138話 マリ、ゴブリンの幸せを願う

 2月1日。ゴブリン王国が建国されゴブリアードと命名された。ゴブリンたちはその日を祝い、盛大なパーティーを催したのだ。


 玉座に座るのはゴン・ラ・ゴブリアード。一歳になったばかりの新王だが、その知力と指導力はすべてのゴブリンが認めている。彼の左に座っているはコマリ。彼女が王国の後見人だ。また、右に座るのはトカゲのピー。彼はゴブリン語を流ちょうに操り、その卓越した戦闘力から新王ゴンの絶大な信頼を得ている。


 この仲良し三人組がゴブリアード王国の未来を担うのである。




 祝宴がはじまると、マリはゴンの前に進み出て片膝をついた。そしてうやうやしく挨拶する。


「陛下。ゴブリアード王国の建国、誠におめでとうございます。竜族を代表し、マリアンヌ・ミドーがお祝いを述べさせていただきます」


「マリ……りゅうぞくのかたにはかんしゃのことばがありません……これでごぶりんたちはあんしんしてくらしていけるでしょう。だんじょんにあるやみけっしょうのかんりは……ボクたちにおまかせください」


 このあとも建国の式典が延々と続いていく。


「ねぇ、マリ! 挨拶が長いとせっかくの料理が冷めちゃうじゃない!!」


 ミアの我慢が限界を超えてしまったようだ。


「そうね、堅苦しいのはこれでお終いにしましょうか」


 マリの言葉を聞いてゴブリン全員が笑顔になった。料理を早く食べたかったのは、ミア一人だけではなかったのだ。


「ゴブリアード王国を祝福して、カンパーイ!」


 乾杯! 乾杯! (ゴブリンたちはキキ、キキと言ってるだけだが)

 次々とグラスが掲げられ、全員で葡萄ジュースを飲み干したのである。



 ◇*◇*◇



 宴会は夜まで盛り上がり、ようやく閉会した。


 ゴン、コマリ、ピーは疲れたのか、藁のベッドの上で寝息を立てている。その横では、ミアとサラが寄り添うように寝ていた。そんな様子を、マリとローラは微笑みながら眺めている。


「お母さま、上手くいきましたね。ゴブリアード王国の建国」


「コマリをはじめ、みんなが想像以上に働いてくれましたからねー。でもー、いちばん驚いたのはやっぱりゴンです」


「わたしもそう思います。まだ生まれて間がないのに、すべてのゴブリンが彼を王だと認めています」


「不思議ですねー。わたしたち竜族が支援しているのもあるでしょうが、ゴブリン自身が強い指導者を待ち望んでいたのでしょう」

 

 最初からいたゴンの部族はともかく、あとから加わった数万匹のゴブリンまでが彼に向かってひざまずく。そうすることが種族のためだと理解しているのだ。


「お母さま、ゴブリアード王国はこのまま順調に行くでしょうか?」


「今はまだ五万匹しかいませんからねー。人間と戦えばすぐに滅ぼされてしまうでしょう。十万、いえ、五十万匹まで増やしたいです」


「あの……お母さま」


「何ですかー? マリアンヌ」


 マリはうつむき話しだした。


「王国のゴブリンたちを見ているうちに、人間と戦わせたくないと思うようになりました。闇結晶を守るのは竜族の責務です。彼らを巻き込むのは筋違いではないでしょうか?」


「そうですねー。アマルモンのときはお互いに利益がありましたー。彼らは闇結晶がないと生きていけませんから」


「ゴブリンの場合はどうでしょう? 彼らは闇結晶とは何の関りもありません」


 マリの言葉を聞き、ローラも表情を曇らせる。


「でもー、闇結晶はどうしますかー?」


「それは、わたしが何とかします!」


 マリは寝ているゴンを見た。彼の寝顔はとてもやすらかだ。


(こんなに幸せそうにしているもの。あなたたちは自分の幸福だけを考えなさい。闇結晶の方は別の手立てを考えるから)


 ゴブリアード建国の初日は、こうして更けていったのである。

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