4話 わたしを狩りに連れてって
ミスリーから街道を西へ向かうと大きな湖と森がある。近くには集落がありナルカ村という。今回の狩りはその村が依頼したものだ。
マリとソフィは、まだ暗い内にミスリーを出発し9時ころ目的地へ着いた。そこは湖から少し離れた森で、周辺のモンスターを一掃するのが今回の任務である。
転生して初めての狩りに、マリはこれ以上ないというくらいご機嫌だ。
「嬉しそうね、まるでピクニックだわ」
「わたしがアルデシアを制覇する記念すべき第一歩よ! これを喜ばずに何を喜ぶっていうの」
「はい、はい。マリの野望だものね」
「そう! それにここは、わたしの大好きな狩場だもの」
「来たことあるの?」
「あるような……ないような……」
「なに、それ?」
「まぁ、いいじゃない」
マリは笑ってごまかした。ソフィにはいずれすべてを話すつもりだが、今から始めると長くなってしまう。
狩りに備え二人は装備を点検する。ソフィはロングソードにチェーンメイル。マリは白いローブだけで、あまりに粗末な装備にため息が出た。
(ここから成り上がるのが楽しいのよ!)
そう自分に言い聞かせ、落ちこみそうになる気持ちに活を入れる。
点検が終わるといよいよ狩りの始まりだ!
「ソフィ、行くよ―――っ!」
マリは、両手を広げて優雅に舞いながら魔法を詠唱した。
防御力・攻撃力・移動力……ステータスを上げる魔法が二人にかけられていく。一つの魔法が発動すると魔法陣から光りの柱が立ち昇り、また、別の魔法では辺り一面に光の粒子が散乱した。
「マリ! 何これ? ヒールも派手だったけど、これらの魔法はもっと派手ね」
「派手なのは見た目だけじゃないわ。狩りを始めるともっと驚くから。でも、その前に説明しておくことがあるの」
マリは静かに目を閉じる。
『どう? わたしの声が聞こえる』
頭の中に声が響き、ソフィは身構えた。
『そんなに慌てないで。わたしを意識しながら頭の中で話しかけてみて』
『驚かさないでよ』
『ごめん、ごめん』
『でも凄いわね。心の中で会話ができるなんて信じられない』
『これはメッセンジャーという魔法なの。少人数でしか使えないけど、メンバー同士で会話できるのよ』
マリは目を開け今度は声で話した。
「説明は終わり。狩りを始めましょうか」
二人は獲物を求めて走りだした。そしてその直後、ソフィの表情が一変した!
「これは凄いっ!!」
「ビックリした?」
マリは嬉しそうに彼女を見る。
「驚いたってものじゃないわよ! 信じられない速さね。時速百キロは出てるんじゃない」
「ステータス上昇魔法っていうの。速さだけじゃなく、あらゆる能力が大きく向上するわ」
そんな話をしていると二人は標的を発見した。ミスリーベアと呼ばれる巨大な熊のモンスターだ。通常なら冒険者が三~四人で仕留める獲物である。
ソフィは風下から近づき、間合いを詰めるため一気にスピードを上げた。そして疾走しながら抜剣、ミスリーベアの胴を切り裂き文字通り両断したのだ。
「確かに筋力もかなり上がってる。考えて振らないと剣が折れてしまうわね」
「でしょう! レベル99の魔法だからね」
「なに? レベル99って」
「えっと……それはこっちの話だから気にしないで。それより狩りを続けましょう。いっぱい稼がなきゃ」
「そうね。わたしも騎士を辞めたし、生活するのにお金が必要だわ」
二人は笑い合い狩りを再開したのだ。
それから二時間経った。大量の獲物を仕留め認証部位を集めると袋に詰める。認証部位とは、狩ったことを証明するモンスターの体の一部だ。
「まだお昼前なのに袋が一杯ね。これ以上狩りをしても持って帰れないわよ」
「少し早いけど、今日はこれで終わろうか」
二人は、近くの小川で水浴びをして狩りでついた血を洗い流した。マリは体を拭きながら辺りの景色を見渡す。秋風がそよぎ、色づき始めた木々がサワサワと揺らいでいる。そして空はどこまでも高く青い。
「ミスリーって本当に美しいところね」
ゲームの中のミスリーも美しかったが、現実の風景が呼び起こす感動は仮想世界の比ではない。
「この小川の下流にあるのよ。ナルカ村は」
「行ったことあるの?」
「あるような……ないような……」
「またそれ?」
マリは再び笑ってごまかす。ゲームでは何度も行ったナルカ村だが、この世界では訪れたことがない。しかし、目を閉じると村の風景を鮮明に描くことができた。
「冒険者ギルドの仕事だから村へ行く必要はないけど―――行きたい?」
そうたずねたソフィに、マリは大きくうなずいたのだ。
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