25話 魔王ブーエルの陰謀!
人間に戻ったフェリシア姫殿下は、貴賓室に運ばれクリスと数人の神官が看護に当たった。アルベルト殿下も彼女につきっ切りで、その甲斐があってか翌朝には目を覚まし体調も良好だ。
そしてその日の午後、宰相の執務室で再び会議が開かれた。
「まずは、聖女さまと神国に礼を述べさせてください。妹のヴァンパイア化を治療していただき、感謝の言葉がありません」
殿下は丁寧に頭をさげた。その態度は大国の王子に
「では、殿下。色々とお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですかな」
「はい。私の知る範囲ですが、嘘偽りなくお話しましょう」
宰相とアルベルト殿下の質疑応答がはじまり重大な事実がわかった。まず、ルーンシア王宮は魔王ブーエルに支配されている。
「ブーエルは、王族や重臣の一部をヴァンパイア化して王国を影から操っています。私のような人間も残っていますが、人質を取られていて抵抗できません。ただ、その事実を知る者は城内でもごくわずかです」
また、スケルトン襲撃の詳細も判明した。
「多くのヴァンパイアが神国へ潜入し、ミスリー城塞の内外にスケルトンを埋伏していました。襲撃の目的は、神国を壊滅させ暴竜を探しだすためです」
「暴竜は神国内に封印されていると?」
「ブーエルはそう考えていました。それを調査するのも、私が派遣された理由の一つです」
それからしばらく殿下の証言が続き、聞き終えた宰相は深くうなずいた。
「だいたいの事情はわかりました。最後に、殿下自身はこれからどうされるおつもりですかな?」
「神国訪問の使節団は本国へ返し、私と妹はこの国に亡命したいと考えています」
「亡命は必ず受け入れましょう。それまでは国賓として滞在されてください」
「感謝します、宰相閣下」
◇*◇*◇
11月に入り、マリは暴竜討伐の準備を加速させた。必要な装備をリストアップして、それらをグレンに集めてもらっている。
「耐火性能の高い
討伐成功の鍵を握っているのが、火炎ブレスに耐えられる防具だ。最初は鋼鉄の盾で防ぐことも考えたが、重い装備ではソフィの運動能力を生かすことができない。
「回避防御とサラマンダーマントでダメージを減らすのが最善ね」
これで防御は何とかなる。問題は攻撃で、暴竜には攻撃魔法が効かないのだ。
「炸裂魔法の衝撃波で石を叩きつければ、間接攻撃だけどかなりのダメージを与えられるわ。体力を半分まで削れば、あとは聖女の恵みで決着をつける」
聖女の恵みは特殊なヒールで、人間に使えば受けたダメージを自動で回復してくれるし、相手がアンデッドであれば滅びるまでヒールをかけ続けるのだ。ヒールは神聖魔力そのもので通常の魔法とは違う。暴竜に無効化される心配はない。
アンデッドに対して無類の強さを誇る聖女の恵みだが、それでも相手の魔力が大きいと倒しきれない。そのため、使う前にできるだけ弱らせておきたいのだ。
そういう理由もあり、ハリル用に高性能の魔導杖を用意した。今までの杖に比べ数倍の威力がある特注品だ。また、ソフィが使う聖剣も新しく作らせた。ステータス上昇魔法と組み合わせれば、暴竜にかなりのダメージを与えられるだろう。
こうして、準備は着々と進んでいったのだ。
◇*◇*◇
討伐予定日が近づいたある日、マリとサラはバルコニー前の広場を歩いていた。
「そういえば、お姉さまを初めてお見かけしたのがここでした。わたしたちは、二階のバルコニーでスケルトンと戦っていたのです。苦戦していたら、お姉さまが広場にかけ込んで来られました」
サラが感慨深げに話す。
「ずいぶん昔のように感じますが、あれから二か月半しか経っていないのですね。お姉さまとは、もう何年も前から一緒にいる気がします」
「そうね。わたしもサラとずっと一緒にいるような気がするわ」
「あのとき、お姉さまがスケルトンからわたしたちを救ってくださいました。そして今回……」
彼女が何を言いたいのかマリにはわかった。昨夜、暴竜討伐のことを話して聞かせたのだ。
「サラ、確かに暴竜はスケルトンとは比較にならない強敵です。でも安心して。聖女に勝てるアンデッドなどこの世界にいません」
「本当ですか?」
「サラに嘘を言うわけないでしょう」
それでもサラは不安だったのだろう、しがみついて涙を流しだしたのだ。そんな彼女を抱きしめることしか、マリにはできなかったのである。
◇*◇*◇
そして、運命の日はやって来た!
11月30日の早朝。予想とおりであれば、明日、暴竜が復活する。
討伐関係者が広場に集まった。準備は万全だ。前衛に、マリ、ソフィ、ハリルの三人。支援として、サラと五人の騎士が同行する。
サラマンダーマントも間に合った。この装備なら、火炎ブレスに数発は耐えられるはずだ。
短期決戦なので食料は三日分しか持たない。数日様子を見て、暴竜が現れなければ計画は見直しになる。おそらく、そんなことにはならないだろうが。
また、魔王ブーエルに邪魔されたくないので討伐は極秘に行うことになった。部隊全員に気配断ち結界をかけ、誰にも気づかれないようミスリーを出発する。
マリたちが聖女神殿へ向けて走りだすと、行く手には雪におおわれた
なぜマリがこの世界に転生して来たのか、あの山のふもとで暴竜と対決すればきっと何かわかるはずだ。マリはそんな気がしていたのである。
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