのが彼のためだと信じているのだ。
◇*◇*◇
そんな状況も知らず、マリとソフィは意気揚々とナルカ村へやって来た。
二人が門をくぐり中央広場に着けば、そこには大勢の人が集まっている。そしてソフィは、その中にいるハリルの姿に気がついたのだ。
「ハリル―――っ!」
笑顔で声をかけるが、うなだれる彼は応えようとしない。彼女は村の異様な雰囲気にようやく気がつき、少し離れた場所にいるデリックを見つけたのである。
「そうだったの」
デリックの話を聞き終え、ソフィはハリルをそっと見た。彼はまだ酷く落ち込んでいる。
「俺も厳しすぎた。まだ家庭も持ってないし、どう子供に接していいかわからないんだ」
「立派な冒険者に育てたいっていうデリックの気持ち、ハリルならわかってるわよ。あの子はいい雰囲気を持ってるもの」
「ずいぶん評価が高いんだな」
「あなたもそう思ったから、あの歳でパーティーに入れたのでしょう。大丈夫、討伐が終わったらわたしが元気づけてあげる」
「スマンな」
頭をかきながらデリックは礼をいう。
「それで話のついでなんだが、お前も討伐に参加しないか?」
「わたしはいいけど……マリはどうする?」
「わたしは遠慮するわ。神官の数は足りてるみたいだし、ソフィさえ参加すれば戦力的に十分じゃないかしら」
「わかった――――ねぇ、デリック。わたしだけだけど、それでいい?」
「構わない。いま湖を見張らせてるところだ。現れたらすぐに知らせるから、近くで待機していてくれ」
話が決まると、マリはソフィの袖を引き人目のつかない場所へ連れて行った。
「ソフィ。ステータス上昇魔法の効果は切れてないから大丈夫と思うけど、念のためもう一つ魔法をかけておくわ」
マリは手早く呪文を唱え、美しい光がソフィを包み込んだ。
「これはどんな魔法なの?」
「特別なヒールで、かけておけば戦闘中に受けた傷を自動で回復してくれる」
「へぇ、そんな便利な魔法があるのね」
「これは、わたしのいちばん得意な魔法で名前があるの」
マリは続ける。
「『聖女の恵み』っていうのよ」
それを聞いてソフィの体に衝撃が走った!
聖女の恵み、それは伝説に登場する聖女が使う魔法の名前だ。最初に出会ったときも思った。もしかしてマリは聖女さま?
彼女は頭が混乱し考えがまとまらない。そうしていると、デリックの叫ぶ声が聞こえた。
「ソフィ! ミスロザウルが現れた!!」
「すぐ行くわ!」
彼女は深呼吸をしてマリに向かい合う。
「詳しい話はあとで聞かせて」
そう言い残し討伐へ向かったのだ。
◇*◇*◇
ミスロザウルとの再戦は楽勝だった。おそらくソフィ一人でも大丈夫だったろう。鬼神のような彼女の活躍に他の冒険者は喝采を上げている。止めはハリルとギルバートの火炎弾で決め、デリックは満足そうに少年を見た。ハリルも自分の仕事に誇らしげで、目は嬉し涙でうるんでいる。
しかし戦闘が楽で簡単すぎた。そしてそれが気の緩みを生んだ。
魔法の威力を確かめたかったのだろう。ハリルは、
ハリルの体が宙に舞う!
そして、ドサッと地面に叩きつけられた!!
「ハリル――――――っ!!」
ソフィは再び剣を抜いてモンスターを仕留め直し、彼にかけ寄った。
腹部に重傷を負ったハリルは、その場にしゃがみ込むように倒れたままだ。酷いあり様で激しく出血している。
「神官はヒールを! 三人全員でやって」
彼女は指示を出し、すぐにメッセンジャーでマリに連絡を取る。
『マリ、聞こえる?』
『どうしたの?』
『緊急なの、わたしのいる場所まで来て!』
連絡を終え、ソフィはハリルの容態を見た。まだ息はあるものの、ぐったりと横たわったままピクリとも動かない。
「マリが来れば助かる。それまで頑張って!」
マリが現場に到着すると、そこには多くの村人が集まっていた。見渡せば全員がうなだれ目元をぬぐっている。そしてその中からソフィが現れ、悔しさを押し殺しながら伝えたのだ。
「マリ……間に合わなかった!」
ソフィは膝から崩れ落ちた。大きく目を見開き大粒の涙が止めどなく流れる。それを拭くこともなく、何度も拳を地面に叩きつけた。
最初は何が起きたのか飲み込めないマリだったが、泣き崩れるソフィとハリルの遺体を見てようやく状況を理解したのだ。
「ソフィ、まだ大丈夫だから」
「大丈夫って?……もう息がないのよ」
「いいからここで見ていて」
そう言うと、マリはハリルの横まで歩いて行き両ひざをついた。そして、清んだ声で祈りはじめたのだ。すると光の粒子が体からあふれ出て、それはハリルを包み込んでいく。光の中で祈る彼女の姿は
祈りが終わり、マリは優しく声をかけた。
「ハリルくん、目を覚ましなさい」
「う~~ん」
寝ぼけまなこをこすりながら彼が起き上がったとき、すべての人が理解した!
蘇生魔法!!
そんな魔法を使える者は歴史上たった一人しかいない。冒険者と村人全員がマリに向かい片膝をついた。
「えっ、なに? みんなどうしたの?」
マリは驚きながら、助けを求めるようにソフィに視線を送った。彼女はマリのそばまで来ると、みなと同じように片膝をつき
「聖女さま。ご降臨されましたこと、お慶び申しあげます」
「えっ? ええ――――――っ!!!!」
マリの
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