139話 ダンジョンに迫る危機!

 マリは方針を転換し、ゴブリンたちにダンジョンを管理させるのをあきらめた。闇結晶の流出を防ぐためとはいえ、関係ない彼らを巻き込むわけにはいかないと思い直したのだ。


 そして、新たな対策のため行動を開始する。



 ◇*◇*◇



「絶対に嫌だ!」


 マリの話を聞き、怒っているのはオベロンだ。


「妖精王さま、お願い! ちょっとだけ胸を触らせてあげますから」


「その手に乗るか! どうせあれこれ言いわけして触らせる気などないのだろう」


(まぁ、それはそうだけど)


「だいたい、どうして予がゴブリンのために働かなければならんのだ!」


「ゴブリンのためではありません。大量の闇結晶が人間の手に渡ればアルデシア全土に悪影響が出てしまいます」


「それなら最初の計画通り、ゴブリンにダンジョンを守らせればよかろう。結局、あやつらを助けるためではないか!」


「森にちょこっと結界を張ってくれるだけでいいのです。妖精王さまの結界であれば破れる人間などいないでしょう」


 マリの狙いはダンジョンの周辺にオベロンの結界を張り巡らせ、人の往来を妨げる作戦だ。そのため懸命に頼んでいる。


「聖女、オベロンさまの結界でも神秘の森では効果が薄いのです。ほら、あそこは闇魔力が濃いですから。

 ―――それに言い難いのですが、オベロンさまはゴブリンが大嫌いなの」


 シルフィが説明する。


「そのとおりだ! オベルの森にもあいつらが住み着いていて、駆除するのに手を焼いている」


 その言葉を聞きマリはうなだれた。そして仕方なく退散したのだ。



 ◇*◇*◇



「そうですかー、妖精王さまは協力してくださらないと」


「残念です。いい計画だと思ったのですが」


 ゴブリアード王国に戻ったマリは、改めてローラと話し合った。


「ドワーフたちはどうでしたー? 彼らは地下で暮らしています。ダンジョンを守る術にはけているでしょう。お金に目がない種族ですから、謝礼をはずめば協力してくれると思いますがー」


「彼らも神聖種族の一員ですからね。闇魔力の濃さを理由に断られました」


「闇魔力が難点ですねー。そのため神族の方にも頼めません」


「闇魔力のせいで断られているなら、魔族に応援を頼めばいいだろう」


 二人の話を聞き口を開いたのはウェグだ。


「それができないのよ。元をたどればアマルモンたちの引っ越しが原因でしょう。他の魔族を頼れば、彼らの面子めんつが潰れてしまう」


「なるほど、確かにそうなるな。

 ―――それじゃ、こういうのはどうだ? 闇結晶ごとダンジョンを潰すんだ」


「それも無理。あれは複雑怪奇に広がっていて、すべて破壊するのはコマリでもできない」


「そうだ、暗黒樹を使えばいい!」


 以前、暗黒樹の根が魔の森のダンジョンを封鎖したことがある。それと同じことを神秘の森のダンジョンでやろうという考えだ。


「いい手だけど今回は使えないわ。暗黒樹の根がダンジョンを封鎖するまで三百年かかるから」


 ウェグは次々とアイデアを出していくが、そのすべてが否定される。


「あああ~っ、完全に詰んでいるじゃないか!」


 最後は頭を掻きむしりだした。


「ウェグ、そんなに深刻にならなくてもいいですよー。アマルモンたちがいなくなったとはいえ、ダンジョンの魔物は強いです。すぐに最下層まで制圧されることはありません」


「そうですね、お母さま。今の冒険者の実力であれば、あと数十年は攻略できないでしょう。それまでに別の対策を考えばいいのです」


 そう言ったマリだが、彼女の気休めはすぐに吹き飛んでしまうことになるのだ。



 ◇*◇*◇



 それから数日して、意外な人物がゴブリアード王国を訪ねて来た。神族でピーの父親のヨルムンガンドだ。彼の横には合成魔王のリリンもいる。


「まぁ、ヨームさまにリリンさん。わたしがここにいるってよくわかりましたね」


「ずいぶん探しました。オベロンに聞いたら、マリが神秘の森でゴブリンの手助けをしていると。それで、リリンと一緒にこの近辺を空から捜索したのです」


 マリは二人を応接室に連れていく。そして、これまでの経緯を説明したのだ。


「そうでしたか……手助けできればいいのでが、神族の私では力になれそうもありません」


「それは承知しています。お気になさらないでください―――それでヨームさま。今日は、どのようなご用件でいらしたのです?」


 ヨルムンガンドは言いづらそうに話しだした。


「マリには悪い知らせです。じつは、闇の魔導士会の動きが活発化しています」


「闇の魔導士会が?」


「主がつかんだ情報によれば、スローン帝国の南部で活動しているとか」


 彼の主というのは、連合国盟主ゼビウス・メイスンである。闇の魔導士会の元メンバーで、その筋の情報なら確かだろう。


「何をしているのか具体的にわかります?」


「詳しくはわかりませんが、神秘の森の闇結晶を欲しがっているのは間違いないでしょう。彼らには五人の合成魔王がついています。用心してください」


 合成魔王というのは、竜の力を使い人間と魔族を一つに融合させた魔王だ。二人分の魂を持つ彼らは、一人の時に比べて何倍もの魔力を持っている。


「彼らを使ってダンジョンを攻略するつもりでしょうか?」


「いえ、その可能性は少ないでしょう。彼らはダンジョンが竜神さまの領域であると知っています。ですから、今まで手を出しませんでした」


「そうですね。闇結晶をかすめ取られたことはありますが、本格的に攻められたことはありません」


「主の話では、もっと別の狡猾な手段を使うのではないかと」




 マリは、ヨルムンガンドの話を聞いて途方に暮れてしまった。冒険者だけでも厄介なのに、闇の魔導士会に介入されたらたまったものではない。


(はぁ~、こんなに深刻なのは初めてね。もう打つ手がない)


 マリは、今まででいちばん深く大きなため息をついたのである。

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