18話 ガリエル討伐!

 マリたちが走りだした直後、グレンの表情が大きく変わった!


(何だ、これは? 人間が出せるスピードじゃないだろう!)


 彼が、ルリ、リン、シスを見ると、彼女たちも驚きの表情を隠せない。


 それから数分ほど走り、マリたちは目的地である商人の館に到着した。


「これから突入する。もう言わなくてもわかってると思うが、ステータス上昇魔法の効果は凄まじい。滅却は止めて捕獲に切り替えるからな」


「わかったよ、旦那。これならいける」


 グレンが手を振り下ろす。


「突入だ!」


 四人は館内になだれ込んだ!

 敵も襲撃に気がついたのか、多くのアンデッドが目の前に現れたのだ。


「出て来たね!」


 ルリは、大型の数匹めがけてヒールを放った。それは一匹に当たり滅却したが、驚いたことに神聖魔力の余波で周りにいたアンデッドまで崩壊したのだ。


「リン、シス、身体能力だけじゃない! 魔力も桁違いに上がってる。いちど魔法を使ってその感覚をつかむんだよ」


「了解、ルリ」


「あいよ、姐さん」


 グレンたちは館の中を走り回った。強力なアンデッドが集結しており、一匹でも逃すと後々面倒になる。すべての部屋の扉をこじ開けながら、しらみ潰しに仕留めて行ったのである。




 最後に館の主の部屋へ踏み込むと、そこにはいた。凄まじい威圧感のダークヴァンパイアが!


「ようこそ、お客人」


「お前が主人か。待っていてくれて感謝するぜ。ドタバタと騒がせちまったから、逃げるんじゃないかと心配してたんだ」


「逃げる? 私が? 勘違いもここまでくれば笑えますよ。まさか、私が部下と同程度と思ってるのではないでしょうね」


 ダークヴァンパイアは微笑みはじめ、やがてそれは高笑いに変わっていった。それと同時に部屋中に禍々まがまがしいオーラがあふれていく。


(聖女さまの助力があって命拾いしたな。ステータス上昇魔法なしでこいつと戦っていたら、間違いなく全滅してただろう)


「さあ、人間とダークヴァンパイアの違いを教えてあげます。かかって来なさい」


「お言葉に甘え、そうさせてもらうぜ!」


 グレンは切りかかった! 

 それは信じられないスピードだ!!


 だが、その速さを持ってしても攻め切れない。攻撃が当たりダメージを与えても瞬時に回復されてしまう。グレンは剣速を上げ、ダークヴァンパイアの回復速度が受けるダメージに追いつかなくなった。


「バカな! あなたたちは人間でしょう!?」


 切り裂かれた部分が灰になりつつも、そいつは余裕の表情を崩さない。


「やりますね。しかし、その程度の聖剣で私を倒すのは不可能ですよ。聖剣エスタラルドとまでは言いませんが、もっといい武器を使いなさい」


「ご忠告ありがとうよ! だが、俺の役目はあくまで時間稼ぎでね。

 ―――ルリ! 準備はできたか?」


「あいよ、魔力は十分に貯まっている」


「よしっ、行けっ!!」


 ルリ、リン、シスはダークヴァンパイアを瞬時に取り囲み、トライアングル神聖魔法結界を展開した。三角形の結界の中でそいつはガクリと膝をつき、そのまま身動きできなくなったのだ。


「剣士だけでなく、神官の魔力も並みの人間ではありませんね。どうしてここまでの力が?」


 結界で苦しむダークヴァンパイアを見つめ、グレンが指示を出す。


「お前たち、殺すなよ!」


「加減してある。こいつはかごの鳥さ」


 彼はゆっくりとダークヴァンパイアに近づき、その首に刃を当てた。


「さぁ、色々と話を聞かせてもらおうか」


「クク……話すはずないでしょう」




「話さなくても結構ですよ、ガリエル。お前がここにいることで、誰が黒幕かわかりました」


 そう言いながら部屋へ入って来たのはマリだ。


「あなたでしたか、聖女」


「わたしのことを知っているのですね」


「当然でしょう、忘れるわけありません! あなたも、忌々いまいましい騎士のことも、思い出しただけで殺意が湧いてきますよ!

 ―――しかし変ですね。あなたの神聖魔力は覚えていますが、これほど強大ではない。少なくとも、人間にこれほどの力を与える魔力など持っていなかったはず」


 二人の会話を聞き、グレンが疑問を口にする。


「聖女さま、こいつを知っているのですか?」


「ええ、これは魔王ブーエルの副官の一人でガリエルといいます。大物がいそうなので自ら出向きましたが、こんな幹部がいたとは驚きでした」


 魔王ブーエルはゲームに登場するイベントボスで、三人の副官を従えている。ガリエルはその一人で、副官とはいえ並みの魔力ではない。


「どうしますか? こいつは神聖魔法結界を張った牢くらいじゃ閉じ込められそうもない」


「そうですね、おそらく無理でしょう。滅却するしかありません」


 マリはガリエルに向き直る。


「ガリエル、あなたの処刑が決まりました。ですが慈悲を差しあげましょう。質問に答えれば苦しまず楽に死なせてあげます」


 そう言い放つマリの瞳は恐ろしく冷たく、たまたまその視線に気がついたルリは全身に震えが走ったほどだ。


 しばらく沈黙が支配したが、やがてガリエルが口を開いた。


「何を知りたいのです?」


「ブーエルの目的です」


「暴竜の捕獲」


「ありがとう、ガリエル」


 マリは、ガリエルに近づき額に人差し指を当てた。その瞬間、彼の体は音もなく灰になったのである。


「グレンさん」


「どうかしましたか、聖女さま?」


「後はお任せしていいでしょうか。眠っていたところを起こされ、今にも倒れそうなのです」


 マリは大きな欠伸あくびをしてしまう。


「これは気がつかなくてすみません。もうお帰りになられて結構です」


「ありがとうございます。では、ルリさん、リンさん、シスさん、ごきげんよう」


 そう言い残すと、マリは本当に部屋を出て行ったのだ。




「とぼけたお方だが、魔法の威力は絶大だな」


 グレンは聖剣を鞘に収め、それを見ていたルリがつぶやいた。


「絶大なんてもんじゃないよ。あたいは怖くなっちまった。聖女さまにも、この魔法にもね」


「確かにステータス上昇魔法は危険すぎるしろものだ。ルリ、リン、シス、この魔法のことは秘密にする。絶対に漏らすなよ」


 彼の厳しい目を見て、三人はそれぞれに首を縦に振ったのだ。


「さて、ダークヴァンパイアも片付いたし、俺たちも引き上げるとするか」


「旦那、後始末はいいの?」


「俺も疲れたし眠い。館の調査は、冒険者ギルドの専門家がもう始めている」


 耳を澄ませば階下で家探しする音が聞こえる。


「行くぞ、お前たち」


 そして、グレンたちは夜の闇の中へ消えて行ったのである。

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