160話 マリ、誘拐される!
ホワイトゴーレムの活躍で、マリは戦争を回避することができた。
いつものマリならこの結果に満足してのんびり休暇を取るのだが、今回ばかりはそうもいかない。ホワイトゴーレムの性能はケタ違いで、このまま放っておくわけにはいかないのだ。アルデシアに残っている機体がどれだけあるか、調査することになったのである。
マリとマリナカリーンは、ルーン山脈で発見された遺跡を調べることにした。ファムにハリル、ウェグも同行する。
「前にも話したが、ニーナマリアはルーン帝国大崩壊のあと本拠地をルーンランドに移した。当時のスローンは未開の地で、母はホワイトゴーレムを使いこの地に新たな王国を築いたのじゃ」
マリナカリーンの瞳は遠い過去を見つめる。
「だが、発達しすぎた文明が滅びたばかりじゃ。母は同じ過ちを繰り返したくなかったのか、小さな国を作っただけでルーン帝国を再興しようとはしなかった」
ニーナマリアは、王国が安定するとゴーレムを封印してしまった。高度な文明に対する警戒心があったのかもしれない。
「母の遺言に従い、わしがこの遺跡を埋めたのを覚えておる」
そう言いながら遺跡内を歩いて回る。母を思い出しているのか、彼女の表情はうれいを帯びていた。そんな彼女のあとをマリはついて行く。
「お祖母さまが埋めたこの遺跡が、何らかの理由で再び姿を現したのですね」
「そうなのじゃが、ちとおかしい」
「気になることでも?」
「地震も起きてないのに、こんなに都合よく遺跡が現れるじゃろうか?」
そのことはマリも考えていた。仮に地震があったとしても、遺跡の場所だけ山崩れが起きたというのも妙だ。
「もしかして、誰かが掘り出したとか?」
マリが疑問を口にした瞬間だった。
ウェグの怒鳴り声が遺跡内に響いたのだ!
「マリっ、用心しろ! 変な匂いがする。お前の方に向かったぞ!!」
すぐにファムとハリルが、マリナカリーンとマリの護衛につく。しかし、それは間に合わなかった。気が付くとマリの姿が消えていたのだ。
「しまった、ホワイトゴーレムじゃ! マリアンヌをさらわれたぞ!!」
マリナカリーンは、マリを抱えて逃走する白い影を追った!
「止まれ! 止まるのじゃ!」
だが人間サイズのホワイトゴーレムは、彼女の命令を無視して遺跡の中を走って行く。そして、いちばん奥まった部屋の中に入ったのだ。マリナカリーンたちもそこに踏み込んだが、中には誰もいなかったのである。
「くそっ! 油断した」
「それにしてもどこに消えたんだろう? ここには隠れる場所なんてないのに」
ファムとハリルが注意深く調べて回る。
「瞬間移動を使われたな」
そう言うのはウェグだ。
「空間に移動した跡が残っているし、マリとゴーレムの匂いもそこで消えている」
「痕跡からマリを追うことはできぬか?」
「ファム、残念だが俺の能力では無理だ」
マリを探す三人を見ながら、マリナカリーンは頬に片手を当て考えていた。
「ホワイトゴーレムは瞬間移動などできぬ。誰かが空間の門を開け、それを使って移動させたのじゃろう。それに、あのゴーレムはわしの命令を無視した。母の親衛隊なら命令無視などありえぬし、別の機体じゃ。マリアンヌを誘拐した犯人はルーン帝国の技術を使えるのか―――これはかなり厄介じゃな」
「どうする、師匠!?」
「コマリに追跡させるしか手がない。あの子ならマリアンヌの居場所がわかるし、その場所へ瞬間移動できる」
コマリはゴブリアード王国にいる。四人はウェグの瞬間移動を使い、そこへ飛んだのだ。
◇*◇*◇
ゴブリアード城に着いたマリナカリーンは、すぐにコマリを探した。幸い、彼女はローラに抱かれて王の間にいたのだ。
「まぁ、まぁ、まぁ。お母さまー、そんなに慌ててどうされたのです?」
「すまぬがローラに説明してる暇がない。
―――コマリよ、マリアンヌが今どこにおるかわかるか?」
その問いにコマリは「あい」と答えた。
「では、その場所にわしらを連れて行くのじゃ」
だが彼女は首をかしげる。
「ん~~。ママかられんらくがあったけど、こなくてもいいって」
「どういうことじゃ?」
「ママはねー、ごはんをたべてる。おいしー、おいしーって。だからくるひつようないって」
緊張感のないコマリの答えに、その場の全員がヘナヘナと膝をついた。
「マリアンヌは安全なのじゃな?」
「あい」
「危険なようなら、すぐに助けに行くのじゃぞ」
うなずくコマリを見て、マリナカリーンもようやく落ち着いたのだ。
「お母さま、本当に大丈夫でしょうかー?」
「コマリがこう言うのじゃから問題あるまい。むしろ、下手に押しかけると不味いことになるやもしれぬ。ここはマリアンヌに任せるのがいちばんじゃろう」
「そうですねー。あの子も聖女としてしっかりしてきましたしー、危険が迫ればコマリが黙っていないでしょう」
ローラの言葉を聞いて、ファム、ハリル、ウェグも、ようやく安堵のため息をついたのである。
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